表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
59/82

第十四話:想定外

 エルフのミドリ、天使のソラ、ヴァンパイアのラムの活躍で、開戦から僅か数分で【女帝】の別動隊は姿を消した。


 太鼓の演奏を終えた俺は、帰ってきたの三人を見やって笑う。


「みんなお疲れ様」

「マスターもお疲れさまでした」


 涼し気な顔でミドリが答え、ソラとラムも淡々とした様子で頷いた。


「さっそくで悪いんだけど、みんなで移動して中央の部隊を叩こう。今はアルスが奇襲して足止めしてるけど、できれば早めに合流して中央部隊を叩き潰したい」


 いくら戦上手と言えど、アルスに預けたのは百体だけだ。千体を相手にするには少し戦力的に厳しいものがある。だがそこにこの子達が加われば、何も問題はないだろう。


「了解。早く行こう」

「そうですわね」


 右の部隊を潰した俺達は、急いでアルス達の援護に向かう。



 中央の道へ到着すると、そこには毒で行動不能になった無数の敵兵が転がっていた。

 俺達の元に、アルスが駆け寄ってくる。


「ご主人! 作戦はうまくいったんですね!」

「ああ。アルスたちのおかげでな」

「その子たちは?」


 アルスの目が俺の背後に向いた。


「今回の右軍殲滅の立役者だ。エンジェルのソラ、ハイ・エルフのミドリ、ヴァンパイアのラム。……アルスの妹だよ」

「なるほどっす! みんな初めましてっす。自分はアルス。ご主人の懐刀っす」


 自己紹介を済ませたアルスに、俺は周囲の状況を確認しつつ声を掛ける。


「さてアルス。俺達も来たことだし、さっさと中央軍も討ち取りたいんだが…敵はどこだ?」


 彼女達の援護に、そう思って駆け付けたのだが、辺りに敵の姿がなかった。

 もしかしたらアルス達が殲滅してしまったのか、とも思ったが、さすがにそれは不可能だろう。

 そう思って問うと、彼女は少し困惑した顔で答える。


「それが、もう既に撤退してしまったんです」

「…なに?」


 少し想定外の事態だ。

 俺はてっきり、【女帝】は中央部隊を戦わせ、その間に高台に向かうと思っていた。作戦会議で少し予想した限りでは、アルスもそれに近い意見を持ち合わせていた。

 しかし、実際はそうではないらしい。


「…まぁ、無駄な犠牲を嫌ったってところか」


 【女帝】は悪い人ではない。おそらく仲間を大切に思う、俺と似た考え方を持つ帝王だ。そういった考えのもと動いた可能性は大いにある。


 ただ、俺の直感は警戒を強めていた。

 その違和感のまま、口を開く。


「…だが、それだけじゃないだろうな。きっと【女帝】には何かある」

「自分もそう思うっす。もしかしたら切り札的なものを出してくるかも知れないっすね……」


 俺とアルスは、互いに少しだけ思考に意識を費やす。


 すると、少しだけ既視感のある現象が起こった。

 俺達の周囲に穏やかな風が吹き、やがて前方の樹の上から、聞き覚えのある声が聞こえて来た。


「まさか、そこまで読まれていたとは驚きね」


 木の幹に腰掛けていたのは、黄金髪の吸血鬼。

 赤い目をした勝気な少女だった。


 アルスが、腰に携えていた剣を抜いて叫ぶ。


「【女帝】!」


 俺達の前に現れたのは、今回の対戦相手である【女帝】だった。

 だが、彼女が拠点を捨ててここまで来た理由が分からない。

 こんな状況は、戦争前の作戦会議でも予想できなかった。


「プルソン、あなたは強いわ。新人の中でも頭一つ抜けてる。これから時代を背負って立つ帝王になる資格を持った人だわ」


 想定外の事態に困惑している俺に向って、【女帝】が疲れたように笑う。

 俺は困惑を悟らせないように、悪戯っぽい笑みを浮かべて見せた。


「そりゃどうも。それで、わざわざ拠点を捨ててこんな所まできたのは、そんなことを言うためなのか?」

「ふふ。たしかにそれもあるけれど、本来の目的は違うわ。私は警告に来たのよ。高台にいる天使ちゃんたちを死なせたくないのなら、今すぐに降参しなさい」


 【女帝】の口から飛び出した言葉に、俺は思わず目を丸くしてしまう。


「なに?」

「今、私の全ての軍が、あなたの大切な仲間のもとへ向かっているわ。数が減ったとはいえ、総勢2000はいる」


 【女帝】が何を考えているのか分からないが、そうであっても俺のやることは変わらない。


「そんな口車に乗せられると思ったのか? たかが・・・2000くらい、俺の仲間なら軽く葬ってくれるだろうさ。これまでの戦いと同じようにな」


 俺はルリとシスを信頼している。あの二人なら、例え敵が2000体であっても、問題無く高台を守り切るだろう。それに俺の拠点を狙う部隊を滅ぼした今、もはや揺動である高台に固執する理由はない。二人には適当な所で撤退させれば、被害は最小限に抑えられるだろう。


「そうね。この戦いで、私は完全にあなたに出し抜かれてしまったわ。2000という兵力であっても、天使ちゃんたちならきっと弾き返すでしょうね」


 【女帝】もそれは承知のようだった。

 それにも関わらず、彼女の目には確信がある。

 

 俺を見やった【女帝】は、ゆっくりと笑みを浮かべる。


「でもね、プルソン。あなたは一つだけ読み違えたわ」

「なに?」

「…私は【竜帝】アガレス様の弟子。世界最強たる血を受け継ぐもの。その力をあなたは知らない」


 【女帝】が【竜帝】と親し気だったので、そういった関係もあるだろうと思っていたが、やはり師弟関係だったらしい。だが、今それを言ったところで、無意味であるということを彼女は理解しているのだろうか。


「そうか。だが例えそうだとしても、今回の戦争で支援はできないだろう。それを決めたのは、他でもないアンタの師匠だ」


 俺は挑戦的な言葉で【女帝】を挑発する。

 しかし彼女は、小さく不敵な笑みを浮かべた。


「そう。やっぱりあなたは知らないのね」


 それは決して、諦観の類ではない。

 明らかに何かを喜び、俺を出し抜いたと確信した笑みだった。

 

 それを視認した瞬間、チリチリと首筋を何かが掠めるような、嫌な予感がした。


「帝王は弟子に対して、一度だけ力を施すことができるの。それを使って生み出された存在は、本来新人が手にして良い戦力に収まらない」

「まさか…」


 俺の言葉に、【女帝】は淡く笑う。


「そう。私はあなたを認める。あなたを同格以上だと認めるからこそ、敬意を込めて、私の切り札を使わせてもらうわ!」


 【女帝】が首から提げていた豪勢な笛に手をかける。

 その行動に危機感を覚えた俺は、即座に叫んだ。


「アルスっ!!」

「了解っす!!」


 俺の隣にいたアルスが、凄まじい加速で飛び出す。

 彼女も【女帝】の行動の危険度を察知しているのだろう。

 あれは間違いなく、その切り札に関連する何かだ。その使用を放置しておくことは最も愚策であり、今成すべきことは、決まっている。


 それはつまり、【女帝】がその切り札を使う前に、全力をもって彼女を仕留めること。

 

 アルスが放った神速の一撃が、【女帝】の喉元に迫る。

 これならば、彼女が切り札を使う前に戦争を終わらせられる。


 だが、そう考えるのは早計だった。


 その場に、ガキンという硬質な音が響く。

 アルスの顔が悔しさに歪んだ。


「…速い。ですが剣筋が素直過ぎますね」


 アルスの剣は【女帝】に届く前に、彼女の後方から現れたエルフの風刃によって受け止められていた。アルスの剣を正面から受け止められたということは、彼女はおそらく【女帝】の側近だろう。今まで木々を利用して潜んでいたのか。


「…やっぱり一人で来る訳ないよな」

「ええ。この子はリリス。私の信頼できる仲間よ」


 もはや【女帝】を止める術はない。

 俺は小さく舌打ちをし、【女帝】は笑みを深める。

 やがて彼女は、覚悟を決めた顔で叫んだ。


「…来なさい、ファブニール!」


 その名を口にした瞬間、握りしめた笛がゆっくりと光を放つ。

 そして遥かな上空に黒色の光が生まれた。

 

 次の瞬間。


 俺達の頭上に、黒い何かが降りて来た。

 姿を現したそれは、俺達の頭上で叫ぶ。


『GGAAAAAA!』


 その巨大な咆哮が、俺達を魂から凍り付かせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ