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第二十一話:黄金の輝き

『G…GAAAAA…』


 傷だらけの黒龍が、最後の力を振り絞って、口内にエネルギーを蓄積していく。

 それはブレスの前兆だった。


「あの状態でブレスが放てるの!?」


 ルリが驚愕した声を上げる。

 自分もこの行動は予想できなかった。

 

 この必殺のブレスを封じ込めるために、騎士達に首や顔周辺を攻撃させた。しかし黒龍はそんな状態でもブレスを放とうとしている。やはりSランクの竜種というのは、通常の思考が通用しない相手なのだ。


 それは分かっていた。

 しかし、死闘を制した高揚感が、その可能性を排除してしまっていた。

 

 思わず唇を噛む。

 痛みは感じない。ただ自分への不甲斐なさと、出し抜かれた敗北感があった。

 

 やがて、黒龍の口内に青色の光が見え始める。

 限界まで溜め込んだエネルギーを崩壊させて、黒龍はブレスを放たんとしていた。


 狙いは、恐らく最後の騎士だ。

 その行動に、思わず身を乗り出す。


 騎士が黒龍に止めを刺してくれないと、こちらの誰かが直接黒龍に攻撃を加えなくてはならなくなる。それはなんとしても阻止しなければいけない。


 全ての思考を、黒龍が放つ最後の一撃への対策に回す。

 しかしブレスを放たれてしまっては、こちらからはどうすることもできない。そうであれば放たれる前に布石を打つしかないが、何か良い方法は……。


 そんな思考を、ルリが遮る。


「アルたん下がって! アイツが狙ってるのは騎士じゃない! 私達を狙ってる!」


 その言葉で、自分は初めて黒龍の狙いに気が付いた。 

 ぎょろりと、黒龍の深紅の瞳がこちらに向く。

 奴はこの土壇場で、全てをひっくり返そうとしているのだ。


 聖騎士を生み出したのが自分であることを理解し、その元凶で自分を消して勝負を終わらせようとしている。そしてルリの言う通り、あの強力なブレスは今から回避行動をとっていたのでは間に合わない。


 あの一撃を喰らえば、自分達であってもひとたまりもないだろう。


「…くっ!」


 しまった。

 この土壇場でミスをした。


 黒龍の狙いが騎士だったこと、彼らを視界に捉えていないと上手く操れないこと、黒龍の動きをこの目で確かめておきたかったこと…。


 その他にも様々な要因が絡まり、この事態を生んだ。

 大切な仲間達を危険に晒すことになった。


 そう歯噛みしていると、背後から駆け寄ってきたシスが叫んだ。


「魔法でアレを防ぎます! 私の周りに!!」

「シス!?」


 はっきり言って無茶だ。

 黒龍にとってブレスは、切り札とも呼べる最強の武器。それを魔術だけで防ぎきるのは難しい。


 だが彼女は、自分とルリを背後に庇うようにして、地面に杖を突き立てた。


 次の瞬間、前方に幾重にも及ぶ岩盤のバリケードが形成される。

 そしてその間に、空気や水、その他にも思いつく限りの、多種多様な緩衝材が投入された。


 ブレスの属性が分からない以上、できる限りの準備を整えなくてはならない。

 シスが壁を完成させるのと同時に、黒龍の口内に満たされたエネルギーが、青い輝きとなって放たれた。


『GGAAAAAA!!』


 青色の閃光が走った。

 ただ一人残っていた騎士が、自分達を守ろうと黒龍の前に立ちはだかる。しかしブレスは、彼を一瞬の内に蒸発させた。


 凄まじい威力を誇るブレスが、自分達に迫る。

 そしてシスが生み出した岩盤の壁に激突した。


 凄まじい轟音と振動が、辺りを揺らす。

 ブレスの威力は凄まじく、直撃した瞬間から一つ、また一つと壁が破壊されていく。

 シスはその度に、魔力を込めて新しい壁を生成していく。並みの魔術師では絶対に不可能な高速処理。Sランクの魔術師の全力が垣間見えた。


 やがて、ブレスが弱まっていく。

 シスはそれをチャンスと見て、渾身の力を込めて押し返した。


 片膝を付いて激しく呼吸するシスに駆け寄る。


「シス! 大丈夫っすか!」

「ええ、何とか。でも魔力残量的に、もう同じ技はできません。今の内に龍を……」

「アルたん! もう一回ブレスがくる!」


 早すぎる。

 だが、黒龍も決死の覚悟だということだろう。


 次の攻防に、全てが掛かっている。


 シスが無理だと宣言した以上、もはやこちらにブレスを防ぐ手段はない。

 かといって回避も無理だ。ブレスは数秒間持続するし、その速さはこちらの回避速度を大きく上回っている。逃げ切る前に掴まって終わりだ。


 となると、こちらに残されたのは攻撃だけだ。

 黒龍がブレスを放つ前に、ヤツを無力化する。


 だが【英霊召喚】で生み出した騎士はもういない。

 この場を犠牲ゼロで乗り越えることが、更に厳しくなったが、今ないものねだりをしても仕方がない。


 と、そこまで考えて。

 自分は一つの活路を見出した。

 この作戦なら、いけるかもしれない。


 直感に従う。

 頭で考えるのと並行して動き出す。


 もはや、迷っている時間はない。

 隣で息を呑んでいるルリに向き直った。


「ルリ! 自分を穴の向こう側まで飛ばせるっすか!?」

「な、なんでそんなこと…」

「できるか、できないか! どっちっすか!」


 有無を言わせぬ口調で言い切ると、ルリも迷いを捨てた表情で頷いた。


「…できるよ!」

「それじゃあ、自分を向こう側に向って全力で飛ばしてください!」

「分かったの!」


 即座に行動を開始する。

 二人同時に立ち上がり、シスが作った壁を乗り越えていく。


「…アルス姉さん。ご武運を」


 そう見送ってくれたシスに頷く。

 そして隣に並んだルリに合図を出した。


「ルリ!」

「はいなの!」


 自分は腰に提げてあった黄金の剣を携えて、走り出す。

 それにルリが続いた。


 シスが生み出した巨穴、その手前でジャンプ。 

 ルリが持つ細剣に飛び乗る。


「ルリ!!」

「はいなの! いっくよ! アルたん!!」


 姿勢を低くして、体を丸める。

 そしてルリが叫んだ。


「はぁああああ!!」


 人間離れした力が、自分を軽々と空中に放り出す。

 凄まじい速度で飛び出し、シスが生み出した巨穴の中央付近まで即座に到達した。


 じっと、黒龍がこちらを見据える。

 それをしっかりと見据え返して、手に持っていた黄金の剣を見やった。


 私と一緒に生まれた武器。

 ご主人が与えてくれた、自分の半身。


 もしこの賭けが成功すれば、自分はこの大切な剣を失うことになるだろう。

 しかし、それ以上に仲間がこれ以上傷つくのは容認できない。

 

 剣にゆっくりと口づけをする。

 そして、覚悟を決めた。


 剣を握りしめて、魔力を張り巡らせる。

 そしてそれを大きく振りかぶって、


「届けえぇぇぇぇl!!」


 黒龍目掛け全力で投擲した。


 時計回りに回転する黄金の輝きが、風を切り裂きながら黒龍へ迫る。

 自分の全力を注ぎ、重力によって加速した剣は、一瞬にして黒龍へ到達する。


『GGAAAAA!!』


 ブレスを放つ黒龍。

 その叫びと同時に、剣が奴の口内に飛び込んだ。


 青色の輝きに、黄金の亀裂が入る。

 そして次の瞬間、黒龍の口の中でブレスが爆ぜた。


『GGAAAA!!!』

 

 辺りに爆風と轟音をまき散らしながら、ブレスが連鎖的に崩壊していく。

 黒龍の体内を逆流した膨大なエネルギーが、全身を覆う鱗の隙間から、爆炎となって放たれた。


 とてつもない熱量の炎が、辺りを夕陽色に照らす。

 黒龍の遥か上空を横切る自分の元へも、その爆風が到達した。


 ぶわっと熱の籠った風に押されて、一気に加速する。

 そして作戦通り、穴の反対側に着地した。


 小さく息を整えながら、穴の中を見下ろす。

 

『G…GGAAA』


 ブレスの暴発によって、黒龍は深刻なダメージを負った。

 呻き声を上げながら、制御を失った黒龍は逆さに墜ちていく。


 それを注意深く眺めながら、自分はルリとシスが合流してくるのを待った。


 これで、ようやく死闘が終わるのだ。


 Sクラス、それも自分の二倍以上のレベルを持つ黒龍。

 それを自分、ルリ、シス、そして英霊たちの力を合わせることによって、ようやく撃破することができた。


 だが、言うは易く行うは難し。

 一歩でも間違えば、こちらが破滅する綱渡りの戦いだった。

 どっと力が抜けて、その場にへたり込みそうになる。


 気合いで両足に力を込めて、一つ深呼吸をしていると、背後から声が聞こえた。


「アルたん! さすがなの!」

「まさかブレスを暴発させるとは、思いつきませんでしたよ」


 合流してきたシス、ルリがそう褒めてくれる。

 しかし、これ以上油断はできない。


 自分は失墜してく黒龍が見えなくなるのを待って、慎重に一歩を踏み出した。


「…止めを刺しに行きましょう」


 黒龍を堕とすことはできたが、無力化できた訳では無い。

 先ほどの失敗がある以上、もう油断する訳にはいかないのだ。


「分かったの!」

「…下までの階段を作りますね」


 自分の空気がそうさせたのかだろうか。

 二人もまた、勝者としては余りに固い、慎重な面持ちで頷いたのだった。

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