第五話:配下召喚
俺の能力について少しだけ話したあとで、ノルンはさっと話を切り替えた。
「さて。それじゃあ概要は説明し終わったし。本格的に【配下召喚】について説明するね。もういっかい【配下召喚】ページを開いてくれる?」
「ああ」
俺はおぼつかない手付きで、ステータスから【配下召喚】ページに切り替える。
そこには二つの軸があった。一つは【固有召喚】もう一つは【選択召喚】だ。
「【配下召喚】には二種類あるんだ。まず【固有召喚】っていうのは、たくさんのEPを消費して、固有能力に応じた配下をランダムに召喚できるものだね。強力な子が召喚されるから、特筆戦力になる」
要するに、【固有召喚】はEPを大量消費して強力な配下を生み出すということか。
ノルンの指が横にスライドする。
「【選択召喚】は今まで倒したことのある子や、配下にいる子を召喚できるものだよ。よく使うのは、こっちかな。EP消費が【固有召喚】に比べて少ないし、知っている子だから上手につかってあげられる」
「【選択召喚】にはどのくらいのEPが必要なんだ?」
「うーん、一概に決まってるわけじゃないんだ。呼び出す存在の【ランク】によって、必要なEPも変わってくるからね」
耳馴染みのある言葉に、俺の脳が反応する。
「ランクか。なんとなく想像つくけど、一応聞いておいてもいいか?」
俺の喰いつきに、ノルンは「やっぱりキミも男の子だね」と笑って頷く。
「もちろんだよ。ランクっていうのは配下の存在の大きさを示すものだ。同じレベルなら、当然ランクが高いほど強くなるってわけだね。階級はAからGまであるよ」
「てことは、古参の帝王たちは【選択召喚】でAランクの配下を大量に獲得しているってことなのか?」
俺よりも早く生まれている帝王たちは、当然戦力を拡大しているだろう。
ランクAの魔物が大量に現れでもしたら、恐らく俺は太刀打ちできない。不安だ。
しかし、ノルンは首を横に振ってそれを否定した。
「いや【選択召喚】で呼べるのは、Bランクの子までだから、その心配はいらないよ。ちなみに参考までに教えておくけど、Bランクの子を【選択召喚】する時に必要なEPは10000から15000。Cランクは1300から1400、Gランクは500とかだね。【選択召喚】だけじゃ強くなるにも限界があるから覚えておいて」
その言葉に、少し緊張が解ける。
その説明が正しいのであれば、古参の帝王と新米帝王での力量差が緩和される。
生まれたての俺でも、最強の帝王になれる可能性がるのだ。
しかし、ノルンが俺に釘を刺す。
「でも、だからって安心はできないよ。【固有召喚】を何十回とやってる帝王たちは、Aランクの戦力をたくさん持ってるから注意すること。古い帝王とかになるとSランクなんて規格外もいたりするから、気を付けるんだよ」
「分かった」
ひとまずは安心だが、気は抜けないな。
「その【固有召喚】にはどれくらいEPがいるんだ?」
「そうだねー。相場はだいたい10万くらいかな~」
獲得できるEPがどのくらいかは分からないが、なんとなく大きな数字だということは分かる。
「EP集めにも苦労しそうだな。……そういえば、帝王を倒すと大量のEPが手に入るんだよな? それは具体的にはどれくらいなんだ?」
「どんなに弱い帝王でも30万EPは確定してるね。あとは当人の強さによって変わっていくよ。最強の帝王を倒せたら、もしかしたら何億っていうEPが手に入るかもね」
その言葉で、先程ノルンが教えてくれたことの信憑性が増す。
大量の魔物や人を倒すよりも、帝王一人を殺したほうが効率的だ。コツコツとEPを貯めるのが面倒な帝王もいるだろうし、帝王同士の戦争が頻発している理由も分かる。
しかし、狩る側の視点ばかりに立っても居られない。
俺の首にも30万EPがかかっているということを、忘れてはならないだろう。
「…急がないと、あっという間に殺されそうだな。やっぱり配下はたくさん欲しい」
「ボクもそれがおススメかな。さて、それじゃあ最初は【固有召喚】をしてみよう! 特筆戦力を最初に用意するのが一番大事だからね」
【選択召喚】から【固有召喚】のページに移動する。
「いくら二倍のEPが必要だっていっても、たぶん足りるからだ大丈夫だよ。楽しみだな~」
わくわく、といった様子で左右に揺れ動くノルン。
その期待に応えようと【固有召喚】を行おうとして……俺は首を傾げた。
「…それが、EPが全然足りないみたいなんだ」
「え?」
「俺が持ってるEPは16万。必要なEPは22万だ」
「うそ!? っていうか何でそんなにEPが少ないの!?」
「…少ないのか? そもそも何もしてないのに何でEPがあるんだ」
手元の16万EPはどこから湧いてきたのだろう。
首を傾げていると、ノルンが困った顔で答える。
「帝王は最初から20万EPをもって生まれてくるんだよ。だから半分の10万EPを使って【固有召喚】を一回しておく、っていうのがセオリーなんだ。……プルソンの場合でも【固有召喚】にかかるのは20万EPくらいだし、ぎりぎり問題ないかなって思ってたんだけど……」
そう言われて、俺の脳裏に一つの心当たりが浮かんだ。
「たぶん、さっきノルンと戦った時に使った芸の影響かもしれない。俺が生み出した刀は、俺の特性で再現したものだったから、EPがごっそり持ってかれたんだと思う」
「あ! あの剣のこと?」
「ああ。それに戦闘の知識を引き出すのにもEPを使った。どうも戦いには大量のEPを使わないといけないらしいな」
俺の能力はかなり燃費が悪い。それは実際に使用した感覚で理解できる。
ノルンの言葉通り、俺にも最初は20万EPがあったのだとすると、あの短時間の戦闘で、4万ものEPを持っていかれたという計算になる。あの短時間、たった一瞬の戦闘で4万だ。
他の帝王がどうかは知らないが、俺自身に直接的な戦闘力が無い以上、いざ戦いになれば大量のEPを消費しなくてはならないだろう。これは参った。
「あー、そっか。なるほど……まぁでも、あれはボクのせいだから………ええい! 仕方ない!」
俺の言葉に、ノルンは覚悟を決めた顔で言う。
「ボクのEPをあげるから、使って!」
「それは悪いよ」
いくら先輩帝王でも、そこまで面倒を見てもらっては申し訳ない。
しかしノルンは強引に俺の心臓に手を押し当てると、微笑みながら呟いた。
「いいんだ。キミが来てくれただけで、ボクは満足してるから。あげられるものは、全部あげたいんだ」
「それはどういう…?」
最後に悲し気に細められた目に、俺は戸惑う。
しかし俺の問いが言葉になる前に、ノルンが光を放った。
「いいからいくよ! えいやっ!」
その瞬間、心臓がドクンと跳ねた。
大量のEPが流れ込んでくる。膨大な力が俺の全身を支配し、快感に脳が揺らぐ。
自分と言う存在の格があがることに、これ以上ない喜びを覚える。
一歩間違えば、中毒になりかねない。
もし強大な帝王を打倒しようものなら、一体どれだけの快感が待っているのだろうか。
「…どう? 受け取れた?」
上目遣いで聞いてくるノルンが、いつもに増して魅力的に見える。
まだ幼さの残る妖精の美少女だ。彼女を今すぐにでも貪り尽くしたい。
(ああ、そうだ。もっといい方法があるじゃないか)
彼女も帝王だ。
今この場で彼女を殺し、そのEPを奪えば更なる快感が…………。
そこで我に返る。
(俺はEPを譲ってくれた恩人に対して何を考えていた?)
煩悩ごときに支配されるな。
気を強く持て。
「プルソン? 大丈夫?」
俺は自身の内側に湧き上がる煩悩を、深呼吸することで断ち切った。
気を取り直してEP残高を確認すると、先ほどまでは16万EPだったのが、26万EPになっている。ノルンは10万ものEPを俺に与えてくれたわけだ。正直気が引ける量だが、受け取ってしまったものはしかたない。有効活用させてもらうとしよう。
「…ああ。大丈夫だ。EPもありがとう。…だけど、これはちょっとやばいな」
まだ脳が、先程の快楽を忘れられずにいる。
今すぐにでも、次のEPを浴びたいと叫ぶ本能が厄介だ。
「あ、分かるよ。たくさんEPを吸収すると気持ちいよね」
「ああ。正直もう少し多かったら、どうなってたか」
一度に大量のEPを取得するのは、できれば避けた方がいい。
今の一瞬で分かったが、EP取得はとてつもない快楽物質だ。帝王同士の戦争が無くならないのは、その中毒者が大量にいるからかもしれない。
中毒者にとっては、標的など誰でも良いのだ。変な戦いに巻き込まれないように気を付けよう。
「さて、それじゃあ必要EPも満たしたことだし、さっそく【固有召喚】いってみよう!」
「分かった。ノルンにもらったEP、無駄にはしない」
俺はそう頷いて【固有召喚】を行う。
体から大量のEPが放出され、準備が整った。
さあ、まずは最初の配下を呼び出そう。
俺の配下召喚は方向性をある程度決められるが、どんな配下が良いだろうか。
【経験値】と【EP】が混同していたので、帝王に関しては全て【EP】に統一しました。【経験値】はまた配下に関する情報で出てきます。以後よろしくお願いします。