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第十八話:反撃の狼煙

 ~アルス視点~


 弾き飛ばされた黒龍が、ズザーっという音と共に十数メートル後方へ吹き飛ばされる。

 ギリギリの所だったが、何とか間に合った。


『GRUUUU』


 黒龍は自分をジロっと見据えて、低く唸り声をあげている。

 どうやら敵として認識されたらしい。周囲の兵達を自分の周りに集め、自分は一時的に後方にさがるほどに警戒してくれているらしい。


 純粋な強さでいえばルリの方が強いのだが、アイツにとって自分は天敵のようなものだ。

 大人しくしてくれているのなら、今がチャンスだろう。


 黒龍の周りにぞろぞろと集まっていく敵兵たちを見て、そんなことを考えていると、シスが驚いた顔をして駆け寄ってきた。


「アルス姉さん! こんな所で何を!? 一体何が起こっているのですか!?」


 本来自分は、ご主人の護衛として残る作戦だった。

 それにも関わらず、こんな場所にいることから、シスは何か想定外の事態が起きていることを悟ったらしい。しかし、自分はそれに関する説明を省き、目の前の問題に対処することを決めた。


「話は後っす! とにかくシスとルリには、自分と一緒に黒龍アイツと戦って欲しいっす! 三人で協力して戦えと、ご主人からの命令っす!」 


 そんな自分の言葉に、シスは焦りを押し殺した表情で頷く。


「分かりました。ですが、敵の援軍に対抗するためには高台の指揮が…」


 敵部隊には2000名の援軍が駆けつけている。

 あの数は脅威であり、高台の指揮を担当していたシスがそれを憂うのは当然のことだ。


 だがシスの言葉には、自分ではなく、後から追い付いてきた新しい妹が答えた。


「そちらは我々にお任せください」


 上気した頬で、少しだけ乱れた息を整えながらそう言ったエルフに、シスがぱちくりと目を見開く。


「えっと、どちら様ですか?」


 シスは初対面なので、当然といえば当然の反応だ。

 ハイ・エルフのミドリは、小さく頭を下げる。


「初めまして。ルリ様、シス様。私はミドリ。マスターであるプルソン様に生み出されたハイ・エルフです」

「天使のソラ」

「ヴァンパイアのラムですわ」


 続々と合流してきた仲間達の挨拶が済むと、ミドリはじっと敵の援軍と黒龍を見据えて続けた。


「…こちらの状況は聞き及んでおります。あの程度の兵力であれば、我々でも問題なく対処可能です。ですからお二人はアルス様と共に、あの龍を討ってくださいませ」


 それができるのは、他でもない自分達だけだ。

 それはシスにも理解できているだろう。


 やがて彼女は、覚悟を決めた表情で頷いた。


「…そうですね。分かりました。三人に高台の指揮を頼みます」

「お任せください。ソラ、ラム。行きますよ」

「「了解!(ですわ)」」


 一連のやり取りの末にその場を離脱し、高台へと向かった三人を見送って、自分はルリの頭を撫でる。


「ルリ、よく頑張ったっすね」

「えへへ」


 ルリは黒龍から攻撃を喰らったようだが、それでも最小限のダメージに抑えている。

 最後の最後まであきらめずに、必死に抵抗した様子だ。とても偉い。

 【女帝】の切り札相手に勇敢に立ち向かい、そして生きて帰った。姉として、そして仲間として誇らしい。


 自分はルリの頭から手を放して、兵達を周囲に集めている黒龍に視線を戻す。


「さて、大体予想はできてると思うっすけど、ちょっとマズイことになってるんで、さっさと龍を倒しちゃいましょう」

「でも、その方法が分かりません」


 相手は自分達よりも遥かにレベルの高いSクラス。【女帝】の側近を一騎打ちで倒したルリですら、逃げることしかできなかった黒龍だ。そんな相手を倒すことは簡単ではない。


 だが、無敵という訳でもないだろう。

 黒龍にも、何かしらの弱点はあるはずだ。


 ご主人が【女帝】に倒される前に、その弱点を見つけられれば自分達の勝ち。それを阻止すれば黒龍の勝ちだろう。


「諦めちゃダメっすよ。アイツも自分たちと同じ帝王の配下。絶対に無敵じゃない。何かしらの弱点があるはずっす」


 自分は懐から一枚の紙を取り出して、それをシスに向って投げた。

 折りたたまれた紙の中には、一つの魔術式が記してある。

 シスはそれを慌ててキャッチすると、小さく首を傾げた。


「これは?」

「ミドリに頼んで教えてもらった風魔法っす。名前は【風木霊ウィンド・エコー】。風に乗せて声を届けたり拾ったりできる便利な魔法っす」


 黒龍を追ってここに至るまでに、ハイ・エルフのミドリに念のため書いておいてもらったのだ。そしてその行動は正解だった。 


 自分は頭の中である程度の戦い方を組み立てながら、それをルリとシスに伝える。


「…自分とルリは、とりあえず黒龍あいつの相手をします。その間にシスは、アイツが放ったブレスの成分を解析してきてください。黒龍の主属性が分かれば、対処も容易いっすからね」

「なるほど、そういうことですか」


 竜種は強力なブレスという武器がある。そしてブレスの属性は、その個体が主に使用する属性に依存する場合が殆どだ。


 例えば、炎の魔術や特性を主体に戦う竜種のブレスは、総じて炎になる。

 黒龍の主属性が何なのかは分からない。だがそれが理解できれば、対処方法や弱点も予想できるようになるはずだ。


 シスの魔術は多岐にわたる。

 ブレスの解析は容易に可能だろう。


「結果が分かったら、さっき渡した【風木霊ウィンド・エコー】を使って自分とルリに報告を頼むっす」


 魔方式が書いてあれば、シスに操れない魔術はない。初見の【風木霊ウィンド・エコー】も完璧に使いこなしてくれるはずだ。

 

 そう思ってチラリと視線を送ると、シスは自信に満ち溢れた声で答えた。


「了解しました。任せてください」


 頼もしい限りだ。

 少しだけワクワクした表情で、シスが【風木霊ウィンド・エコー】の魔方式に目を落とす。


「相手に時間を与えるのもあれですし、さっそく取り掛かっても?」

「もちろん。それと二人を自分の部隊に組み込むっす。これで二人とも全力が出せるっすからね」


 自分がそう言うと、ルリとシスが淡い光に包まれた。

 これは自分の特性【王道を征く者】の効果だ。特性【王道を征く者】には、指揮する部隊に能力補正がかかる。これを使えば、ルリとシスは【固有能力】を発動せずとも全力に近い力を発揮できる。


「ありがとうなの。【固有能力】は使えないけど、これで安心なの」


 隣に並んだルリが、手をグーパーさせながら呟く。

 どうやら普通に動けるまで回復したらしく、伸びをしたり屈伸をしたり、戦闘前の準備を行っている。


 黒龍の方も準備が整いつつあるようで、敵兵に囲まれながらこちらをじっと見据えていた。

 それを鋭い視線で睨み返しながら、自分は隣に並ぶルリに声を掛ける。


「ルリ。黒龍アイツの周囲にいる敵兵をビビらせることはできるっすか?」


 黒龍とやり合うためには、まず敵兵を何とかしないといけない。

 全滅させる必要はないが、手出しできないと思い知らせる必要がある。それをルリに頼みたい。


 そう思って問うと、ルリは悪戯っぽい笑みを浮かべて銀色の細剣を掲げた。


「できるよ! さっきは一人だったからやられちゃったけど、今度はアルたんもシスたんもいるから大丈夫なの!」

「頼もしい限りっすね。それじゃそれが終わったら、自分と合流してくださいっす」

「了解なの。…その間、アルたんはどうするの?」


 自分はその疑問に、自然と笑顔を浮かべていた。

 心が高揚し、かつてない強敵と戦えることに喜びを感じながら口を開く。


「もちろん、あの龍とり合うっすよ。アイツの相手は自分がやります。ここまで二人みたいに目立った活躍は無かったっすけど、自分もそれなりに戦えるって所を見せてあげるっす」


 自分は腰に携えていた黄金の剣を抜き放つ。

 その黄金の輝きに、黒龍が再び低く唸った。


「それじゃあ、二人とも頼んだっすよ! 作戦開始っす!」


 そう叫んで、自分は全力で地面を蹴る。

 こうして、この戦争最大の戦いが始まるのだった。

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