表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

K

作者: kazuki

 週末の大通りを黒猫が歩く。御自慢の鍵尻尾を水平に、威風堂々とー。

 孤独。黒猫は別に、それを寂しいことだとは思っていない。いや、初めこそは寂しかったのかもしれないが、時間が経つにつれ忘れてしまった。人を思いやることなんて煩わしいと思い、寧ろ孤独を望んでいるくらいだ。


闇のように黒いその体を見て、人々は黒猫を悪魔か何かとでも思っているのだろうか。石を投げられる黒猫の体には、傷が絶えない。

そんな黒猫のもとに、1人の男が近づいてくる。

「今晩は。」

そういうとその若い絵描きは黒猫を抱き上げた。

「素敵なおチビさん。僕らよく似てる。」

黒猫は逃げた。引っ掻いた。もがいた。孤独という逃げ道に走ろうとした。生まれて初めて触れた人の優しさを、黒猫は信じることができなかった。それでも変わり者は付いてきた。どれだけ逃げようと、どれだけ足掻こうと、決して黒猫を離しはしなかった。


冬。黒猫は絵描きとの2度目の冬を迎えた。

「マイフレンド。お前の名前はホーリーナイトだ。"黒き幸"。ホーリーナイト。」

絵描きのスケッチブックは闇のようであった。

黒猫は初めての友達にくっついて甘えていた。孤独という逃げ道を塞いでくれた友達に。


ーバタンッ!

絵描きは倒れた。貧しい生活に耐えることができなかった。最後の手紙を書くと彼はこう言った。

「走って。走って。こいつを届けてくれ。夢を見て飛び出した僕の帰りを待つ恋人へ。」

冷たくなった名付け親を前に、黒猫は胸が締め付けられた。しかし黒猫には、その感情が何かわからなかった。


「俺みたいな不吉な黒猫の絵が売れるわけがない。それでもアンタは俺だけ書いた。だからアンタは冷たくなったんだろ?手紙は、確かに、受け取った。」

雪の降る山道を黒猫が走る。今は故き親友との約束を、その口に咥えて。

ー見ろよ、悪魔の使者だ!

石を投げる子供。

「なんとでも呼ぶがいいさ俺には、消えない名前があるから!!」

親友は彼を聖なる夜と呼んだ。優しさも温もりも全部詰め込んでそう呼んだ。忌み嫌われた黒猫は、温かさに触れて人を愛することを知った。そんな親友を亡くした黒猫の胸に浮かんだのは、悲しさでも寂しさでもなく、固い決意だった。

「俺にも意味があるとするならば、この日のタメに生まれてきたんだろう?どこまでも走るよ!」


彼は辿り着いた。親友の故郷に。恋人の家まであと数キロだ。

走った。走った。既に満身創痍だ。立ち上がる間も無く、罵声と暴力が彼を襲う。

「負けるか。俺はホーリーナイト。」

千切れそうな手足を引きずり、彼はなお走った。

「見つけた!この家だ!」


ー手紙を読んだ恋人はもう動かない猫の名にアルファベット1つ加えて庭に埋めてやった。聖なる騎士を埋めてやった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
切ないですね……。
2024/10/15 22:21 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ