第九話:本当にピンチなのは?
【女帝】との戦争が正式に決定し、小さく息を吐くと、背後から声が掛かる。
「…全く、本当に無茶をするねキミ。人の話は最後まで聞いたほうがいいと思うぞ」
振り返ると、苦笑した【星帝】オリアスがそこにいた。
彼は呆れた表情を浮かべているが、どうも俺に失望している様子では無かった。
むしろその逆の、敬意と興味が籠った視線を感じる。
「だが、アガレスとの話を聞いている限りでは、ただの無謀の突撃でもないようだね。期待の大型新人相手にあの啖呵、ますます興味が湧いたよ。今からでも遅くないから、やっぱり俺の派閥に来なよキミ」
一度は保留にしておいた派閥への勧誘。
だが、そこに割り込む者がいた。
「待ったオリアス。残念だけど、プルソンをキミの派閥にはやれないよ」
ノルンだ。
五帝とひとまず話をつけたノルンが、俺達に合流してきた。
五人の帝王に戦争を仕掛けられたのに、ずいぶんと余裕がある様子で驚く。
オリアスが俺から目を切って、ノルンに笑いかける。
「おやおや、これは手厳しいねノルン。何か特別な理由でもあるのかい?」
「うん。キミは人使いが荒いからね。プルソンなんて優秀だからすぐに使いつぶされちゃう」
「あはは! まぁそれは否定しないかな」
否定しないのか。
ノルンが止めてくれて良かった。
そう安堵していると、ノルンがむっとした表情で俺を見た。
「ねえプルソン。ボクは怒ってるんだ。どうしてかは言わなくても分かるよね?」
「ああ。もちろん」
それは、俺がノルンとの約束を破って宣戦布告に割り込んだからだ。
俺はしっかりと頷きつつも、自分の信念を表に出す。
「約束を破って悪かったとは思ってる。だけど俺はあの行動を後悔していないよ。あの場面を静観するような奴になっちゃダメだと思った。それに、俺にも帝王としてプライドがある。ノルンに受けた恩を返せないような男にはなりたくない」
俺はノルンに世話になった。
だがそれと同時に、俺は一人の帝王でもある。
俺がそう言うと、ノルンは静かにため息をついて、それから少しだけ表情を和らげた。
「…全く。そんなキザなセリフを、よくも堂々と言えるね。まぁボクを助けようとして動いてくれたのは嬉しかったよ。ありがとう」
ノルンはそう言って柔和な笑みを浮かべた。
守りたい、この笑顔。
オリアスが口を開く。
「そうだノルン。今回の戦争、俺の軍隊を貸してやろうか?」
「いらないよ。ボクの戦争については問題無い。オリアスはもちろん、プルソンの助けもいらないかな」
その言葉に衝撃を受ける。
俺は若干狼狽えつつ、ノルンの言葉に反応した。
「どうしてだ? 兵数が大幅に減ってるってオリアスさんが……」
「確かにボクは兵数で劣っているよ。でもね、特筆戦力の数が桁違いだから、中堅のあの子達には負けないよ。もとからその自信があったから、プルソンにも庇いに来ないように伝えておいたのに…」
じっと見据えられて、変な汗が出てくる。
あの言い方では、まるで死亡フラグではないか。
もう少し何か言い方があったように思うが…。
俺ががっくりと肩を落とすと、オリアスもそれに続いて口を開く。
「俺もそれを言おうと思ってたんだよ。だけど伝える前に出てってしまったから困ったものだよキミ」
それならオリアスも早めに止めて欲しかった。
それを分かっていたら、五帝同盟なんかに挑んだりしなかったのに。
まぁ彼らとの戦いは避けられたから良かったが……。
「あれ、ちょっと待てよ?」
そこまで考えて、俺は現状を再認識する。
ノルンの戦争は戦力的に余裕があり、彼女の勝利がほぼ確実。
一方の俺はというと、その余裕の戦いに自ら首を突っ込んだ挙句、期待の超新星である【女帝】と戦うことになっている、ということか。
止まっていたはずの冷や汗が、再び滲み始める。
「これって、もしかして…」
俺の呟きに、二人の先輩はジト目で俺を見やる。
「うん。今一番ピンチなのはプルソンだよ」
「そうだね。正義感で空回りして、自分から【女帝】との戦いを呼び寄せるなんて、バカの極みだよキミ」
立て続けに語られた二人の意見に、俺は静かに唸るしかなかった。
どうやら今、本当にピンチなのは俺らしい。




