第十一話:芸の帝王
【女帝】の別動隊はすぐそこまで迫っている。
それに対処する為に、俺はさっそく作戦を開始する。
「まず、三人に経験値を付与しよう」
俺は【帝王録】を開いて、EPを経験値に変換する。そしてそれをミドリ、ラム、ソラの三人に与えた。その瞬間、彼女たちの身体が眩い光を放つ。これは何度も見て来たレベルアップの光だ。
「よし。上手くいったな」
これはつい最近まで気が付かなった、帝王が持つ力の一つだ。
帝王は【配下】項目から、EPを使って配下のレベル上げることができる。
そもそもEPは、レベルアップに必要な経験値と同質のものだ。であればEPを使って配下のレベルアップが可能なのは何も不思議なことではない。むしろ今まで試そうと思わなかったことが不思議なくらい、当然と言えば当然のシステムなのだ。
そしてBランク配下の場合、1レベル上昇に必要なEPは最高で2000だ。
最高としたのは、レベルが高くなればなるほど、レベルアップに必要な経験値が増加するから。
Bランク配下を例に見ると、レベル1からレベル20までに必要なEPは500。レベル20からレベル40までは1000。そしてレベル40以上であれば、1レベル上昇に2000EPが必要となる。
Bランクの配下にもレベル上限が設けられており、レベル80までが限界だ。だがそれでも通常のレベリングであれば、レベル上限に達するまでに数か月から数年かかる。それをEPを使うだけで大幅に短縮できるのは、何とも助かる仕組みだ。
ちなみに余談だが、Sランクのアルスの場合、一レベル上げるのに10万EPという常識破り過ぎる数値だったので諦めた。ルリとシスはレベルを共有しているので、もはや一人のSランクであると考えられる。こちらもアルスと同様に、レベリングには破格のEPが要求された。
それならコツコツとレベリングしたほうが、EP的にも優しい。
今回は三人をレベル20まで上げたので、合計3万EPを消費した。
召喚時に使用した4万EPと合わせると、計7万EPを使用した計算になる。
これで俺の手持ちEPは、28万から21万になった。
それでもまだEPには余裕があるので、不測の事態にも対応できそうだ。
せっかくなので、三人のステータスを確認しておく。
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名前:ミドリ
種族名:ハイ・エルフ
ランク:B
Lv:20
統率35 知略40 耐久30 攻撃35 魔力50 機動50 幸運30 特殊10
特性: 長耳族 風の導き手 翡翠眼 狩人
≪特性説明≫
長耳族……優れた聴覚を持つ。また森林での機動、魔力に補正(小)。
風の導き手……自らを中心とした一定範囲における風を操作可能。
翡翠眼……風や魔素の流れを感知可能。
狩人……弓、短刀を使用した際に攻撃補正(小)。
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ミドリはハイ・エルフらしく、風や魔力に関係した力を持っている。≪特性≫も優秀なものばかりで、戦闘はもちろん、戦闘以外でも活躍できるポテンシャルを持っているようだ。
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名前:ソラ
種族名:エンジェル
ランク:B
Lv:20
統率35 知略60 耐久15 攻撃30 魔力60 機動30 幸運60 特殊30
特性: 天使族 魔導士 神の尖兵 魔力体
≪特性説明≫
天使族……悪魔系の敵に対して能力値補正(大)。
魔導士……四大属性の中級魔法が使用可能。また使用者の魔法効果が二倍になる。
神の尖兵……ある程度、敵の罠を看破する力を持つ。また神族を除くすべての種族に対して能力補正(小)。
魔力体……体を実体化させないことが可能。特定の方法を除くすべての攻撃を無効化する。
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エンジェルのソラは、Bランクの中でも魔法操作に長けた存在だろう。魔導士、神の尖兵、魔力体、どれも非常に強力な≪特性≫だ。
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名前:ラム
種族名:ヴァンパイア
ランク:B
Lv:20
統率30 知略40 耐久80 攻撃80 魔力20 機動50 幸運10 特殊10
特性: 吸血鬼族 吸血 鮮血弓剣 武闘家
≪特性説明≫
吸血鬼族……攻撃、防御に補正(大)。魔力、幸運値が低下する。
吸血……生物から血を吸収することで、全能力値が一時的に上昇。
鮮血弓剣……血を使って弓、剣を生成可能。
武闘家……極まった格闘技術を有する。格闘時、攻撃補正(小)。
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ヴァンパイアのラムは、近接戦闘に特化した存在と言えるだろう。ヴァンパイアは異能使いと思われがちだが、どうやら耐久と攻撃に優れた肉弾特化型の戦士らしい。魔力と幸運の値がかなり低いが、その他の能力値は見事なもので、≪特性≫も近接戦闘をサポートするものが多い。イメージとしては、硬い鎧に身を包んだ強力な戦士といったところだろう。
…それにしても、三人とも驚くほど強い。
これが【選択召喚】で生み出せる最高レベルの存在ということだろう。
今まで生み出してきたのが、スケルトンやゴブリンといった低ランクの魔物ばかりだったので理解できなかったが、これほどの存在を狙って生み出せるのであれば、【固有召喚】よりも【選択召喚】を好む帝王が多いということにも納得がいく。
【選択召喚】の計画についても、今一度改める必要がありそうだ。
「マスター。敵が来ました。まっすぐマスターの拠点に向かっているようです」
聴覚に優れ、風を操る能力を持ったハイ・エルフのミドリが、長い耳を反応させて呟く。
いよいよ決戦の時が来たようだ。
「よし、それじゃあ始めよう。【芸具模倣】」
俺は知識に存在する道具を生み出す特性、【芸具模倣】を使用する。
今回の芸具はかなりの大きさなので、それなりにEPを消費する上に時間がかかる。
一万という、【芸具模倣】にしてはかなりのEPを消費して、静かに待つこと一分。
俺の前に大きな宮太鼓が現れた。
それは一メートルをわずかに超える巨大さで、最高級のケヤキや皮を使用して作られている。
磨き抜かれた胴、ピンと皮が張られた打面、黒い鋲が一つ一つ精巧に打ち付けられており、一目で最高級品であると分かる。
「…時間の重みを感じる、良い太鼓だな。さすが【芸帝】の力だ」
俺はそう呟き、地面に設置された大きな太鼓を撫ぜた。
【芸帝】の能力で生み出したので、今回は一瞬で作ることができた。
しかし、このレベルの太鼓は実際に作るとなると、かなりの時間がかかる。
太鼓の胴の部分は、堅い木で作られる。
それも巨大な直径を有する、樹齢100年を超えるの木が必要だ。
そのため、素材になるまでに、人間の一生以上の時間が、長い月日が必要なのである。
そして素材となって加工が始まってからも、時間が必要だ。
ケヤキの原木の、枝のない部分を必要な長さに切り、半年から1年くらい乾燥させる。長いものでは二年近くも乾燥させる必要があるので、太鼓を作るためには、他の楽器以上に長い月日が必要なのだ。
俺が生み出した太鼓には、それらの全ての条件に合致する、最高の素材が使われている。
帝王として生み出された俺だけが持つ、時間と条件を超越した特権だ。
静かに微笑む。
すると、手中に若干太めのバチが出現した。
太鼓はバチを使って演奏するものだが、それにもいくつか種類がある。宮太鼓はかなり大きめのバチを使用する。
「さて、そろそろ時間だな」
ちらりと丘の下を通っている街道を見やると、続々と【女帝】の部隊が現れ始めていた。
彼らは真っ直ぐに街道を進んでおり、丘上には少しも注意を払っていないようだ。
ルリとシスが、天幕に俺と同じ格好をしたスケルトンを入らせたことで、敵は俺が高台にいると思い込んでいる。こちらの戦力を知っていることもあって、もはやこちらの防衛は不可能だと判断しているのだろう。
だが、それは間違いであることを、彼らは今から知ることになる。
これから始まるのは戦いではなく、力による一方的な蹂躙だ。
Bランク三人。1000体を相手にするには相応しくない戦力だと笑われるかもしれないが、俺はそうは思わない。
俺の仲間は、BランクであってBランクではない。
強い仲間がいて、毒武器という新兵器を見せたことで忘れられているかもしれないが、俺は【芸帝】だ。仲間を強化し、その先の強さへと導くのが俺の役目。それを今、教えてあげよう。
「始めよう。【鼓舞の音色】」
俺はそう不敵に笑って、右手に持ったバチを振り下ろす。
そしてこの戦場に、ドーンと大きな太鼓の音を響かせた。




