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第八話:高次元の戦い

 アルスがいきなり、ノルンに攻撃を仕掛けた。

 その手には黄金の剣が握られており、すでに上段に構えられている。

 

「…なにっ!?」


 俺はアルスの速度に驚愕する。

 速すぎる。これがランクSの力か。

 レベル1であるとはいえ、その才能は本物だ。俺がどうこうできる相手ではない。


 俺が止める間もなく、ノルンへと剣が振り下ろされる。


「ノルン、避けろっ!」

 

 ノルンは太陽の色に輝く刃を正面から見据えて、そして笑った…。

 辺りに暴風が吹き荒れる。


「戯れはおよしなさい」


 アルスの剣は、ノルンに届く手前で止まっていた。

 いや、止められたという表現が正しい。


 巨大な羽根、そして翡翠の髪と瞳を持つ妖精の美女が、ノルンとアルスの間に立ちはだかっていた。

 彼女の生み出した風が、アルスの剣を正面から受け止めている。

 バチバチと、黄金と翡翠が拮抗していた。


「…まったく気が付けなかったっす」


 衝撃に揺れる亜栗色の髪の向こうで、アルスが焦りを押し殺した声を発する。

 それに呼応するように、妖精が荘厳な雰囲気を纏って口を開く。


「…もう一度繰り返します。戯れはよしなさい、小さきものよ。もし貴方が本気ならば、こちらも貴方の主人の首を跳ねなければなりません」


 刹那、俺の喉元に風の刃が付きつけられる。

 それを見たアルスが必死に妖精の守りを打ち崩さんと力を入れるが……。


「アルス、剣を下ろせ」


 俺はそれを止めた。


「で、でも」

「命令だ。剣を下ろせアルス。ノルンは俺の先輩帝王だ。良くしてもらってるし、個人的にも恩があるから敵対したくない。……それに認めたくはないが、この妖精さんに俺達が勝てる可能性は一つもない」

「…了解っす」


 直接刃を交えていない俺ですら、美女の強大な力に鳥肌が立っている。全く次元の違う強さだ。

 表面上は余裕を装っていたが、アルスは俺よりも如実に実力差を感じただろう。


「賢明な判断です。しかし、その心意気と思い切りの良さは評価します。これからも貴方の主人を守るといいでしょう」


 アルスが剣を引くと、妖精も俺の首元に突き付けていた風の刃を霧散させた。

 …少し冷や汗が滲む。もし彼女が本気だったら、俺もアルスもここで殺されていた。


 強大な力を持つ妖精が、俺に笑いかける。


「はじめまして【芸帝】プルソン様。私は【運帝】ノルン様の側近が一人、ローゼと申します。以後お見知りおきを」

「こちらこそはじめまして。…とはいっても、最初から見てたんだろ?」


 こんなことだろうとは、まあ思っていた。

 妖精が意外そうに目を見開く。


「あら、どうしてそう思われるので?」

「ノルンの立場になってみれば分かることだ。いくら新米とはいえ、他の帝王と一対一、もしくは一対二になる状況だ。護衛はつけるに決まってる。それに配下がそんな状況を許すわけがないだろう?」


 俺でもきっとそうする。ノルンはそういう備えを怠る間抜けでないからこそ、帝王として生き残ってこれたのだろう。 

 俺の言葉に、妖精は満足げにうなずいた。


「仰る通りです。驚きましたね、まさかここまで頭の回る帝王が生まれるとは。それにそちらの子も、レベル1とは思えない強さでした。…ああ、ノルン様、これで我々の悲願も…」


 そう笑いかけた妖精の表情が凍り付く。


「ローゼ」

 

 ノルンが短く、そして確かな力の籠った声で妖精ローゼの名を呼ぶ。不覚を悟った妖精が、跪いて頭を垂れた。


「…失礼しました。出過ぎた真似を」

「大丈夫。キミがボクのことを考えてくれてるってことは、分かってるよ。ありがとう」


 そこにいたのは、いつものノルンだった。

 …正直、俺も驚いた。ローゼが何かを言いかけた瞬間、今まで聖母のように優しかったノルンの纏う空気が、何か得体の知れない者に変化したからだ。

 ノルンにも俺に知られたくない秘密があるのだろう。ひょっとしたら、今ローゼはその地雷を踏み抜きかけたのかもしれない。


 「もったいないお言葉にございます」


 ノルンの言葉に、ローゼはさらに深く頭を下げる。

 それを見届けたノルンは、一つ深呼吸して息を整えると、それで話は終わりとばかりに話題を変えた。


「さて! それじゃあ晴れてプルソンにも配下が生まれたことだし、そろそろ解散にしよっか!」


 いきなりの打診だが、正直ありがたかった。


「…だな。色々覚えることもあるし、【帝王録】もじっくり眺めてみたい。それにすげえ疲れた」


 どうしてか分からないが、体が凄く重い。

 ノルンは何やら訳知り顔で微笑む。


「EPの大量放出は疲労を伴うからね。今日はゆっくりと休むこと。それと、しばらくはボクがキミたちの面倒を見てあげる」

 

 ノルンの言葉に、俺は首を傾げる。


「良いのか?」


 帝王は自らの【領地】を作り、それを運営することで生きていく。

 俺は先ほど、それをノルンから教わったばかりだ。いつまでも彼女の世話になっていては、俺自身帝王として成長できないような気がした。


 しかしノルンは首を横に振る。

 

「あと三ヵ月はボクがキミ達の面倒をみてあげる。これは帝王に与えられた新米を育てるっていう義務なんだ。だから気にしないでいいよ」


 彼女の言葉に驚く。

 そんな決まりがあるとは知らなかった。


 つまり、俺はこれからノルンの庇護下で力を蓄え、三ヵ月後の【円卓】の終了と共に自立するということになる。やはり【円卓】に向けた三か月間をどう過ごすかで、俺の今後が決まってきそうだ。


 頭の中にメモしていると、ノルンが背後に目を向ける。


「というわけでローゼ、よろしくね」

「…かしこまりました。これから私がお二方のお世話をさせて頂きます。なんなりをお申し付けください」


 ノルンに促されて、妖精ローゼが小さく頭を下げた。

 

「ローゼは側近なんだろ? いいのか?」

「他の帝王がキミの出現に気が付いていないとも限らないしね。一応対策はしてあるけど、ボクの街にも他の帝王の密偵が来てるかもしれないから、護衛っていう意味を込めてローゼが適任なんだ! ほんとうはボクが直接面倒を見てあげたいんだけど、ボクも今は色々忙しいからね」


 色々、というところにノルンが何かしらの問題を抱えていることが伺えた。

 だが彼女の厚意を無下にするわけにもいかず、俺は苦笑で答えるほかなかった。


「…そんな状況なのに、何から何まで悪いな。助かるよ」

「ボクは先輩帝王だからね! これくらいは当然だよ!」


 ぽんと、ノルンが胸を叩く。


「それじゃあ明日からは、EPの稼ぎ方を説明をするよ。ビシバシいくから、覚悟しておいてね」

「分かった」


 帝王として最初の一日は、こうして無事に(?)終了した。

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