第十話:備えあれば患いなし
戦争の準備を整えるために、俺はひとまずノルンの領地【アルブヘイム】に戻ってきていた。
【竜帝】から与えられた準備時間は一時間。それまでに戦いの準備を終えなくてはならない。
「…すまないみんな。そういった理由で【女帝】と戦争になってしまった」
行きと同じ要領で戻ってきたリビングで、俺は静かに頭を下げた。
その相手は、俺の信頼できる三人の娘たちだ。
事の成り行きを丁寧に説明し、巻き込んでしまったことを詫びると、三人は驚いたように目を丸くしながら笑った。
「良いと思うっすよ。自分もその状況だったら、迷わず同じ行動をとりますから」
「私も賛成なの! この辺で帝王一人倒して、さくっと能力とEPを奪うの!」
「新人最強との対決ですか、胸が躍りますね」
三人とも俺の行動を理解してくれたようで、一安心だ。
ふざけた主人だと見限られなくて良かった。
「…みんな、ありがとう」
心からそう言うと、アルスがにかっと快活な笑みを浮かべる。
「いいっすよ。それよりも早く準備をしちゃいましょう!」
「そうだな」
アルスの言葉に頷いて、俺は光の柱の中にいる老人に声を掛けた。
「あの、戦争に持っていきたい物はどこに集めればいいですか?」
「この転送陣の中に置いて頂ければ、私が先に戦場へお届けいたします」
老人の答えに、俺は少し思案する。
転送陣はそこまで大きくはない。
もし”新兵器”が暴発しようものなら、老人を殺してしまう結果になるかもしれない。
「…ちょっと危険な物もあるけど、大丈夫ですか?」
俺が危惧した事態を想定しながら言うと、老人は穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「ご安心ください。私は永久の時を生きるアンデッド。【芸帝】プルソン様が心配されるようなことはありませんよ」
なるほど。それなら万が一新兵器が暴走しても問題ないだろう。
そのために俺もスケルトンを使って新兵器の作成を行っていたのだから。
「…そうですか。なら安心です」
「ええ。それと【芸帝】プルソン様。【竜帝】アガレス様より預かりものがございます」
「預かりものですか」
「ええ。今回の戦場の地図です。どうぞお受け取りください」
そう言えば【竜帝】は、後で戦場に関する情報を渡すと言っていた。
きっとこの地図がそれだろう。
「ありがとございます」
俺は老人から戦場の地図を受け取る。
だが、俺は彼の得体の知れなさに冷や汗を流していた。
(この爺さん、一体何者だ?)
特段強い力は感じない。しかし彼は、俺の新兵器について細かく把握している。
他の帝王、特に古い帝王ならいざ知らず、【円卓】の使用人である彼にそこまでの力があるというのか。【円卓】とは、やはり不可解な場所だ。
俺はそこで思考を打ち切り、早速行動を始める。
「シス。スケルトン部隊に命令を出してくれ」
「了解ですパパ。アレを運んでくればいいのですね」
「ああ。近づきすぎないよう、くれぐれも注意してくれ」
指示を出さずとも、シスは俺の意志を組んでくれる。
彼女の言葉にゆっくりと頷いて、俺は転送陣を指さした。
「あの爺さんに荷物を運んでもらって、その後は【女帝】に関する資料を集めてから合流してくれ」
「わかりました! すぐに取り掛かりますね」
「頼んだ」
早速動きだしたシスの背中を見送って、俺は振り返る。
純白の天使を見やり、俺は口を開いた。
「ルリ。ダンジョンでレベリング中のリザードマン部隊、それとゴブリン部隊に戦争について説明してくれ。それと完全武装で来いともな」
「はいなの! 場所はいつものところ?」
「ああ。多分各リーダーが中継地点にいるから、そこに伝達してくれ」
そう言うと、ルリは太陽のような笑みを浮かべて手を上げた。
「分かったの! 行ってくるの!」
「頼んだぞ」
凄まじい速度で走り出したルリを見送って、俺は苦笑する。
シスと一緒にいるインパクトが強いので忘れがちだが、彼女は単身でもAランクだ。その化け物加減は言わずもがなということだろう。
「…ようやく備えが生きる時が来たな」
この三か月間で少しずつ生み出したリザードマン、ゴブリン、スケルトンにはそれぞれ違うルーティンで動いてもらっていた。
まずスケルトンは、シスに頼んだように”新兵器”の開発に尽力させた。
俺の特性【鼓舞の音色】には、配下の特性を強化する力がある。それを使用した状況で、俺の動きを全てのスケルトンに見せることで、俺が知識から引っ張り出した技術を徐々に覚えさせていった。スケルトンはただの骨の割に物覚えが良く、また生者の動作をマネできるという種族特性があるというのは偶然の産物だったが、その特性をフルに生かした新兵器工場を作ることができた。
次にリザードマンとゴブリンは、両種族混合の部隊を幾つか形成し、集団戦闘の経験も兼ねてレベリングを行ってもらっていた。各種族の中でも≪統率≫と≪知略≫の数値が高い者をリーダーとして、実戦の経験を積んでもらっている。その甲斐あって最古参の者達は既にレベル40に到達しており、レベルだけで見ればアルス達よりも圧倒的な数値だ。
戦争では、これらをどう運用していくかが鍵だ。
そして今から、そのための会議を始める。
「さてアルス。それじゃ俺達は、今回の作戦を練るとするか」
俺は【竜帝】から受け取った地図を手に、アルスに向き直る。
「了解っす! 二人が頑張ってくれてるので、自分も全力を尽くします!」
アルスの知略は驚異の88だ。
俺の仲間の中でも最高の知者である彼女の作戦、存分に活用させてもらうとしよう。




