第十二話:【烈士太鼓】
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ドン、ドンと、戦場に太鼓の音色が響き始める。
その音に気が付いた【女帝】の部隊が丘上を見上げ、そして驚いた様に口を開いた。
「…【芸帝】だ! 【芸帝】がいるぞ!」
「なぜヤツがこんな所に!?」
「とにかく隊列を整えろ! 奴は俺達を止めるつもりだ!」
賢い者が、俺がこの場所に現れた理由を察する。
だが、対策を講じる時間を与えるほど、俺は優しくはない。
太鼓の音色を響かせながら、俺は背後に控えた三人に声を飛ばした。
「ミドリ、ソラ、ラム! 頼んだ!」
「「「了解(ですわ!)」」」
俺の言葉で、三人が一斉に飛び出す。
そして凄まじい速さで、丘を下りはじめた。
【女帝】の部隊が揺らぐ。
「…クソっ! 防御陣形が間に合わない!」
Bランクレベル20。
その速さは伊達ではない。
三人は一気に丘を下ると、凄まじい速さで敵部隊に迫っていく。
敵部隊を指揮しているであろう男が、覚悟を決めた様子で声を荒げた。
「…盾持ちは前に来い! そして前方に対して防御陣形を展開しろ!」
男の指示で、盾を持った十数名が、折り重なるようにして防御陣形を展開する。
まさに絶壁。実に洗練された陣形だった。
「Bランクとはいえこの鉄壁相手に、たった三体では何もできまい!」
普通に考えれば、いかにBランクといえど、たった三人であの防御を抜けることは難しい。
だが、三人は互いに視線を交わして頷き合うと、三方向に分かれて走り出した。
ハイ・エルフのミドリは左に、天使のソラは右に、ヴァンパイアのラムは敵正面に向かって走り続ける。
そしてラムはそのまま、中央突破で防御陣形に向かって突っ込んでいく。
敵兵が驚愕に目を見開く。
「…たった一人で突っ込んでくるぞ!」
「焦るな! Bランクであっても一人では何も……」
ラムは彼らに皆まで言わせない。
深く踏み込み、一気に地面を蹴って加速する。そしてその速さを力に変換するが如く、迷いなく拳を盾に突き立てた。
その瞬間……。
「ぐわああああ!」
「ぎゃあああ!」
敵部隊前方を固めていた屈強な盾持ち集団が、嘘のように吹き飛ばされた。
宙を舞う彼らを見上げて、相手指揮官が唖然と口を開く。
「ば、バカな……なぜここまでの力が…」
その間にも、ラムは凄まじい速さで盾持ち達への攻撃を続行している。
指揮官の驚きは当然で、本来のBランクは、あれだけ圧倒的な力を持つことはない。
この結果は、俺の【鼓舞の音色】による強化効果によるものだ。
【鼓舞の音色】は非常に多彩な強化効果を持つ。
発動中、自身の芸能を見聞きした味方の全能力値上昇。攻撃力、防御力、機動、固有能力に補正(中)。そして芸能に応じて様々な効果を付与などなど…。
簡単に言えば、【鼓舞の音色】発動中、俺の仲間は三重の強化を得ることが可能だ。
そして芸能に応じて付与される効果の中には、破格の力を持ったものが存在する。
その一つが、俺の切り札でもあるこの太鼓だ。
その名を……。
「【烈士太鼓】」
俺が演奏しているのは、ただの太鼓ではない。
それは、圧政に立ち向かった人々の命の音。
その唸りは怨嗟悔恨の韻り。
その轟音は御霊たちの鬨。
人々を鼓舞して団結と勇気を与えた者、そして彼らを英雄として祀った者達が、何十年、何百年と受け継いできた伝統芸能だ。
始まりは数百年前。
作物が育たない不毛の大地で、藩主の厳しい取り立てに喘いでいた者達が、大切な者の命を守る為に反逆を行った。それが烈士太鼓の始まりとなったと言われている。
俺が烈士太鼓を今回の戦いにおいて選んだのは、何と言ってもその強化効果が凄まじいからだ。
烈士太鼓における強化効果は、圧政に反発したその歴史が表すように、攻撃に特化したものになっている。
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【烈士太鼓】……勇気作用(大)、攻撃(特大)、背水(大)
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勇気作用、攻撃は、文字通り仲間に勇気と力を与えるもの。
そして背水は、敵兵力が多ければ多いほど、こちらの力も倍増していくという条件付きの強化効果だ。敵がこちらに比べて百人多い程度では大した効果は得られない。しかし、今回は四対千、250倍もの兵力差がある今、その効果は最大限に発揮されている。
そのために、俺は一人でここに来たのだ。
懐刀であるアルス、最強の矛であるルリとシスを囮にして敵の目を欺き、最小限の人数で【背水】を十分に生かせる状況を作った。
それを読めなかった時点で、敵軍の敗北は決まっていたのだ。
打面とフチを交互に叩き、独特のリズムを奏でる。
最高級の太鼓を叩き、曲を奏でることは、芸能に携わる者にとってこれ以上ない快感だ。太鼓の演奏が楽しくて仕方がない。
そして俺が自分の演奏に没頭すれば没頭する程、その効果は高まり、三人の力が高まっていく。
今の三人は、もはやBランクであっても、Bランクに収まる存在ではない。
【烈士太鼓】、特に【背水】の影響で、一人一人がAランク上位に匹敵する力を有している。
兵力差が埋まることで、背水の影響が薄まったとしても、Aランク相当の力は残る。そのため敵を蹂躙していくという結果は変わらない。
一人は風を操りながら弓と短剣で、一人は大規模な魔術で、一人は圧倒的な運動性能で。
まるで濁流のように流れ込んでくる敵兵を、三人は極めて冷静に、そして確実に葬っていく。
一撃で数十体の敵兵が吹き飛び、塵に還る。
まさに蹂躙、という言葉が正しい光景だった。
「貴様あああ! これ以上好きにさせるかああ!」
怒りに震える敵指揮官が、自ら先陣を切るラムに剣を向ける。
そして叫び声と共に突撃を敢行した。
少し驚く。
「さすがに指揮官を任される実力者なだけあるな」
凄まじい速さだった。
恐らくBランク、ひいてはAランクにも匹敵する力を持っているのだろう。
だがラムは、彼を一瞥して不快そうに眉を潜める。
そしてぽつりと呟いた。
「うるさいし、邪魔ですわ」
その瞬間、暴風が吹き荒れた。
指揮官を含めた数名が、先程となんら変わりなく吹き飛ばされ、塵に還る。
「…貴様……いやこれは【芸帝】の力か。ははは、化け物め」
消えゆく体で、指揮官が淡く笑った。
彼の言葉をトリガーにしたように、三人の攻撃は更に苛烈さを増す。
「…三人とも、遠慮はいらない。好きなように暴れろ」
「「「了解(ですわ!)」」」
太鼓の音と敵軍の悲鳴が木霊する。
このペースであれば敵軍が全滅するまで、そう時間はかからないだろう。
「…さて、伝統芸能で世界を統べようか。これはそのための第一歩だ」
俺は小さくそう呟いて、バチを振るう左右の手に力を込めた。
面白い伝統芸能があれば、ぜひ教えてください。きっとプルソン君が効果的な使い方を考えてくれるはずです…! これからもよろしくおねがいします!




