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第八話:【円卓】の終わりに

 二つの大きな【戦争】があったが、パーティーは思いのほか和やかな雰囲気で進んだ。

 ルシアと料理を楽しんだ俺は、いつの間にか会場に戻り、料理を楽しんでいたノルンに声を掛けた。


「ノルン。やっと見つけたぞ。今までどこ行ってたんだ?」


 ノルンが栗色の髪を揺らして振り返る。


「やぁプルソン。実は【戦争】の後片付けに手間取ってね」

「終わってから一時間くらいかかったのか?」

「うん、まぁね。……それより、もう体は大丈夫?」

「ああ。せっかくの【円卓】でいつまでも寝てる訳にはいかないからな」


 あの【戦争】は監視されていたのだ。

 俺がいつまでも寝込んで、戦いでのダメージが大きかったと推測されたくない。それよりも余裕をもって勝利したと態度で示す方が、今後何かと動きやすくなるだろう。

 

 そう肩を竦めて見せると、ノルンは得心した顔で頷く。

 それから大きく安堵の息を吐いた。


「そっか。それにしても初めての【円卓】で【戦争】までやるとは、さすがのプルソンだよ。キミが割り込んできた時はドキドキだったけどね」

「いいサプライズだっただろ?」

「はぁ。そういうタイプのサプライズはいらないよ」


 そんな他愛もない会話の後で、ノルンは俺の隣にいたルシアに視線を送る。


「キミが【女帝】ルシアーノだね?」


 ルシアは緊張した面持ちで、静かに頭を下げた。


「はい、【運帝】ノルン様。この度の【戦争】を勝利で終えられたこと、お喜び申し上げます」

「うん、ありがとう。それとキミには個人的にお礼を言いたいんだ。今回はプルソンを止めてくれてありがとう」


 ルシアは五帝同盟に挑もうとした俺を止めた。

 それは見方を変えれば、無謀な突撃をしようとした俺を助けたことになる。

 ノルンはそのことを言っているのだろうが、その言葉に、ルシアはやや苦笑した。


「私は彼を手に入れたかっただけですから、ノルン様が感謝される必要はありません。それに私は彼に救われた身。本来であれば私がノルン様に感謝を申し上げなければならないところです」

「そっか。キミとこうして話すのは初めてだけど、アガレスから聞いた通りとても良くできた子だね。きっとアガレスも、キミのような後継者がいて鼻が高いはずだ」

「恐れ入ります」


 ルシアがどことなく嬉しそうに頬を緩めた。

 彼女にとって【竜帝】の後継者と認められることは、これ以上ない喜びなのだろう。


 互いに挨拶を終えると、ノルンが「さて」と手を叩いた。


「それにしても、二人が無事で良かったよ。あれはまた凄い子が現れたね」


 その言葉で、俺とルシアは大体の事情を把握した。


 どうやらノルンもあの事件を知っているらしい。

 さきほど【竜帝】が【二十大帝】が秘密裏に会議を行ったと言っていたが、ノルンもそれに関する情報を手に入れているのだろう。


 ルシアが神妙な面持ちで頷き、それから俺に視線を向けて来た。


 彼女の考えていることは、大体が想像つく。

 ノルンの考えを聞きたいのだろう。まだ会って間もないルシアではなく、俺が話を切り出すのが普通だ。


 俺はルシアに頷きを返して、再び口を開いた。


「ノルンはティプラーをどう見てる? やっぱり敵だと思うか?」


 率直な意見を求めてみると、彼女は少しだけ試案を巡らせる。

 そしてぽつりと呟いた。


「どうかな。確かに今のところは敵対行動をとってるけど、本当に誰かを殺すつもりがあったのかは怪しいところだね」


 少し予想外な意見が出た。


「あれだけのことをしておいて、俺達を殺す気が無かったと?」


 俺はティプラーの狙いが、ルシア、俺のどちらかだと思っていた。しかしノルンの意見は違うらしい。


 彼女は少し声を抑えて続ける。


「うん。だって考えてみてよ。もし本気ならわざわざ空間を崩壊させたりしないで、力技で倒しにかかるはずでしょ。それができるだけの力がティプラーにはあったのに、わざわざプルソンに助けるチャンスを与えるなんておかしいと思わない?」


 確かに、言われてみればそうだ。

 そもそも最初から、ティプラーの行動にはおかしな点があった。

 まず第一に、俺達を殺すつもりなら、最初にあちらから声を掛けたりしないだろう。気配を消して引き金を引けば、それで終わりだ。


 それに「【女帝】を見捨てろ」という警告も気になる。

 俺に彼女を殺させるわけでも、自分が彼女を殺す訳でも無く、あくまで行く末を俺に委ねた。まるで俺を試すかのような行動だった。


 考え込んだ俺の肩を、ノルンがぽんぽんと叩く。


「ま、結局の所、それは彼女にしか分からない。この段階で決めつけるのは危険だよ」

「ああ、そうだな」

 

 あっけらかんと笑うノルン。 

 その光景に、あの時感じた違和感が脳裏に浮かび上がってくる。


 自然と目が見開き、口をついて言葉が出ていた。


「なあ、ノルンに子供っているのか?」

「ごふっ!!」


 ノルンではなく、隣にいたルシアがワインを詰まらせた。

 むせながら驚きの視線を向けてくるルシア。その意味はよく分からないが、それとは対照的にあっけらかんと笑ったノルンが答える。


「まぁ帝王も子孫を残せるけど、ボクにそういう相手はいないよ。それにしてもいきなりだけど、どうかしたの?」

「いや、そんな大したことじゃない。ただティプラーから感じた気配が、なんていうかノルンに似てた気がしてな」


 さっきノルンの笑顔を見た時のことだ。

 ティプラーの笑みと、ノルンの笑みが重なった気がした。


「へぇ。それが本当なら大変だ」

「ああ。だが証拠は何もない。ただ直感的にそう思っただけだ。でも帝王も子孫を残せるっていうの発見だったな」


 俺の発言に、ノルンがニヤニヤとした笑みを浮かべる。


「プルソンも男の子だね」


 何か勘違いをされている気がして、俺は大きくため息を吐いた。

 そしてその間違いを訂正しようと口を開く。


「そうじゃない。ただティプラーから、もう一つ気配が……」


 だがそこまで言いかけて、俺は口を噤んだ。

 ノルンが首を傾げる。


「気配が、なに?」

「……いや、何でもない。忘れてくれ」

 

 ノルンの問いに、俺は首を横に振った。


 正直、あまりにバカげた仮説だ。

 なんの根拠もない段階で、それをノルンに打ち明けるのは憚られる。


 ゆっくりと息を吐いて頭の中を整理する。


「とにかく変なことを聞いて悪かったな。それともし、俺の仮説が正しいと分かったら、その時はノルンにも共有するよ」

「分かった。その時を楽しみに待ってるよ」


 ノルンは快く、俺の言葉を受け入れてくれる。

 そして隣で息を整えているルシアに目を向けた。


「それよりプルソン。いつまでも女の子を一人にさせちゃダメだよ。そろそろ【円卓】を締めるダンスが始まる。二人で踊ってきたらどうだい?」


 思えば【円卓】が始まってから、ずいぶんと時間が経過している気がする。

 情報収集、他の帝王との会話、【戦争】などで忙しかった為、正確な時間は分からない。しかし会場ではすでにテーブルが撤収され、踊るに相応しい場所が設けられていた。そこかしこから帝王たちが集まり、会場中に優雅な音楽が響き始めていた。


「ノルンも踊るか?」

「誘いは嬉しいけど遠慮しておくよ。【二十大帝】は全ての帝王の頂点に君臨している。そんな者が誰かと踊っているところを見たら、周りはどう判断するかな?」

「戦力拡張、関係構築……どちらにしても良くは思わないだろうな」

「そういうことさ。それに……」


 ノルンの目がルシアに向く。

 俺とルシアが揃って首を傾げると、ノルンは「何でもない」と呟いて微笑む。


「それじゃあボクは行くから、またアルブヘイムでね。ルシアもいつか来てくれると嬉しいかな」

「は、はい!!」


 名前で呼ばれて、ルシアが背筋を伸ばす。

 その様子に苦笑して、俺は彼女の手を取った。そしてノルンに向き直る。


「分かった。それじゃ踊ってくるよ」

「うん。行ってらっしゃい」


 ノルンに手を振って、俺とルシアはダンス会場に向き直る。


 長く、大変な一日だった。

 これでようやく、初めての【円卓】が終わる。


 【円卓】が終われば、俺の生活はがらりと変化するだろう。

 この三か月間はかなり忙しかったが、それ以上の日々が待っているかもしれない。


 不安もある。

 しかし、それ以上に楽しみだ。

 自然と口元が綻ぶ。それを見たルシアが口を開いた。


「プルソン、ずいぶんと楽しそうね?」

「まあな。これから大変だろうけど、新しいことに挑戦できるのが楽しみなんだ」


 【領地】の作成と運営、その他の帝王達との関わり、戦力の拡大など、やることは山積みだ。


「そうね。【領地】の運営は大変だけど。それに見合った面白さがあるわ」


 彼女にも、この気持ちに覚えがあるのだろう。

 何か懐かしいものを見る目で笑ったルシアの手を握り、俺は一歩を踏み出す。


「それじゃ、景気付けに踊るか」

「そうしましょう。ちゃんとリードしてくれるのよね?」

「【芸帝】だからな。踊りには自信がある」


 俺が軽口を叩くと、ルシアがやれやれと苦笑して横に並ぶ。

 そして音楽が鳴り響く光のステージに、俺達は二人揃って登っていくのだった。

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