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第二十話:【英霊召喚】

 ルリと自分は、黒龍と一進一退の攻防を繰り広げる。

 そこへ解析を終えたシスが、珍しく大きな声を出して合流した。


「…アルス姉さん! ルリ! お待たせしました!」


 よし。

 心の中で、ぐっと拳を握る。


 目の前に迫った黒龍の剛爪を剣で弾き、すれ違い様に攻撃を加えつつ、自分は少し離れた場所にいる彼女に指示を飛ばした。


「シス! 自分達はこのままコイツをこの場に拘束します! その間に魔法の準備を!」

『了解! 準備が完了したら念のために【風木霊ウィンド・エコー】で合図します!』


 確かに、口頭でタイミングを伝えるのはリスクが高い。

 自分はシスに小さく頷きを返して、黒龍の返り血を回避するためにバックステップでその場を離脱した。


「せいやあああ!!」


 声がした方を見れば、ルリの細剣が銀色の尾を引きながら黒龍の鱗を切り裂いていた。ルリは噴出した返り血を見極めて、冷静にその場から離れていく。

 彼女も自分と同じように、攻撃を加えては離脱を繰り返していた。


 チラリと、ルリの視線が自分に向く。

 それに小さく頷きを返して、彼女と視線を交わした。


(…このまま気を引くっすよ)

(わかったの!)


 アイコンタクトでそんなやり取りをして、再び二人同時に黒龍へと斬りかかる。

 

 それから何度かヒットアンドアウェイを繰り返していると、耳元に風が吹いた。


『いつでもいけます!』

「それじゃあ、派手にぶちかましてくださいっす!」


 その小さな体に余る膨大な魔力を、その卓越した魔力操作で操っているシスが、気合いの籠った声で叫んだ。


「【龍殺しの路ロード・オブ・シグルス】!!」


 シスの体から放たれた青白い魔力が、地面を伝って黒龍の足元まで広がる。

 その瞬間、黒龍が立っていた地面が音を立てて崩落した。


『GGGAAAA!?』


 直系、深さ五十メートルの大穴。

 それがいきなり足元に現れたものだから、黒龍は驚いた様に首を振った。


 凄まじい轟音と共に、石造りの路とその下にある岩石が崩落していく。

 そして黒龍もまた、ぽっかりと空いた大穴の中に吸い込まれていった。

 黒龍はその穴を抜け出そうと翼を動かしているが、上から土や岩が降り注いでくるのでそう簡単にはいかない。


 次々と降り注いでくる岩石に押し込まれる形で、黒龍は段々と小さくなっていった。

 その光景を眺めていたルリが興奮した様子で言う。


「…すっごい大きな穴なの! これがシスたんが発動した魔法なの!?」

「そうっすよ。さすがシス、注文通りの完璧な魔法っすね」


 シスに依頼していたのは、黒龍を突き落とす大穴の作成だ。

 黒龍の血は厄介だが、飛び散る空間が無ければ何も問題ない。

 となると、後は誰がどうやって黒龍を倒すかだが、そちらについては何も問題ない。


(さて、そろそろ黒龍にも動きがあるはず…)


 そんなことを考えていると、予想通り、地上に向って飛び始めていた。

 いくら崩落に巻き込まれているとはいえ、黒龍はSランクの怪物だ。岩石の崩落程度で死にはしない。


「アルたん! アイツが飛び立とうとしてるの! なんとかして阻止しないと!」


 黒龍が穴を抜け出そうと飛んでいるのをみて、ルリが叫んだ。


 確かにこのまま逃げられては、降り出しに戻るだけだ。

 飛んでいる黒龍には、こちらから働きかけることもできない。

 黒龍もそのように考えているようで、ヤツは巨穴の中腹当たりまで戻ってくると、勝ち誇った様な視線を向けて来た。


 だが、まさに自分はそれを狙っていたのだ。

 黒龍が飛行しているのを確認した瞬間、自分は右手を心臓に当てて声を張った。


「【固有能力】発動! 【英霊召喚】!!」


 そう口にした瞬間に、心臓がドクンと跳ねる。

 そして、力が湧き上がってきた。

 

 自分の体から黄金の光が溢れ出して、自分の背後に散らばった。

 そしてやがて、光り輝く十一人の騎士が生み出される。


 これが自分の固有能力【英霊召喚】。


 【英霊召喚】は絶対の服従を誓う十一体の英霊を召喚する能力だ。英霊の強さは自分の強さに依存するが、だからこそ彼らは強い。20レベルのSランクである自分が生み出した英霊は、一人一人がAランク上位の力を宿す。


 そして彼らこそ、自分の作戦の鍵を握る存在だ。


 一糸乱れぬ姿で整列した英霊達。

 その姿に、ルリとシスが喉を鳴らす。


 それと同時に、自分は腕を前に掲げて、声を張った。

 

「我が騎士に命ずる! あの龍を討ち取れ!!」


 自分の声に従って、十一人の騎士が一斉に動き出す。

 無言の騎士達は、黒龍が飛翔している穴に向って、一切の躊躇なく飛び込んでいく。そして、淀み無い動きで黒龍に向って落下していった。


 いくらAランクの力を持っているとはいっても、相手は竜種、それもSランクだ。

 普通に考えれば自殺行為であり、いくら命令であってもそこには迷いや恐れが生まれるのが基本だ。


 しかし、騎士たちは止まらない。

 己よりも強大な存在だから、そんな理由で彼らは委縮しない。

 絶対的な支配者である自分の命令だから、ということもあるが、それ以上に彼らは黒龍に負けるとは毛ほども思っていないからだ。


 彼らの強みはその集団戦闘能力だ。

 言葉は交わせないが、彼らは互いの意識を共有している。だからこそ、格上相手であっても一切の躊躇なく戦いを挑み、そして敵を討ち取るのだ。


 その予想を肯定するように、騎士たちが何の合図も無しに陣形を整える。


 前方に七人、中盤に三人、そして後方に一人。

 騎士達が、機械仕掛けの兵士のように、一糸乱れぬ動きで剣を構える。


 それを睨みつけていた黒龍が吠えた。


『GGYAAAA!!』


 咆哮と共に、砦を破壊したブレスを繰り出す。

 凄まじい轟音と共に、紫色のブレスが騎士達に迫る。

 しかし、それが騎士達を静めることはなかった。

 

 先頭を行く七人が、ブレスが着弾する直前に、一斉に剣を突き出す。

 まるで巨大な槍のように、一か所に集められた剣先がブレスの中心を捉えた。

 その瞬間、ブレスが七方向に分裂する。先頭を行く騎士たちの後方には巨大な空間が生まれ、騎士の誰にもダメージはなかった。


 やがて黒龍のブレスが止むと、今度は騎士たちが動く。


 前方の七人の間から、三人騎士が飛び出す。

 黒龍はそれに反応して、手足、そして翼を振るった。


 その瞬間、三人は空中に存在する岩石を足場にして後退する。

 そしてその間から、最後の騎士が飛び出してきた。


 流れる様な巧みな連携に翻弄された黒龍は、攻撃後の硬直によって動けない。

 それを見逃さず、聖騎士が剣を振るう。

 

 狙いは翼と胴体の間。

 翼を使い物にならなくする、黒龍を大穴の中に閉じ込めようとする動きであり、この作戦の肝となる最初の攻撃だ。


 聖騎士が放った渾身の一撃が、狙い通りの場所を捉えた。


『GGAAAAA!!』


 巨剣が、翼を切り裂く。

 黒龍の巨大な咆哮がダメージの大きさを物語っていた。


 しかし、黒龍も一方的にやられたままではない。

 その傷口から発生した血液が、例の如く聖騎士に襲い掛かった。


 ルリと自分すらも回避した、黒龍の罠。

 本来であれば回避行動が最優先だが、聖騎士は逃げなかった。


 それどころか、襲い来る血を諸共せずに、今度は反対側の翼に斬りかかる。

 黒龍の誘導を受けた血液が、ヤツの狙い通り聖騎士に降り注ぐ。そしてその黄金の鎧に付着し、凄まじい勢いでその鎧を溶かしていった。


 聖騎士の動きが鈍る。

 黒龍が勝利を確信した様に目を細めた。


「アルたん! あの人の鎧が…!」


 いくら英霊の鎧であっても、黒龍の溶解力には及ばない。

 ルリの叫びに、自分は静かに目を瞑って、小さく笑みを浮かべた。


「大丈夫っすよルリ。聖騎士は信じるものがある限り、絶対に倒れない」


 聖騎士は、毒を喰らってなお止まらない。

 その程度で止まれるほど、彼の忠誠心は生易しいものではない。


 聖騎士は最後の力を振り絞って、軋む体に鞭を打って剣を振るう。そして一切の躊躇なく、自らを犠牲に反対側の翼まで斬り裂いた。


 その一撃に、黒龍の紅瞳が驚愕に歪められる。

 そして再び、傷口から大量の血液が噴出した。

 

 見事に役割を果たした聖騎士は、振り抜いた剣を掲げる。

 彼は仲間達の方を見上げると、胸に手を当てる独特の敬礼をした。


 自分が敬礼を返すと、聖騎士は満足そうに四肢を投げ出す。

 そして再び襲い掛かってきた黒龍の毒を全身で浴びて、そのまま消えていった。


 だが、それはあくまで序章に過ぎなかった。

 その聖騎士に続くように、次々と騎士たちが黒龍に向って飛び込んでいく。

 ある者は翼を重点的に、ある者はブレスを封じるために喉元へ。


 

 黒龍の翼に更なる攻撃。

 また一人、毒を喰らって消えていった。


 黒龍の手足に執拗な斬撃。

 また一人、毒の餌食となる。


 また一人、また一人…。

 そうやって騎士たちは数を減らしていくが、黒龍にも着実にダメージが蓄積されていく。


 その力は、圧倒的だった。

 悪夢のようなその光景に、黒龍は戦慄したに違いない。


 彼らは英霊。

 名誉と栄誉のために、その身を盾にできる。 


 犠牲を恐れぬ突撃によって、黒龍に致命的なダメージが入り続けた。

 もはや飛行することも難しいほどの重傷を負い、辺りに紫色の血液をまき散らしている。


 だがこちらも無傷ではない。

 十一人いた騎士の内、すでに十名が消滅した。


 一方的に攻撃したのにも関わらず、この損害だ。

 もし英霊たちがいなければ、こちらの陣営にも相当の被害が出ていただろう。


「…止めを!」 


 自分の命令で、最後の騎士が黒龍に斬りかかった。

 十分な速度と正確無慈悲な狙い。もはや黒龍に回避する事は不可能だろう。

 

 だが、嫌な予感がした。

 はっとして、黒龍の動きに目を見張る。


『G…GAAAAA…』


 魔力の渦が、黒龍の頭部に集まっていた。

 より正確に言えば、その口内に…。


「まさか!」


 あの兆候、見覚えがある。

 竜種を最強たらしめる代名詞、その破壊の力が、すぐそこまで迫っていた。

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