第五話:約束
~シス視点~
敵が高台の攻略を始めてからかなりの時間が経過した。
その間、スケルトン部隊の毒矢や砦に仕掛けた罠を活用して敵を一方的に葬ってきたが、ここにきて少し変化があった。
「…またですか。どうも敵に凄腕の弓使いがいるようですね」
毒矢を放っていたスケルトン部隊の一員が、どこからともなく飛来した矢によって眉間を撃ち抜かれ、塵となって消滅した。
身に着けていた装備だけがこの場に残り、カランカランと音を立てて地面に転がる。
これで三度目だ。
スケルトンを狙撃している敵は見事にも、毎回同じ場所、眉間を撃ち抜いてスケルトンを葬っている。なんとも鮮やかな弓裁きだ。
私は敵の技量に舌を巻きつつ、矢の出所を探る。
三度見た矢の飛来、角度、そして速度を思い出して、私は戦場を一瞥した。
そして以外にも、それはすぐに見つかった。
「…いよいよ出てきましたか」
パパからもらった人ならざる視力が、敵軍の最奥に、こちらに向かって弓を構えている悪魔を発見する。
長い栗色の髪、頭に生えた一対の角、戦場に似合わないラフな服装が印象的な女性だった。
にこやかに、しかし自信に満ちた笑みを浮かべており、彼女が【女帝】の側近の一人であることは容易に理解できた。
私の脳裏に、アルス姉さんの言葉が蘇る。
『いいっすかシス。敵は自分の奇襲を受けたら、きっと指揮官をシスたちにぶつけてくるっす。今の所どんな存在か分からないっすけど、たぶん強さはAランク中位から上位。だからもしそれが出てきたら、その対処はシスの判断に任せたいっす』
アルス姉さんの予想通り、恐らくこの長距離狙撃は【女帝】の側近によるものだろう。
そうであれば、あれに対処しなければならない。
私が少しだけ思案していると、ルリがこちらに駆けよってきた。
「シスたん! すごく強そうなのが出てきたの!」
「ええ、どうもそのようですね」
私がそう答えると、魔弓を携えた女性をチラリと見て、ルリが少し眉を潜めて問うてくる。
「どうする? 二人で行ってサクッと倒す?」
私とルリは、一定の距離に居ればお互いがSランクに比肩する存在になれる。
相手がアルス姉さんの予想通り、Aランク中位から上位の力を持っているとすれば、二人で挑めば勝利は確実だろう。
しかし、私は緩く首を横に振る。
「そうできれば楽ですが、その間に高台を取られてしまっては意味がないです」
あの敵を確実に討つためには、私とルリの二人で挑むことが絶対条件だ。
だが高台を降りてしまうと、このスケルトン達を指揮する存在がいなくなってしまう。そうなれば砦は攻略され、高台は敵に鹵獲されるだろう。そうなれば敵はこちらの拠点に好きなだけ援軍を送れるようになり、こちらの敗北が濃厚となる。それこそ敵の思う壺だ。
「それなら、私が行って倒してくるの!」
「それも危険です。あの弓使いがいる距離だと、私達のつながりが切れてしまいます」
ルリは近接特化型の戦士だ。弓使いである敵に肉薄できれば、かなり有利に立ち回ることができる。
だが、敵が遠距離攻撃の手段を持っていることを考慮すると、接近するまでが大きな問題だ。それに私との繋がりが無くなれば、ルリはAランク。同じAランクでも中位、レベル30近い敵に対して、確実に勝利できるかは疑問が残るところだった。
だが、現状ではそれが最善の対処法だということも、私には理解できてしまっていた。
「…側近の一人が出てくるとは思っていましたが、遠距離攻撃使いというのは想定外でしたね。もしアルス姉さんであれば、このような事態も想像できたのでしょうが」
私はそう自嘲気味に笑う。
するとルリは真面目な顔で、私の目をじっと見つめて言った。
「…シスたん。私達は二人で一つ。二人でお父様の最強の矛だよね」
「ええ。そうです」
そうあれと、パパが私達を生み出してくれた。
だがルリは、ゆっくりと首を横に振る。
「それなら、ないものねだりをしたって仕方ないの。今ここにいるのは私とシスたんだけで、パパもアルたんもいない。それならやれることをやろうよ」
その言葉に、はっとさせられた。
確かにそうだ。私はアルス姉さんでもパパでもない。
パパは私達の力を信じてこの高台を任せてくれた。それならその期待に応えることが、私達の仕事だ。
「迷っている時間はないよ。私はあの弓使いを倒す。そしてシスたんは登ってくる敵を倒す。それが今できる最善の手なの」
ルリが弓使いを相手し、私が砦を攻める敵を削る。
シンプルだが実に分かりやすい作戦だ。
それに、ルリが言ったように、もはや迷っている時間はない。
敵は今も、刻一刻と進軍してきているのだから。
「…分かりました。その作戦に乗りましょう」
実際それしか道はない。
「ですが、一つだけ約束してください」
「なに?」
「絶対に生きて帰ること。もしルリが死んでしまったら、私まで死んでしまいますからね。私はルリやアルス姉さん、そしてパパとまだまだ一緒にいたいです。ですから私のためにも死なないでください」
私達は特性≪二連星≫の効果によって、命を共有している。
共にあれば莫大な戦闘力を発揮できる代わりに、もしどちらかが命を落とせば私達は死ぬ。
私は死にたくないし、妹を死なせたくもない。
脅しともとれる私の言葉に、ルリは少しだけ目を丸くして笑った。
「あたりまえなの! あの弓使いをさくっと倒して、お父様にいっぱい撫でてもらうの! そうすればシスたんより活躍したって、お父様いっぱい褒めてくれるの!」
ふふんと自慢げに胸を張ったルリに、私は小さく笑う。
この子はいつでも平常運転だ。これなら何の心配もいらないだろう。
「…私も負けませんよ。では、始めましょうか」
「そうするの! 何からやるか、ちゃんと分かってるよね?」
「もちろんですよ。ルリこそ間違えないでくださいね」
私達はそう笑い合って、静かに息を吸い込む。
そしてお互いに手を握り、声たかだかに叫んだ。
「「特性発動、【幻獣召喚】!!」」




