第七話:話し合い
とりあえず、俺はルシアの隣に座る。
対面には【竜帝】アガレスと【星帝】オリアスが座った。二人が共に強者であることも相まって、凄まじい威圧感だ。
【竜帝】は俺達が席に着いたことを確認すると、話を進めた。
「ではさっそく話に入るぞ。ワシはティプラーと名乗った少女を知らぬが、それはお主らも同じだろう。だが先の話によれば、【芸帝】はあの少女がもっておった武器を知っていたそうだな? そのことについて少しだけ聞いても構わぬか?」
突然の言葉に、俺はおもわず顔を顰める。
知識は力だ。
ティプラーが持っていた武器は、将来的に見れば俺にも作成可能な武器でもある。その情報を無条件で明かすことができるほど、俺はお人好しではない。
「…この知識は、俺にとって力そのものです。それを安易に提供することができないことは、ご理解いただけますか?」
「うむ、その通りであるな。知識は力、ワシもそれは分かっておる。そうじゃな……」
俺の言葉に、【竜帝】は少し考え込む。
そして小さく指を鳴らした。
「これをやろう」
例の如く、ひらりと一枚の紙が手中に降りてくる。
そこに書かれていたのは、目を疑う内容だった。
「ワシが保有する軍、それを構成する配下、その他にも機密とされている情報が記してある。それがお主の持つ情報に釣り合うと思ったのなら、話してくれ。もしそれでも足りぬというのなら、望むものを言ってみよ」
その言動から、俺は【竜帝】の本気を感じ取った。
ルシアが目を見開き、オリアスが面白そうに笑う。
軍の情報、それを構成する配下の情報。その価値は計り知れない。
だが【竜帝】はそれを対価としてまで、俺からティプラーの情報を引き出そうとしている。彼はこの件に本気で向き合うと、俺に宣言しているのだ。
俺は受け取った紙を懐にしまってから、一つ咳ばらいをして続ける。
「…いえ、これだけ頂ければ十分です。お話しましょう」
情報の等価交換だ。
【竜帝】が支払った対価は、俺の支払うそれと十分に等価である。
俺は覚悟を決めて、口を開いた。
「ティプラーが持っていた武器は、銃と呼ばれるものです」
「じゅう? 聞いたことのない名だな」
「俺も実際に手に取ったことはありません。ですが形状が独特なので、はっきりと断言できます」
ティプラーは懐に銃を持っていた。
それが俺を驚かせたのだ。
「あれはこの世界の技術では再現不可能な武器です。それに加えて、その様な力に秀でた帝王がいるという話は聞いた事もありません」
俺の言葉に、【竜帝】が納得顔で頷く。
「なるほどな。それでお主も困惑しておったのか。その武器の概要を教えてくれるか?」
「了解しました。【芸具模倣】」
俺は能力を使って、紙とペンを生み出す。
そしてそれを用いて、銃に関する基本的な構造、使用方法、また応用方法などについて説明した。
帝王は賢い。
俺の説明を聞いていた三人、ルシア、オリアス、【竜帝】は、その理論をすんなりと受け入れた。
「…ふむ、なるほど。確かにこの世界の技術水準では再現不可能なものだ。それにワシもその様な力を持っている帝王がいるとは聞いた事もない」
「それは俺も同意見です。ですが実在すると思って行動したほうがいいでしょう」
実際、銃が完成形として俺の前に現れた以上、そう考えて行動する必要がある。
【竜帝】が頷き、そして不可解そうに首を傾げた。
「その通りだな。しかしそうであれば、この技術を保有しているという情報を、あのような勿体ない明かし方をした理由が気になるのう。ルシアーノ、オリアス、お主らはどう思う?」
チラリと視線を向けられて、机上の紙を見つめていたルシアが、腕を組んで呟いた。
「…私は、なぜ自分が狙われたのかが気になります。あれだけの力をもった存在がいるのなら、私ではなくプルソンこそ警戒して然るべきだとは思いますが…」
「ふむ。ルシアーノが狙われた理由も以前不明か。その点についてもおいおい調査を進めておこう。……オリアスはどうじゃ?」
【竜帝】の真剣な目。
しかし、オリアスはそれをひらひらと交わした。
「うーん。僕は何も知らないな」
「ほう、いつもの軽口も無しとは珍しいな。何か予想はないのか?」
オリアスは俺をチラリと見やる。
それからにっこりと笑って、首を左右に振った。
「いーや。今は何もないね」
「……ふむ。それならば仕方あるまい」
そんな呟きを残して、【竜帝】が目を瞑る。
そして無言で険しい表情を浮かべた。
それから数秒、して、辺りに声が響く。
『執り行われていた【戦争】が終了しました。勝者【運帝】ノルン』
誰とも知れない、アナウンスが辺りに鳴り響く。
それと同時に、そこかしこから大歓声が聞こえて来た。
ぞろぞろと、帝王たちが動き出す。
それをチラリと見やって、【竜帝】が席を立った。
「さて、ノルンの戦争も決着がついた。あまり他の者には聞かせたくない話じゃから、話はこれで終わりとしよう。貴重な情報感謝するぞプルソン」
「いえ。こちらこそありがとうございました」
「うむ。それと最後に一つだけ言いたい事があるのだがな……ルシアはワシにとって孫も同然じゃ。その誘いを断ることの意味、お主は分かっておるのだろうな? ワシを敵に回したくはあるまい?」
じろりと、最強の帝王が恐ろしい視線を向けてくる。
俺は冷や汗をかきつつ、小さく息を呟いた。
「…分かっています。元々ルシアの【領地】は見せてもらいたいと思っていましたし、そこまで凄まれなくとも誘いは受けるつもりでした」
「そうか! ははは! ならばよい!」
俺の答えに、【竜帝】は満足げに笑う。
そして俺とルシアの背中を押した。
「さて、それではルシア、プルソンよ。ゆっくり食事でも楽しんで来ると良い」
「それなら僕も一緒に…」
そこに合流しようとしたオリアス。
しかし、【竜帝】が彼の首根っこを掴む。
「お主は駄目だ。ワシはまだ聞きたい事があるのでな」
「そんな! ちょ、アガレス! 首を掴まないでくれるかい!?」
そうして二人は、そのままどこかへと消えていった。
最後まで響いていたオリアスの声が消えて、再び俺とルシアの二人に戻る。
「愉快な人達だな」
「ええ。それでどうする?」
そう俺を見上げてくるルシア。
俺は色々しなければならないことを考えながらも、それらを棚上げして一歩を踏み出した。
「せっかくの機会だし、料理を楽しむとするか」
ルシアが微笑み、それに並ぶ。
「そうね。それじゃあ、エスコートしてくださる?」
「…そういうのは苦手なんだがな」
苦笑で答えると、ルシアは俺の手を取る。
「それがパーティーのしきたりよ。それとも私に恥をかかせる気かしら?」
ぎゅっと握られ、段々と握力が強まっていく。
常人であれば折れても可笑しくない強さを込められて、俺はついに覚悟を決めた。
「分かったよ。それじゃあ、行こうか」
彼女の手を軽く握り返して、大した知識も無いながらに、彼女が歩きやすい格好を整える。
ルシアの瞳が一瞬きらりと光る。そして彼女はゆっくりと微笑んだ。
「ええ。ノルン様にもご挨拶しないとね」
満足げなその笑みに、俺は内心で苦笑した。




