第四話:【戦争】終結
どれだけの激戦でも、いつか必ず終わりが来る。
いよいよ今回の戦争を締めくくる時が来た。
俺とルシアが向き合い、その間を【竜帝】が取り持つ。
「まず先ほど言ったように、この戦争の勝利者は【芸帝】プルソンとする。【女帝】ルシアーノよ、異論無いな」
「はい。もちろんです」
一切曇りのない眼で、ルシアが【女帝】として答える。
「うむ。では早速だが、【芸帝】にはこの戦争をどう終わらせるかを決めてもらおう」
ついに来たか、というのが内心だった。
どのように戦争を終わらせることができるのか、俺は詳しく知らない。
ノルンに聞いてみようかとも思っていた。しかし戦争に勝つことだけを考えていたので、その準備に追われ、結局聞くことができずにいたのだ。
「まず、戦争の終結には四つの方法がある。それについては、口で説明するよりも見た方が分かりやすかろう。これを見よ」
戦争開始前と同じく、【竜帝】が指を鳴らすと虚空から一枚の紙が出現する。
それはゆらりゆらりと俺の元まで降りて来た。
手に取ると、そこにはこんなことが書かれていた。
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・戦争の終結について
①【相手と自分が失った配下全てを復活させ、相手に対価を求める】
②【相手と自分が失った配下全てを復活させる。また領地を戦争開始前の状態に戻す。その際互いにEPを消費する】
③【自分が失った配下は復活しないが、討伐した相手の配下を入手できる。その際に対価を求めることはできない】
④【相手と自分が失った配下を復活させず、相手から領地を得る。なおこの選択は戦争開始前に両者が合意する必要がある】
以上
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それを眺めて、俺は口を開く。
「…戦争の終わらせ方は全部で四つあり、大まかに二つの流れがあるということですね」
「その通りだ。一つは①と②にもあるように、戦争で失われた全ての配下を復活させるというもの。敵の配下も含めてな。①、②の違いとしてはその際の責任をどちらがとるか、というものに過ぎん」
①、②は両者ともに損害を軽微なものに留めることができる。
その損害を互いに請け負うか、肩方が背負うか、その違いがあるだけだ。
「そしてもう一つは…まあお主であれば分かっていると思うが、③、④のように自分の配下が復活しない、というものじゃな」
一方の③、④は自分の配下が復活しない。
だがその代わりに、倒した敵か相手の領地を手に入れることができる。ハイリスクハイリターンなイメージだ。
帝王がどのような選択を主としているのか、聞いておこう。
「よく使われる方法などはありますか?」
「そうじゃな。まず①が圧倒的に多い。より具体的に言えば、全体でも七割の戦争はこれで決着がつくであろうな。…ランキング的に近い、つまり競争相手となっている敵との戦争で用いられることが多い。そういえばルシアーノもこれを好んで使っておったな」
「そうでしたか」
メリットは大体想像がつく。
しかし、一応本人の口からその理由を聞いておきたい。
【女帝】ルシアーノ、改めルシアに向き直って、俺は口を開く。
「ルシア、理由を聞いておいてもいいか?」
「そうね。理由としては色々あるけれど、やっぱり相手の勢力を削ることができて、自分の戦力は温存できることが大きいわね」
それに、敵対している相手とあまり遺恨が残らない点も考慮するべきだ。
敵勢力の力を削ぐ、という意味ではリスクリターンが割に合っている、賢い決着方法ではあるのだろう。
「して、次に多いのは③じゃな。自分の力に自信を持っている帝王ほど、この決着を好む傾向があるわい」
③のメリットについては聞かずとも分かる。
「こちらの被害が少なければ、ほとんど対価を支払わずに相手の配下を手に入れることができるからですね」
一方的に相手を叩きのめせれば、損害軽微で敵の配下を手に入れることができる。
力に自信がある帝王にとって、これほど良い条件はないだろう。
【竜帝】がゆっくりと頷く。
「そういうことじゃ。それと親切心で教えておくがの。④に関しては新米同士の戦争ではまず起こらん。中堅、上位の帝王同士の戦争でも滅多に見ることはない。ワシも生まれて数百年の間で、数えるほどしか見たことがないからのう」
俺も薄々感じていたが、やはり④は異質な存在らしい。
④【相手と自分が失った配下を復活させず、相手から領地を得る。なおこの選択は戦争開始前に両者が合意する必要がある】
物騒極まりない決着方法だ。
それに、もし負ければ自分の【領地】が敵に持っていかれることになる。【領地】運営を主としている帝王にとって、これほどの痛手は無い。
極めてハイリスクハイリターンな手法だが、やはりあまり好まれない条件の様だ。
現状を理解すると、【竜帝】が話を先に進める。
「さて、プルソンよ。どの方法で戦争を終わらせるかは、お主に委ねられておる。好きに選ぶが良い」
この戦争の勝者は俺だ。
よって俺には、この四つの条件の中から、戦争終結の方法を決定する権利が与えられている。
俺はもう一度紙に目を通しながら、思考の渦に飛び込んだ。
まず、戦争前に契約を交わしていないので④は無理だ。
普通に考えれば、①か③でルシアに被害を負担してもらうのが一般的だろう。
①【相手と自分が失った配下全てを復活させ、相手に対価を求める】
③【自分が失った配下は復活しないが、討伐した相手の配下を入手できる。その際に対価を求めることはできない】
こちらの被害は軽微であり、どちらに転んでも損害は少ない。
しかし、戦争中ルシアに話したように、俺は彼女の軍を上手く扱える自信が無い。
もし仮に③で戦争を終わらせて、殲滅した3000近いルシアの配下を手に入れても、俺はそれほどパワーアップできないだろう。それに表面上は問題なく振舞うだろうが、その決断はルシアとしても思う所があるはずだ。俺は彼女との遺恨を残したくはない。
よって③も無しだ。
となると、残された道は①か②になる。
①【相手と自分が失った配下全てを復活させ、相手に対価を求める】
②【相手と自分が失った配下全てを復活させる。また領地を戦争開始前の状態に戻す。その際互いにEPを消費する】
似ているようで、この二つは異なる。
「①の【相手に対価を求める】とあるのは、具体的にはどのようなことが可能なのでしょうか」
「今回の戦争で言えば、お主は損害軽微じゃからのう。全ての配下が復活した後、十数万のEPを獲得できるくらいじゃな。存外できることは多くないが、それでも【固有召喚】一回分のEPが手に入るのであれば十分であろう?」
「確かにそうですね」
俺は【固有召喚】に22万EPを消費するので忘れていたが、通常の帝王であれば10万EPでそれが可能だ。戦いの対価としては十分だろう。
さて、材料は揃った。
あとはこの条件の中で、戦争を終わらせるだけだ。
俺は①、ではなくその下にある②を指す。
そして【竜帝】の顔を見上げて宣言した。
「この方法で終わらせたいと思います」
彼の目が、一瞬だけギラリと光る。
そして獰猛な笑みがその顔に刻まれた。
「ほう。お主本気で言っておるのだな」
「ええ」
②【相手と自分が失った配下全てを復活させる。また領地を戦争開始前の状態に戻す。その際互いにEPを消費する】
元々俺は、この形で戦争を終わらせたいと思っていた。
だがそこに、ルシアが割って入る。
「待ってプルソン。それはダメよ」
「いきなり何だ?」
「私に情けをかけているつもりなら、それは止めてほしいの。私からEPを受け取りなさい。それにこれだけの戦いをしておいて得るものが何もないなんて、あなたの配下も納得しないわ」
ルシアらしい言葉だ。
しかし、俺もここは譲れない。それに彼女は一つ大きな勘違いをしている。
「俺の仲間は納得してくれるさ。そもそも、なぜ『得るものが何もない』と言い切れるんだ?」
「え?」
ぱちくりとルビーの瞳を瞬いたルシアに向き直る。
そして勝利者としての威厳を纏えるように、俺は精一杯声を張った。
「【女帝】ルシアーノ」
ルシアの目に視線を合わせる。
「俺はこの戦争を互いの痛み分けで終結させる。その代わりに俺は、この戦いの対価として、アンタに同盟関係を要求する」




