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第二十四話:【神依】

 剣と風刃が、俺に牙を剥く。

 【女帝】達が狙っているのは、俺の上半身だ。どうやら殺すつもりはないらしく、完全な急所ではない。しかし、あれを喰らえば戦闘不能になるには十分すぎる傷を負うだろう。


「…ちっ!!」


 やられた。俺は歯噛みする。

 もはや煙幕は役に立たず、マジックによる位置変えもできない。これまで有利に立ち回ってきたが、ここに来て完全に後手に回ってしまった。


「…プルソン!!!」


 俺の名を呼びながら、【女帝】が剣を一閃する。

 凄まじい速さの一撃だった。しかし、それが俺を捉えることはない。


 俺はその場で立ち止まり、足の力を抜いて、両ひざを地面に付きつつ上体を逸らす。

 そして目と鼻の先を二人の攻撃が通過していくのを見ながら、こちらを見下ろしてくる二人と視線を交わした。


 エルフの驚いた様な顔と、【女帝】の意外そうな目。

 しかし次の瞬間には、二人とも俺への追撃に意識を切り替えている。


 エルフが手中に魔力を高め風刃を作成。【女帝】は一足先に剣を俺に向って振り下ろした。

 再び轟音と共に【女帝】の剣が迫る。それに追随するようにしてエルフの風刃が射出された。


 この至近距離での連撃、もはや両方を躱すことは不可能だろう。


(…左腕、なら問題ないか)


 戦闘継続に対する脅威度を、頭の中にある冷徹な俺が判断する。その結果、俺は【女帝】の剣を見据えて、それを最小限の動きで回避した。


 その瞬間、俺の左腕に鈍痛が走る。

 ちらりと痛みの原因に目を向けると、エルフが生み出した風刃が、俺の二の腕を切り裂いていた。


 俺はその攻撃が命中した瞬間に、後方に向って大きく跳躍する。 

 帝王の人間離れした運動性能によって、ただのバックステップで十メートルもの距離を稼ぐことができた。


 だが、状況は何一つ好転していない。

 距離を取った俺に、【女帝】が剣を向ける。そして黄金の髪を靡かせ、吸血鬼特有の鋭い犬歯を覗かせながら笑った。

 

「…さすがの判断力ね、プルソン。右腕と左腕、どちらを優先するかをあの刹那の時間で判断するなんて、普通の帝王にはできやしないわ」


 深紅の瞳が、俺の左腕に向けられる。

 彼女の言葉通り、俺は決定打たる【女帝】の攻撃を回避することを選択した。その代償としてエルフが狙った左腕は使い物にならなくなっている。


 ポタポタと落ちた血が、地面に吸い込まれていく。


 出血の度合いでいえば軽傷にも見えるが、攻撃を喰らった代償は大きい。詳しいことは分からないが、さっきの攻撃で腕を動かす筋肉がやられたようで、腕を動かそうにも反応が鈍い。もはや戦闘に耐えることはできないだろうし、腕が一本使えないということは回避にも支障が出る。


 かといって、ここまで接近されては、マジックで切り抜けることもできない。

 マジック意外にも二人に有効な手段があればいいが、そもそもこの状況に陥った時点で詰んでいるようなものだ。回避と逃走の為に用意できるアイデアは尽きている。

  

 もはや回避が不可能である以上、とれる行動は一つだけ。

 それはつまり、二人の攻撃を迎撃することだ。


 しかし、今の俺には二人を同時に相手できるほどの力が無い。拮抗するまでもなく、叩き潰されておわりだろう。それが分かっているからこそ、【女帝】は俺に切り札たる黒龍ファブニールをぶつけなかった。


 ここまで考えての作戦、もはや見事としか言いようがない。 

 それも、戦いの主導権を俺によって完全に握られた後で、これほど冷静に俺を追い込む作戦を考えられる存在は、そういないだろう。


 圧倒的な劣勢、明らかな危機だ。


 しかし俺は、淡く笑みを浮かべる。

 そして訝し気な顔をした【女帝】に目を向けた。


「確かにアンタは強い。間違いなく新人最強の帝王だ」


 個人的な能力、帝王としての知識、その他にも数多の要素で俺を大きく上回っている。俺が単独で挑む様な存在ではなかったのだ。


 …だが、彼女は知らない。

 俺にあと一つ、“切り札“が存在することを。


 毒、烈士太鼓、奇術…。

 数多の芸能を操り、俺は幾度となく戦況をひっくり返してきた。


 そんな俺の、これは“最後“にして“最強“の切り札だ。

 自らの気力、体力、そして魔力を糧に放つ必殺の一撃。


 …そう言えば聞こえはいいが、実際は不確定要素を多分に含んでいる技だ。今まで一度も使った事が無い上に、使用して俺が無事でいられる保証もない。全てを投げ打つ諸刃の剣だ。


 そしてそれを使用するということは、俺の力を観戦している帝王達に喧伝することになる。今後のことを考えると、そのリスクは計り知れない。


 だが、それでも。

 今この場で勝たなければ、力を温存した所で意味が無い。


 それに……。


(…みんなが頑張ってくれてるのに、俺だけみっともない姿見せられないよな)

 

 敵の猛攻から丘を守っているスケルトン、ゴブリン、リザードマン部隊。彼らに的確に指示を出して転覆寸前の丘を支えているミドリ、ラム、ソラ。そして【女帝】の切り札たる黒龍ファブニールと死闘を繰り広げているアルス、ルリ、シス。


 みんな必死に戦い、俺のために頑張ってくれている。仲間たちの為にも死ぬわけにはいかない。俺がここで、情けなくも【女帝】に圧倒されるわけにはいかないのだ。


「…けどな。最後に勝つのは俺達だ」


 覚悟を決める。

 そして、同時に地面を蹴った【女帝】とエルフに目を向けて、力の限り叫んだ。


「【芸具模倣】!!」


 頭の中で、細長く、しなやかで、何にも負けない強靭さを持った刃物をイメージする。それは俺の心臓から溢れ出したEPを糧にして、ついに形になった。


 4万ものEPを消費して、手中に青白い光を帯びた刀が出現する。

 この世界に生まれ落ちてすぐ、ノルンの前で初めて戦った時以来に使う。あれから三ヵ月しか経っていないのに、その輝きを随分と懐かしく感じた。


 長すぎる休息に抗議するようにして、刀が手に吸い付く。

 早く使えと言っているようだ。


 俺は刀を持つ手に力を込めて、気持ちを引き締めた。


 今回の敵は刀だけでどうにかなる存在ではない。

 【芸具模倣】で生み出した刀を、振るう力が必要だ。


 そしてそれこそ、俺にとって最後の切り札である。


 素早く息を吐き、頭の中を濁流の如く駆け巡る【芸能】についての知識を引き出す。

 またしてもEPがごっそりと減る。もはや二度目は無いと体感的に理解できるほどの、圧倒的な量のEPを消費して、俺の魂に【極まった芸能】が刻みつけられた。

 

 それは本来、帝王であっても許されない至高の一撃。

 俺達の頭上に君臨し、世界を掌握する神々の鉄槌。


 かつて危険だと封印され、時代と共に本当の力を失ってしまった芸能。

 その身に神を宿すことで、超越的な力を発動させるその芸能の名は。


「【神依かむい】」


 刀を握り、全ての意識を右腕に集中させる。

 そして、自らに”宿す”存在に食い殺されないことを願いながら、その神の名を読んだ。


「【タケミカヅチ】!!」


 その瞬間、曇天から幾多の雷が降り注ぐ。

 無数の龍のように唸りながら飛来したいかづちは、俺に向かって繰り出された【女帝】たちの攻撃に真正面から衝突した。


 轟音と閃光が辺りに走り、発生した衝撃波が森を揺らす。


「なんですって!?」

「これは!?」


 質量を持った雷に攻撃を阻まれた二人の、驚愕した声が遠く聞こえる。


 芸能の中でも、【神依かむい】は最も危険度が高い。

 一時的とはいえ”神”をその身に宿す芸能だ。降ろしている時間が長く、その力が強大である場合、その体が破壊されても不思議はない。


 実際に魂を喰われ、その絶大な力に溺れた者も存在する。

 その危険性から、【神依かむい】は歴史の彼方へと封印された。だから本当の意味での《神降ろし》は現代には存在しない。あるのは限りなく薄められた、効力の薄いスピリチュアル的な物だけだ。


 だが、その本質は恐ろしく狂暴なものだ。

 俺は帝王という強力な力と魂を持った存在だから、その力をある程度コントロールができる。だが、それも完璧なものではない。


 その証拠として、今もこの場で起きていることが遠い世界の出来事に感じる。そして普段は黒色の髪の毛が、まるで老人の様な総白髪になっていた。身体の制御と意識を、宿した力に喰われかけているのだ。


 時間をかけすぎては、魂までもが宿した力に喰われることになる。

 もはや時間は無い。


 俺は二人が、召雷によってノックバックしたことを確認すると、刀を構えて腰を下ろした。左手は使い物にならないが、その程度問題無いと体を支配する力が教えてくれる。神にとって、帝王とその配下など片手で十分なのだ。


「…あれは一体」

「…さて…何かしらね」


 二人は変わり果てた俺の姿に絶句し、緊張の面持ちで武器を構える。

 俺はそれを待たずして、静かに白い息を吐いて…。


「【横一文字】」


 刀を、抜刀するようにして振るった。


 閃光。


 神の雷を宿した刀が一閃され、辺りに眩い光が満ちる。

 質量を持った雷が刀の延長線上に伸び、周囲の樹木を大地諸共吹き飛ばしいく。


 そして、ソニックブームが発生するほどの圧倒的な速度で、刀が前方を三日月状に走る。一瞬遅れるようにして到達した衝撃波と雷鳴が、回避不能な速度で女帝とエルフに襲いかかった。

 

「ぐっ……!!」

「きゃああああ!!」


 至高の一撃が、【女帝】とエルフを捉える。青白い光を伴った衝撃波が、二人を遥か後方へと吹き飛ばした。


 轟音と共に森が雷に包まれていく。

 青白い爆発と共に森が吹き飛ばされて、あたりに土煙が舞い上がった。


 土の匂いと、薙ぎ倒された木々の匂いが鼻腔を刺激する。


 その瞬間、【神依かむい】が強制的に解除された。

 おそらくは体力や気力など、神と呼ばれる存在を宿すために必要な全ての要素が不足したのだろう。


「くっ……はぁ……はぁ…」


 酸欠の状態のように頭がクラクラする。


 吐き気、目の奥の痛み、その他にも無数の痛みが体のあちこちに走り、俺を蝕む。それと同時に全身を支配した凄まじい疲労感と脱力感に、俺は思わずその場に座り込んだ。そしてそのまま、背後にあった岩に体を預ける。


 しばらく目を瞑って、痛みを追い出すように首を左右に振る。そして俺は、己が引き起こした、まさに天災としか形容できない光景を改めて目にした。


 目を開くと、森が消失していた。

 視界の殆ど、俺を中心とした前方100メートルは、まるで神が大地を切り取ったように、半円形に消し飛んでいた。空中から見れば、森の中にぽっかりと月状の穴が空いている様に見えるだろう。


 まさに神速の一撃、神の名に相応しい一撃だった。


 普通に考えれば、【女帝】達もただではすまない。まあ先に発生したソニックブームによって吹き飛ばされて、森を消し飛ばした雷にはあたっていないので、おそらく生きているだろう。もっとも、この体たらくでは確認のために動くこともできないのだが…。


 何にせよ、あれを喰らって無傷では済むまい。

 この攻撃を知っていればいざ知らず、初見で回避するのは殆ど不可能だ。


 若干の安堵感と共に、口を開く。


「…これで、終わったか」


 あとは【女帝】に投降を促せば今回の【戦争】は終わりだ。

 そのために早くアルス達と合流しなくては…。


 そんなことを考えていると、ザッと正面から足音がする。

 どうやらアルス達が来てくれたらしい。彼女達も【女帝】の切り札である黒龍ファブニールを倒してくれたみたいだ。たくさん褒めてあげないと。


 俺はそう考えながら、笑顔でてをあげようとして…。


「…なん、だと……」


 現れた金髪紅眼の少女に、絶句した。


「…まだ、終わらせないわよ! プルソン!!」


 そこにいたのは、全身ボロボロになりながらも、その目に確かな光を宿した【女帝】ルシアーノだった。

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