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第1話:転勤先ではじめての出会い



 思い起こせば、二年前の春。


 転勤でこの土地へとやって来て。


 引っ越しやら、新しい事業所での仕事やら、慣れないことばかりで。


 休みの日もなんだかんだ忙しく。


 趣味の時間を持てなくなってたんだけど。



 やっと、少し落ち着いて来た、ある日。


 趣味の『野鳥撮影』のために。


 鳥さんの居そうな場所を探して。


 バイクで、走り回ってみる。



 そう。


 わたしの、趣味。


 『野鳥撮影』


 野鳥……鳥さんたちの姿を追って、カメラで撮影。


 高校時代、偶然に出会った野鳥、そして野鳥の写真を撮ってるカメラマンさんたち。


 すっかりと野鳥の魅力にハマってしまって。


 仲良くなったカメラマンさんたちと一緒に、鳥さんを追っかけ続けてたりする。


 あと、『バイク』も、趣味と言えるかもしれない。


 仲間と撮影旅行を兼ねたバイクツーリングなんてのも、よくやる。



 それが、ひとり、転勤。



 転勤先の、慣れない土地。


 どんな鳥さんに出会えるか?


 あらかじめ、マップアプリで、近隣の、それっぽい場所をリサーチして。


 カメラ機材を積んだバイクを走らせて、実際に行ってみるも、なかなか、良い場所は、無く。


 詳しい人に聞けば、すぐに穴場なんかがわかるんだろうけど。


 職場には同じ趣味の人は居なくて。


 かといって、人がいっぱい居るような有名なところは、ちょっと怖いしなぁ。


 ネットで調べて出てくるような『野鳥撮影スポット』は、一般に知れ渡っていて、人が多い。


 ひとりか少人数で、のんびりできるところの方が、いいなぁ。


 なんて、思いながらバイクをあちこち走らせていたらば。


 たまたま、偶然。


 なんとなく、それっぽい場所を、発見。



 神社の近くの狭い道を下った先。


 細い道路の左右に広がった、葦原(あしはら)


 湿地帯。


 葦原の向こうには、それなりに大きな森。


 なんとなく、タカさん……猛禽類が、居そうな、雰囲気の場所。


 湿地の方にも、色々と潜んで居そうな気配。



 バイクを邪魔にならない路肩に止めて。


 ヘルメットを外して。


 カメラは……とりあえず様子見だし、出さなくてもいいか。


 周りを見渡しながら、少し、道路上を歩いてみると。


「あ」


 ひと。


 そこそこ大きなカメラを手に持った、人。


 風貌からして鳥撮りさんとおぼしき、女性。


 近くに居る……かもしれない……鳥さんを驚かさないように、そおっと、近付いて。


「あのぉ、お邪魔します。なんか出てますか?」


 いきなり声をかけられた女性は。


 一瞬、びくっとして、でも、わたしの方を向いて。


「あ、ああ、こんにちは」


 向こうも、わたしの風貌から、わたしが鳥撮りだと悟ってくれたみたいで。


 風貌と言えば、その女性は、わたしよりもかなり年上の方の、模様。


 その女性が答えてくれる。


「さっき、ハイタカが横切ったくらいですねぇ。あと、葦の中にオオヨシキリが……あっ!」


 え?


 女性が、わたしの背後の上空を見上げつつ、叫びながら。


 上空にカメラを向ける。


 とっさに。


 わたしも振り返って、彼女が見上げる方を見やると。


「オオタカさん!?」


 お腹の白さ、大きさ、なんとなく、オオタカさんっぽい感じ。


 彼女は、ファインダーを覗きながら。


「ですね、オオタカ、成鳥みたいです!」


 わたしは、上空を舞うオオタカさんを見上げながら、背負ったカメラバッグを降ろして。


 手探りで、カメラを取り出そうとするけど、あせって上手くいかない。


 あぁ、カメラ、出しておけばよかった!


 くぅううっ!


 カシャカシャ、と、彼女のカメラがシャッター音を響かせる。


「あぁあ、行っちゃう行っちゃう、待ってぇ、行かないでぇえええ戻ってきてぇえええ」


 オオタカさんは上空を一度旋回した後、森の向こうへと飛び去ってしまわれました。


「あぁあ、行っちゃったぁ……撮れました?」

「はい、ちょっと遠かったですけど、一応……ほら」


 女性はカメラの液晶に今撮ったばかりの写真を映して、わたしに見せてくれる。


「おぉお」


 上空を舞う、オオタカさんを、下から見上げる形なんだけど。


 オオタカさんが、下を向いた瞬間。


 その表情も含めて。


 広がった翼。


 低速飛行しているため、尾羽もふわっと広がって。


 いつ見ても、カッコイイなぁ……。



「あなた……カメラ、出してなかったんですね……もったいない」


「あ、はい。まさかこんなすぐに来るとは思ってなかったんで……」


 カメラを準備してない時に限って、鳥さんが現れる。


 野鳥撮影あるある、ですね。


「でも……あなた」


 はい?


「あなたがオオタカさんを連れて来てくれたみたいね」


 そう言って、にっこりと、微笑む女性。


 背格好は、わたしとさほど変わらず。


 髪型は、ベリーショートで。


 夏とは言え、長袖のブラウスに、カメラマン用の薄いベスト。


 パンツはジーンズで、ほぼ、わたしと同じような格好。


 そして、その笑顔が。


 とっても、可愛らしい。


 お歳は。


 わたしよりは上だろうことはわかるけど、実際の年齢は、全く、不明。


 うん。


 女のわたしが言うのもナンだけど、女性の年齢は見た目じゃわからんですよね。


 これで実は年下ですとか言われたら、ちょっとヤバい?


 そんな彼女が。


 さらに、にっこりと微笑んで。


「あなたは幸運の女神さん、かしら?」


 そう、わたしに告げて。


「あぁ、いやぁ、そんな良いものじゃないですよ」


 苦笑い。



 それが。


 わたしと、彼女……祥子さんとの、はじめての、出会い。


 だったわけ、ですね。






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