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第五話:同盟者

 俺の提案に、ルシアが目を見開く。

 【竜帝】もわずかに目を丸くしたが、すぐに穏やかな笑みに戻る。そして優しい目でルシアを見守っていた。


 再び口を開く。


「俺と、【芸帝】プルソンと同盟を締結してくれ。それが俺の考えだ。得るものが何もない、なんて大きな勘違いだろ?」


 ニヤリと笑ってルシアを見やると、彼女は「やられたわ」と肩を竦めて微笑んだ。


「私が投降する前に言っていたのは、こういうことだったのね」


 ルシアの配下を傷つけさせない唯一の方法、そして俺も対価を得る最高の結末。

 事前にアルス達には許可をもらっているので、彼女達はこの選択を認めてくれる。


 これが俺の、俺達の選択だ。


「さて、後はルシア次第だ。この条件を呑むも、断ってこの戦争の被害を負担するも自由だ」


 実際、どちらに転んでも俺は得をする。

 あとはルシアに託しても、なんら問題無い。


 それからしばらくして、ルシアは金色の髪を手で靡かせる。そして、いつもの勝気な笑みを浮かべて口を開いた。


「分かったわ。女帝】ルシアーノは【芸帝】プルソンと同盟を結ぶことを宣言する。これでいいかしら?」


 望んでいた最高の展開だ。 

 これで、俺は全ての仲間を復活させ、さらに最高の同盟者を得る事ができる。


「ああ。ありがとう」

「お礼を言うのはこっちのほうよ。これからよろしくねプルソン」


 ルシアが俺に手を差し出してくる。

 俺は迷いなくそれを握り返して、自然と溢れてくる笑みで答えた。


「末永く、よろしくな」


 帝王は数百年を生きるらしい。

 となれば彼女とは、それこそ末永い付き合いになるだろう。

 そんな思いを込めた俺の言葉に、ルシアの白い顔が真っ赤になった。

 

「え、ええ。そうね!」


 それから慌てて、握っていた俺の手を放す。

 そして【竜帝】に向き直って、息を整えて凛とした声を発した。


「さて、アガレス様。今回我々が負担するEPはどのくらいか、お教え願えますか?」

「む? うむ、そうじゃな……」


 俺達のやり取りをニヤニヤとした顔で眺めていた【竜帝】は、一転して真剣な顔に戻る。

 そして何度か唸り、結論を出した。


「……互いに5万EPでどうじゃ?」

「それでは被害状況と合致しない気がしますが…」


 たしかにそうだ。

 俺の仲間に大きな被害は出なかったが、俺が倒したルシアの配下は二千体にも及ぶ。それだけの被害を10万EPでなかったことにできるとは思えない。


 その言葉に、【竜帝】は再びニヤニヤとした笑みを浮かべた。

 そしてルシアの頭に手を置いて、ガシガシと乱暴に彼女を撫でながら豪快に笑った。


「まぁワシからのささやかな贈り物のとでも思ってくれ」

「贈り物、ですか?」

「お主は帝王として生まれたのが遅かった。そのせいで周りから不当な扱いを受けていた時期もある。お主がそれらを乗り越えて、こうして初めての友人ができたことをワシも嬉しく思っておるのじゃよ」

「アガレス様……」


 ルシアが少しだけ、潤んだ瞳で【竜帝】を見上げる。

 どうやら彼女にも、色々あったようだ。


 ルシアから手を離した【竜帝】の瞳が、俺に向く。


「そういうわけじゃ【芸帝】よ。それでも5万EPは消費してもらうぞ」

「はい。構いません」


 そう首を縦に振ると、魂から何かが放出された。

 恐らくEPが【竜帝】の元に吸収されたのだろう。

 その予想通り、【竜帝】が腕を組んで頷いた。


「うむ。確かに受け取った。それと、ルシアのことをよろしく頼む。もし嫁に貰いたいという話であれば、いつでも相談して欲しいものだな。この子の師匠としてアドバイスできることも多かろうて」

「あ、アガレス様! いったい何を言って……!!」


 顔を真っ赤にして、ルシアが【竜帝】に抗議する。


 さっきから彼がニヤニヤしていたのは、そういうことだったのか。

 【竜帝】の言葉に苦笑して、それにどう答えるべきか悩んでいた、その時だった。


 突如視界がぐらりと歪んで、体が前のめりになる。

 そしてゆっくりと、体が地面に向って倒れ始めた。


 ティプラーが戻ってきたのか、とも思ったが、そうではない。

 もっと原始的で、当然の結果になっただけだった。


 それは、単に俺が制御を失ったということ。


 いよいよ身体と脳が活動を中断しようとしている。

 酷使に継ぐ酷使、こうなるのは当然の結果だろう。寧ろ今まで動けていたのが不思議な位だ。


 もはや腕を少しも動かせそうにない。

 俺は地面に顔面から倒れ込むことになるだろう。

 痛いのは嫌だな、などという子供じみた感想を抱いていると、誰かが俺を抱き留めてくれた。


 暖かい。それに柔らかい花のような、安心する匂いだ。


「ご主人、大丈夫っすか」

「ああ。何とかな」


 アルスだ。

 胸に抱かれているせいか、少し籠ったように声が聞こえる。

 だがそれもまた、安心感を与えてくれる。


 そこへ、さらに二人が合流。


「パパ。大丈夫ですか」

「お父様眠そうなの」


 ルリとシスの言葉には、笑みを返すだけで答えてやれなかった。

 情けない話だが、自分でもよく頑張ったと思う。

 ただ意識を手放す前に、やっておかなければならないことがある。

 

 俺は最後の力を振り絞って、アルスの顔を見上げた。

 翡翠の瞳が、まっすぐに俺を捉える。


「アルス。この戦いを見届けてくれ」

「了解っす」


 それから左手側にいるシスを見る。


「シスはスケルトン部隊と、毒兵器を研究施設に戻してくれ」


 そして最後に、右手に抱き着いたルリに視線を送った。


「ルリは混合部隊をダンジョンに戻してくれ。ローゼが戻るまでは、内の庭で待機させるように」

「了解なの。でもお父様が【円卓】に戻るとなると、その間の護衛ができないの! どうする?」


 ああ、確かにそうだ。

 完全に失念していた。


 どうするべきか、大して回らない頭で考えていると、思わぬ助け舟が出た。

 背後から現れた【竜帝】の声が聞こえる。


「それに関してはワシらに任せよ。今回の【円卓】、【芸帝】が意識を失っている間は、ワシらが安全確保することを約束しよう」

「ええ。プルソンは私の同盟者。絶対に危害は加えさせないわ」

「【竜帝】アガレス様、【女帝】ルシアーノ様。よろしく頼むっす」

「ええ」


 そんな会話が、遠く聞こえる。

 もう意識が飛びかけている。

 気合いで三人を抱き寄せて、彼女達の耳元で告げる。


「あとはみんなに任せる。それと最後になってしまったが、三人とも本当によくやってくれた。みんな自慢の娘たちだよ。しばらくは【円卓】にいるから会えないが、帰ったら戦勝パーティーを開こう。しばらくはゆっくりして、四人で静かに暮らしたいな」


 呟くようにしてそう言うと、アルスがぎゅっと俺を抱き寄せてくれた。


「楽しみにしてるっす。はやく帰ってきてくださいね」

「私達はパーティーの準備して待ってるの!」

「胸が高鳴りますね」


 彼女達の嬉しそうな声に、緊張の糸が解れていく。

 そして俺の意識を持たせていた気力もまた、剥がれ落ちるようにして俺の中から消えていった。


 これで、やっと戦争の全てが終了した。

 ようやく俺も、安心して意識を手放すことができる。


 達成感と安堵、そして仲間の温かさに包まれ、俺の意識は暗転した。

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