第二十五話:決着
ボロボロになり、ゴシック調の服のあちこちが破けている。
しかしそれでも、俺の目の前に現れた【女帝】は威厳と自信に満ち溢れていた。
彼女は苦痛に腕を抑え、ヨロヨロとしながらも、着実に俺に向かって歩いてくる。そして手に握っていた長剣を俺に向けて、肩で息をしながら笑った。
「……はあ…はあ……。プルソン、あなたのことだから、最後まで何かを隠しているんじゃないかとは思っていたわ。でもまさか、それがあれほど強力なものだったとわね……」
その一言で、俺は確信した。
彼女はずっと、俺の切り札を警戒していたのだ。
俺がどれだけ技を使っても、新しい技を出しても、【女帝】はそれを切り札と決めつけなかった。その奥に切り札が潜んでいる可能性を考慮して、最後の最後まで俺に対する警戒を緩めなかった。俺の拠点を破壊するという作戦が失敗した時から、彼女は本当の意味で全力を出していたのだ。
そして、今度は俺がそれを見抜けなかった。
俺は彼女の覚悟の強さを、見誤ってしまったのかもしれない。
「…【芸帝】プルソン、やっぱりあなたは強かったわ。だけど最後に勝つのはこの私よ!!」
ボロボロになりながらも、気高く威厳を持った態度で、女帝が剣を振り下ろしてくる。
俺はそれを、ただ見上げることしかできなかった。
必殺技の代償は重い。
体が言う事を聞かず、腕を動かすにもかなりの時間がかかってしまう。
(ああ、こりゃ厳しいな。こいつの剣速いし…)
そんなことを漠然と考えながら、俺は目を瞑る。
そして最期に、仲間達の顔を思い浮かべた。
(ごめんな、みんな)
その瞬間、俺の全身を凄まじい衝動が駆け抜けた。
それは怒りだ。
勝手に負けを認め、勝ち筋を探ろうとしない自分を叱咤する。
「まだ……諦められねえだろうが!!」
こんな身勝手をした俺を信じ、ついてきてくれた仲間たちに、俺はまだ何も返せていない。
(くだらない理由で諦める前に、頭を回せ! 壊れたって構わないから、無理やりにでも体を動かせ!)
もはや武器は無い。
となると、残された手段は一つだけだ。
俺はようやく動き出した自らの右腕を、【女帝】が振り下ろした剣の延長線上に掲げた。
「なっ!!」
その異常な行動に、【女帝】が驚きに目を見開く。
だが、放たれた剣は止まらない。
俺の腕と、【女帝】の剣が交錯する。
そして剣は、俺の右腕の中間あたりまで切り込まれて停止した。
腕に鮮烈な痛みが走る。
「見事よ、プルソン。でもいい加減諦めなさい。始まる前にも言ったけど、投降しても絶対に非道な真似はしないわ」
「…そりゃ、ありがたいな…。だが、受け入れられない…」
「…あなたは状況が分かっていないのね。これを拒むのなら、私はあなたを戦闘不能にしなくちゃならないわ。腕の一本や二本、覚悟なさい」
身も凍るような【女帝】の瞳。
しかし俺は、ただ穏やかに笑った。
「…ははっ……分かってないのはアンタの方さ。この勝負、俺達の勝ちだ」
「あなた、何言って……?」
理解できないという表情の【女帝】。
「俺は、俺の役割を果たした。……確かにアンタに負けはしたが、勝負に勝ったのは俺だ」
俺は口角をゆっくりと釣り上げて、彼女の後方に現れた光を見やる。
すると俺の笑みに呼応するようにして、【女帝】の背後に強烈な殺気が生まれた。
「…はぁああああ!!」
一瞬の煌めきと共に、騎士風の鎧に身を包んだ翡翠眼の少女が、【女帝】の背後に出現した。少女が全力で振るう黄金の剣は、眩い光の尾を引いて、容赦なく【女帝】の首筋に襲い掛かる。
「…くっ!?」
神速で迫る一撃に【女帝】は即座に振り返り、手に持っていた剣を体に引き寄せて攻撃を受け止める。両者の剣が交錯して辺りに甲高い金属音が響くと、少女と【女帝】の剣が拮抗した。
「…まさか」
ギリギリと鍔迫り合いを演じる【女帝】の頬を、一筋の雫が伝る。目一杯見開かれた赤い瞳が、どれだけ驚きを感じているかを物語っていた。
「…そこまでっす。【女帝】ルシアーノ」
少女の声で、俺の全身から力が抜けていく。
俺は小さく笑みを浮かべて、彼女の名を読んだ。
「…来てくれたか、アルス」




