第9話:わたしの名前は河崎永依夢/カワサキエイムです
「そう言えば、河崎さんって、下のお名前は? わたしは祥子、米田祥子よ」
唐突に。
早朝、ホテル……ラブなホテルから、出て。
朝食を終え、ひと息ついたところで。
祥子さんが、訊ねて来る。
「あぁ、そういえば、名乗ってませんでしたっけ?」
すっかり。
苗字でコト足りてたので、下の名前まで、告げてなかったか。
今みたく、聞かれなければ、ね。
「祥子の祥は、しめすへんに、ヒツジ。めでたい子、よ」
ふむふむ。
そして。
名前、と、言われると。
「わたしは……」
若干、言い淀んで、しまう。
その正体、由来を知るまでは、迷いなく答えられていたけれどー。
「わたしは、永依夢って言います。永遠に依るところの夢、で、エイム、です。」
「えいむ……ちょっと変わった感じするけど、うん、なんかいい雰囲気ね。由来とか、あるのかしら?」
あはは。
それ、聞かれます、か?
聞きますよねぇ、やっぱり。
「ええっと、ですねぇ……」
端的に言えば、両親が自分たちの趣味から付けた!
ってのが、答えなんですが、どんな趣味? って、もちろん聞かれるので。
「両親の趣味が、サバイバルゲームなんですよ」
「さばいばるげーむ?」
「あー、おもちゃの鉄砲……エアガンって言うんですけど、それで撃ち合うスポーツなんです」
「ああ、迷彩服着て、森の中で戦争ごっこみたいなのするやつ?」
あ、それ。
戦争ごっことか、両親が聞いたら、大激怒。
サバゲは知力と体力、戦術と技術のスポーツだ、と。
お怒りになるでしょう。
今、ここには居ないので、セーフ。
「そうそう、そんな感じのやつなんですけどね」
「ふむふむ」
「そのサバイバルゲームが縁で結婚したくらいなんですよねぇ」
「へええ、そういう出会いもあるんだ」
しかも、仲間じゃなくて、敵同士だったっていうんだから、何がどうしてそうなった感。
「で、生れた子供……わたしにも、その関係の名前を付けたいなーって、思ったらしくって」
「エイム、って、そういうのに関係してるの?」
はい、もう、がっつりと……。
「鉄砲で標的を狙う動作の事を、英語で『Aim』って言うらしいんですよね、これが……」
「ほぅほぅ、そうなんだ……あ、でも」
気付かれましたか、ね?
「カメラで……照準器で鳥さんを狙うのも、エイムって事かしら?」
「はい、おっしゃる通りで」
「あはは。なんか運命的じゃない、すごく素敵でとっても良いお名前ね!」
笑われておられます、が、が、が。
しくしく。
まぁ。
わたし自身。
この名前は、もともと気に入ってたし。
「永依夢さんが鳥さんを捕捉して、撮る!」
はい、まさにその通り。
確かに運命的、かもしれず。
「そうそう、実際、鉄砲で標的を狙う動作って、カメラで被写体を狙う動作とほとんど同じなんですよ」
「そう言われてみれば、そうね」
はい、なので。
「両親、特に母から、拳銃とかライフルの構え方、みっちり仕込まれました……」
しかも、スパルタ!?
それに、転勤前の鳥撮り仲間の人も、サバイバルゲームが好きらしく。
その人と、両親に連れられて、実際のサバイバルゲームもプレイするハメに。
拳銃の扱い方とかも、覚えさせられちゃいましたしー!?
「あ、もしかして、時々、しゃがみこんで座って撮影してるのとか、そうなのかしら?」
「はい、片膝を立てて、その膝を抱えるように腕を巻き付けて、ってやつですね」
「そうそう、自分の足を三脚か一脚代わりにしてる、すごいなーって見てたわよ。あれって、鉄砲の構え方だったのねー」
「はい、他にも色々……」
バリエーション、豊かな、構え方。
特に、スナイパーだったお母さん。
完全に、地面に寝そべって構えるとか。
写真撮影で、そこまでやる!?
って、思ってたけど、実は、地面をウロウロしている鳥さんを、真横から撮るには、最適な構え方だったり、する。
それに、真上に居る鳥さんを撮るにも、仰向けに寝転んでカメラを顔にのっけて撮ると、すごく楽だったりする。
「なるほど、今度わたしにも教えていただこうかしら?」
「あはは、そうですね。でも基本、手持ちの時の構えなので、三脚使ってる場合はほとんど意味ないです、けどね」
「あ」
はい。
そうなんですよ。
「まぁ、それでも、手持ちの時には有効なんでしょ? いざと言う時のために覚えておいてもいいと思うわー」
「あはは。ですねー」
なーんて。
「よろしく、ね。永依夢さん」
「はい、こちらこそ、よろしくお願いします。祥子、さん」
そんな感じで。
苗字では、なく。
下の名前で呼び合うように、なった。
ふたり。
さらに、急速に……。
カクヨム版に追いついてしまったので、次回から更新間隔が、少し開きます。
(1~2週に、1本程度の予定)