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コンビニエンスストア

作者: 雉白書屋

 コンビニエンスストアとは、その名のとおり、便利さを売りにする小さな箱舟だ。外から見ればただ明るく活気に満ちているようだが、足を踏み入れるとそこには小さな宇宙が広がっている。

 棚に並ぶ商品たちは、まるで自分こそが最高の選択であるかのように客を誘惑する。その洗練されたデザインは、ある人にとってはスーパーモデルのように映るだろう。しかし、私にはその過剰な自己主張がこう叫んでいるように聞こえる。『私たちを買って! 無駄な消費を続けて!』と。

 彼らはただの炭水化物と糖分の塊に過ぎず、人々の健康を少しずつ奪っている。それでも人々はそれを買い、食べ、そして後悔するのだ。これが現代社会の食のサイクルである。


 私の家の近くにも、小さなコンビニがある。今、店内で一人の男が棚の前で立ち尽くしている。彼はカップ麺を手に取り、戻し、また手にとっては戻す。それを繰り返す彼の目は、遠い星を見つめる天文学者のように、何かを探しているかのようだった。もしかすると、彼はカップ麺のラベルに宇宙の秘密を見出そうとしているのかもしれない。もしも故郷の星を見つけたら教えてもらおう。

 また別の男はどのスナック菓子を買うかでまるで人生をかけた決断をするかのように真剣な表情をしていた。そして、ついに決断し、最も健康に悪そうなスナック菓子を手に取り、満足げな笑みを浮かべた。彼はその選択に誇りを持っているようだった。

 彼と目が合い、私は軽く頷いた。彼も少し照れたように頷き返してきた。私は彼に近づき、声をかけた。


「それ、本当に買うんですか?」


 彼は私に話しかけられたことに少し驚き、戸惑いを見せながらも、答えた。「ええ、たまには――しないとね」私にはその言葉が『自傷行為』と聞こえた。

 また、ある男も何かの学者のように、じっと、レトルトカレーの成分表を見つめていた。

 私が見ていることに気づいた彼は言った。


「君は知っているかい? このカレーには宇宙の真理が秘められているんだ」


「どういうことですか?」


 私が興味を抱いて尋ねると、彼は神妙な面持ちで続けた。


「このカレーは、時間と空間を超えた存在なんだ。製造からここに来るまで、多くの人の手を経て、無数の物語を紡いできた。そして今、私たちの前にある」


「それはすごいですね」


 彼はカレーを棚に戻し、さらに続けた。


「けれど、このカレーを手に取る人の大半はそのことを理解していない。そして、たとえ理解したとしても、食べ終えたときには、すべて忘れてしまう。カレーはただの消費物として終わりを迎え、物語は途切れる。一つの星が終わるようにね」


 私は少し悲しくなった。そうか、私たちは日々、宇宙の物語を消費しているのか。

 また、あるスーツ姿の女性はサラダとデザートを手に取り、どちらを買うか天秤にかけている。彼女の心の中では、健康と快楽の激しい戦いが繰り広げられているようだ。最終的に彼女はデザートを手に残し、サラダをそっと棚に戻した。国境での戦いは終わり、兵士は傷を抱えて帰還する。レジの神父が彼女を咎めることはなお。ゆえに罪と向き合うときは自分一人なのだ。体重計が待つ洗面所は、彼女の罪の告白室となるのだろうか。

 酒のコーナーでは、ふわふわの巨大な猫の皮を着た男女が寄り添っている。どうやら、彼らは番いらしい。独特な世界観を共有できる相手がいるというのは、幸せなことだ。

 レジには、いつも無表情な店員が立っている。彼は、おそらくこの世界で最も退屈な仕事をしている。彼の仕事はバーコードをピッと鳴らし、「いらっしゃいませ」と「ありがとうございます」を繰り返すだけである。その目は、まるでこの世の虚しさを見抜いた賢者のようだ。彼は知っている。この世界がいかに無限の消費のループに陥っているかを。彼もまたループの体感者なのだ。

 そんな彼にも夢があるかもしれない。だが、悲しいことにその夢は日々、コンビニの冷蔵庫の中で凍結されているのだ。

 コンビニという場所は面白い。ここを訪れ、去っていく客たちにはそれぞれドラマがある。今、また一人の……おそらく男が店内に入ってきたのだが、その頭に被っているものは誘惑を遮断する装置らしい。男は商品に目もくれず、一直線にレジへ向かった。


「金だ。金を出せ」


 男の物言いは、焦燥と無遠慮に満ちていた。事情を察した私は例のカップ麺の彼と目配せを交わし、二人でその男に近づいて肩を叩いた。


「なんだ、お前ら。邪魔を、え、あ――」


 驚くべきことに、店員は目の前で起きたことにまったく関心を示さなかった。彼は私たち二人を前に「袋はご利用ですか?」と尋ねた。もしかすると、彼はループによって心を失ったのではなく、もともとロボットだったのかもしれない。

 私たちは首を振った。袋ならすでに持っている。そして、その中には、消化待ちの異星人が入っているのだ。


「あ、あ、お前ら、な、なん……」


 声がして、ふと振り返ると、そこにはカレーの哲学者が立っていた。もう誰も店内に残っていないと思ったが、そういえば、彼はまだ店を出ていなかったな。今までトイレにでもいたのだろうか。生体スキャンにより、彼の服の下にいくつかの商品が隠されていることが判明した。我々の星のアウンタトレルの習性によく似ている。腕にある注射痕といい、興味深い。


 私たちは何も買わずに店を出た。すでに胃袋は満たされていた。

 しかし、また数日後には誘惑に負けて、このコンビニを訪れるだろう。他の人々と同じように。ああ、深夜のコンビニは実に魅力的だ。地球人よ、あなたたちの『便利』は実に利用しやすい。

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― 新着の感想 ―
街角に24時間佇んでいる『銀河空間』での人間ドラマを見せつけられ、私もその内側に入り『客Z』の役を演じてみたくなりました。カレー食品について語られる時間は貴重な物でした。
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