第13話:告白と告白の返事
ならうより、慣れるん。
とは、よく言いますが。
言わない?
習うより、慣れる。
倣うより、成れる。
どっち?
いや、どっちでもいいんですけど!?
そんな、不可思議な想いにも、取り憑かれてしまいそうになるくらい。
慣れてしまった感もある。
お友達、とは、いえ。
女性同士、とは、いえ。
ラブ・ホテルに、宿泊って。
当然のごとく、ベッドは、ひとつ。
大きなベッドに、女性ふたり、並んで、眠る。
あ、いや、まだ、眠っては、おらず。
そろそろ、眠ろうか、と、横になっている、だけ。
大きいベッドなので、そこそこ、距離を置けるんだけど。
結局。
「んー、やっぱり、ヒトの温もりって、温かいわねー」
「そりゃ、温もりって言うくらいですから、温かいんでしょうねぇ……」
うん。
ニホンゴ、ムズカシイ、デース。
行間と言うか。
言葉の裏にある、情景。
思慕。
そんなものを、くみ取り、拾い上げる必要が、あったりなかったり。
祥子さんがここで言う『温かい』は、物理的な温度の話では、無く。
心根。
心情的な。
そう。
肌と肌を合わせて。
そこから伝わる、物理的な、温度。
それが、心の温度へと、変換されて。
心がポカポカするような、幸せを感じている、と、いう、意味。
わたしも、感じている。
伝わって、来る。
物理的に。
祥子さんが、わたしの左腕を、ふんわりと抱きかかえて。
抱き枕代わり、かな?
でも、わかる、かも。
ずっと、ひとりだって言うし。
わたしも、ひとりっ子で、幼い頃に両親と一緒に眠っていた時期はともかく。
物心ついた頃から、ずっとひとりで寝ていた、し。
ひとを感じて。
ひとに触れて。
眠るのが、こんなにも。
心が落ち着いて、ぐっすりと眠れるようになるなんて。
おそらくは。
幼い頃の、両親と一緒に眠っていた頃の、記憶。
それが、心にも、身体にも、しっかりと記憶されていて。
「ねぇ、もうちょっと、もうちょっとだけ、くっついても、いい?」
え。
「い、いいです、けど……?」
もうちょっと、って、どこまで?
「へへー」
そっと。
祥子さんの左腕が。
わたしのお腹あたり、少し、上の方。
みぞおちあたり? 胃のあたり?
いわんや、お胸の、下。
手を置くだけで、なく。
ゆっくりと、じんわりと、やんわりと。
「ひゃっ、く、くすぐったいですよ、祥子さん?」
「えへへー」
手のひらが、指先に変わって。
『の』の字を、描くように。
「ねぇえ、永依夢ちゃん……」
「は、はい? 祥子、さん?」
「好き」
は?
「好き」
はい?
「好・き」
…………。
「わたしも、祥子さんの事、好きですよ?」
「んー、ちょぉっと、違う、かなー?」
「何が、違うんです?」
のの字が、少しゆるやかに、なって。
祥子さんの頭が、顔が、わたしの顔に近付けられて。
祥子さんの口元が、わたしの耳元に。
その、耳元で。
「……、……、……、……、……、きゃっ」
最後のきゃっ、が、突然大きくなって。
びっくり。
だけど、その前の。
小声で、小さく。
ささやくように。
ひっそりと。
でも、確かに。
『ア・イ・シ・テ・ル』
あいしてる。
あい、してる。
愛、してる。
ぽかーん。
言葉としては、理解できている。
ちゃんとした日本語として。
ただ、その、意味は?
行間に隠された、本当の、意味は?
いや、っていうか、五文字。
改行なんて、在りは、しない。
行間は、存在しない。
だから、行間の意味なんてものも、無い。
と、言う事は。
言葉の意味、そのもの、ずばり。
と、言う事は。
と、言う事は。
と、言う事は。
と、言うことはぁあああああああっ!?
「ちょっ! しょっ! 祥子さんっ!? ななな、何を」
「好き、愛してる。永依夢ちゃん、わたしと真剣にお付き合い、して下さい」
のの字は、無くなって。
わたしを愛すると言う、祥子さんの腕が、お腹をぐるりと超えて。
ぎゅっと。
でも、息苦しいほどでは、なく。
やさしく、ふんわりと。
わたしを抱きしめて。
あぁ……。
なんか。
こうなる予感は。
あったか、なかったか。
あったんだよなぁ、なんとなく。
わたしの、中にも。
わたしの、心の、奥底、にも。
きっと。
若い頃に感じた。
あの、胸の奥深くから、湧き上がって来る、感情。
抑えきれない、悲痛な、叫び。
あの時、わたしは。
それを、何度となく、吐き出そうとして、飲み込んで。
こらえきれなくなって、暴走して。
でも。
真夜中……明け方。
街を彷徨うようにして、辿り着いた、公園。
そこで、出会った、鳥さん。
野鳥。
オオタカさん。
それに、鳥撮りの、仲間たち。
そんな、野鳥や鳥撮り仲間に救われて。
わたしの、初めての恋は。
苦い思い出に、変わった。
あの時。
わたしが『彼』に、告白していたら?
『彼』は、何と思っただろう?
今のわたしと同じように。
戸惑い、焦り、挙動不審に、なっていたの、かな?
でも。
そう、しなかった。
あの時の、わたしを。
今は、褒めてあげたい。
あの時『彼』に告白をしなかった、から。
今の、わたしが、在る。
今、この状況が、在る。
野鳥撮影に、ハマって。
鳥さんや、鳥撮りさん仲間と、仲良くなって。
でも、転勤で、別れることになったけど。
今、こうして。
新しい出会いが、あって。
その女性に、惹かれて。
その女性から、告白、されて。
嫌な気持ちは、無い。
むしろ。
「よろこんで」
こうして。
わたしは。
わたしたちは。
正式に、お付き合いを始めることとなったの。