第六話:幻獣召喚
私たちは特性の一つ、【幻獣召喚】を発動する。
特性、【幻獣召喚】の効果は極めてシンプルだ。
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【幻獣召喚】……幻獣を眷属として召喚可能。また眷属に騎乗している場合は能力が上昇する。(眷属のランクに応じて召喚に必要なMPは増大し、召喚時間は使用者のレベルに依存する。
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簡単に言えば、自分の強さに応じて様々な眷属を生み出すことができる特性だ。
私たちは合計で十二体の幻獣を召喚することができる。
「【幻獣召喚:フェンリル】!」
ルリが召喚するのは、移動速度に特化した【フェンリル】だ。
フェンリルは魔法や特殊能力がない代わりに、Aランク上位相当の身体能力を持つ。そして何より、その背に人を乗せて走ることが可能だ。
【幻獣召喚】には騎乗時に能力が上昇する効果がある。
ルリはあの弓使いとの根本的な能力差を埋めるために、騎乗可能なフェンリルを選んだのだろう。
「【幻獣召喚:バジリスク】」
一方で私は、範囲攻撃に特化した【蛇鳥バジリスク】を召喚する。
バジリスクはCランク相当の身体能力しか持たないが、その代わりに広範囲魔法を連発することができるという強みがある。それに加えて敵を早く、効率的に倒していくために、バジリスクが持つ特殊能力が必要なのだ。
数秒と経たぬうちに、私たちの目の前の地面に魔法陣が描かれる。
そして眩い光と共に、ルリの眼前には体長三メートルほどの巨大な狼【フェンリル】が出現した。私の前には、翼を広げれば十メートルにもなる、蛇の尻尾を持った大鳥【バジリスク】が出現する。
二体の使い魔たちは、私達の前に恭しく頭を垂れて、命令を待っていた。
「それじゃあシスたん! 行ってくるの!」
「ええ。気をつけて」
「まかせて! 絶対あの弓使いを倒してくるの!」
ルリはそう笑うと、勢いよくフェンリルに跨った。
「フェンちゃん! それじゃあ行こ!」
『ワオン!!』
白い毛に青い瞳を持つ狼は、一つ大きく吠えると、主人であるルリを乗せて勢いよく走り出す。
するとフェンリルは、すぐに常人には視認することすら難しい速さに到達した。
ルリが叫ぶ。
「フェンちゃん! 敵軍を突っ切って! 敵は私が倒すの!」
フェンリルに騎乗し、私との繋がりが維持されている今であれば、ルリはSランク中位の戦闘力を有している。一見無謀に見える突撃だが、今の彼女は、実際それでも問題ないほどに強い。
『ワオン!!』
フェンリルに指示を出したルリが、圧倒的な速さで丘を下っていく。
そして、ルリが腰に提げていた銀色の細剣を抜き放った。
その光景に、驚いた様な顔を声を上げながら攻撃を仕掛けてくる敵軍に向って、ルリが吠える。
「邪魔なの!」
フェンリルが速度を上げて、ルリが剣を一閃する。
たったそれだけで、ルリの前に立ちはだかった敵が、嘘のように容易く切り裂かれた。
一撃で数十体の敵が葬られ、フェンリルが速すぎる故に発生したソニックブームで、その亡骸が宙を舞う。
敵軍のそこかしこから、呆けたような声が上がった。
それも当然だろう。
誰だって次元の違う強さを見せつけられれば、恐怖や怒りよりも先に、理解不能という言葉が頭を過るはずだ。
そして、ルリが初めて見せた全力はそれに値する。
CランクやBランクであっても容易く屠る、Sランクの上に君臨する存在。
パパが私達に求めた純粋な強さを、ルリは今まさに証明して見せたのだ。
「私達も行動を開始しましょう」
『グルゥ!』
私の前で待機していた薄灰色の大鳥が、小さく唸って了解の意を示した。
幻獣召喚で生み出される眷属は、会話をすることはできないが、こちらの言葉を理解するだけの知性を有している。
「バジリスク。特性と魔法を使って、ルリの進路上にいる敵を優先的に叩いてください。ルリが弓使いの元まで辿り着いたら、その周囲を制圧。ルリと弓使いを一騎打ちに持ち込ませてください。そうすればあの子は負けない」
『グルルゥ!』
私の命令を受けて、バジリスクがその翼を広げる。
そして、横幅が十メートルに達するほど巨大な鳥が、辺りに旋風を巻き起こしながら飛び立った。
『グルル!!』
悠々と大空を舞うバジリスクは、敵軍の指揮官に撃ち抜かれない程度の位置で停止すると、空中で魔力を高め始めた。そして口の中に魔力を集め、それを青白い炎に変換して敵軍に放った。
「相変わらずとてつもない威力ですね」
その攻撃を見て、私は静かに呟く。
龍種は種族的な特性として、ブレスを扱える。
魔術やその他の攻撃をブレスとして放つことで、攻撃力や効果を底上げすることができるのだ。
これこそが龍種が最強種たる所以であり、戦闘能力に秀でた存在であると誰もが認める理由だ。
上空から青い炎をブレスとして放つことができる。
それこそがバジリスクの強みなのだ。
身体能力、魔法性能で言えば、バジリスクよりも優秀な幻獣は存在する。
しかし空中から一方的に敵を狙い撃ちすることができるのは、バジリスクが持つ唯一無二の能力だ。
だから私は他のどの子でもなく、バジリスクを選んだのだ。
「ぐああああ!!」
「何だあれは! 聞いてないぞ!!」
「怯むな! こっちにはシリル様がいるんだ!」
空中から亜音速で飛来する青炎の帯に、敵軍は有効的な対処法を見つけられずに、次々と焼かれていく。そんな仲間を見て、運よくバジリスクの攻撃を回避した者達は混乱していた。
良い感じだ。
そろそろ高台も動こう。
「私も始めましょうか。【炎槍】!!」
私も魔術を発動する。
強化された能力によって、灼熱の炎で形作られた無数の槍が背後に生まれた。
燃え盛る業火の熱量を感じ、その眩い光に照らされながら、私は掲げた腕を前に押し出す。
すると、私の後方にあった【炎槍】が、凄まじい速度で飛び出した。
唸りを上げながら敵軍に向かった【炎槍】は、そのまま超音速で敵部隊に突き刺さる。衝撃波と熱によって数多の敵兵が倒れ、四散した槍に宿る炎が形を変えて敵部隊を蝕んでいった。
「…両スケルトン部隊、同時に構え!」
私は【炎槍】を発動しながら、ルリが指揮していたスケルトン部隊にもまとめて指示を出す。
スケルトンは低ランクの魔物なので、バジリスクとは違って、指揮するものがいなければ動くことができない。ルリが前線に出た今、同等の存在である私が指示を出す必要がある。
「…撃て!」
タイミングを見計らって指示を飛ばしつつ、私も魔法を同時並行で行使する。
ルリが弓使いに辿り着くことが最優先だ。私はあの子進撃を掩護するように、進路上にいる敵軍を中心に魔法を叩きこんでいく。
「ルリの邪魔はさせませんよ」
空と高台からの援護、これがあればルリはきっと、あの弓使いへと辿り着くだろう。
だがそこからは、あの子の力に頼るしかない。
バジリスクもあまり近づきすぎると、敵の狙撃の餌食となるし、私自身もしばらくはここを離れられない。だからこそ、ルリの力を信じて任せるしかないのだ。
「…頼みましたよ、ルリ」
祈る様な思いで、私は丘を下っていくルリを魔法で援護した。




