第三話:【芸帝】プルソン
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ノルンが【帝王録】を閉じる。
すると目の前にあったホログラムが消え、ノルンの小さな手の上に乗っていた本体も泡のように消えた。きっと俺が【帝王録】を開くのに邪魔だと思ったのだろう。なかなかの気配りさんだ。
ノルンが笑いながら口を開く。
「さて、はじめて【帝王録】を開くときは、特定の動作を登録する必要があるんだ。ボクなら手を叩いたやつだね。何でもいいけど、一生変えられないから複雑なやつはおすすめしないかな~」
確かに、開くたびに面倒な作業をしていては気が滅入る。
俺は心の中で【帝王録】を開くことを意識しながら、指をならした。
すると俺の目の前に、重厚な辞典のような書物が現れた。ノルンのものとは見た目がかなり違うが、これが俺の【帝王録】で間違いないだろう。
パラパラとページが捲られ、止まる。
しかしそこに記載されている情報は、ノルンの【帝王録】で見た情報とは違った。
理由が分からず首を傾げていると、ノルンが情報を補足してくれる。
「はじめて【帝王録】をひらくと、まずはステータスページに飛ばされるんだ」
「ステータスってのは?」
「キミが保有している能力を可視化できるものだよ」
ということはつまり、俺の能力をノルンにも見られるということだろう。
ノルンを疑っているわけではないが、彼女も帝王だ。何があるか分からない以上、あまり俺の秘密を知られ過ぎるのも良くないかもしれない。
「なんか怖い顔しているね?」
しまった。顔に出ていたようだ。
しかし、ノルンは特段不機嫌になるわけでもなく、ただ穏やかに笑った。
「キミほんとに賢いよね。でもそんなに警戒しなくても大丈夫だよ。帝王の根底に関わるような情報は本人以外見えないようになってるから大丈夫だよ。まあ開示設定っていうのがあって、それを操作すると見えるようにはなるんだけどね」
「へえ、なるほどな」
開示する者は慎重に見極めなくてはならない。
そう頭にメモっていると、ノルンが手を叩いて話を切り替えた。
「ちょっと話が逸れたね。それじゃ、早速ステータスについて解説するね。ステータスをみてくれる?」
「分かった」
俺は示された値に目を向ける。
そこにはこんな情報が書かれていた。
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名前:プルソン
種族名:魔族
ランク:S
LV:1
EP:161,350
統率35 知略40 耐久5 攻撃20 魔力60 機動30 幸運15 特殊120
特性:芸の主 芸具模倣 鼓舞の音色 ??? ???
固有能力:顕現の芸者
≪特性≫
芸の主……芸能に通ずる全ての知識を保有する。またそこに込められた思い、魂、知識などを獲得する。(当人以外閲覧不可)
芸具模倣……あらゆる芸能にまつわる道具を使用可能。知識にある楽器、道具などをEPを消費して具現化可能。その規模により消費EPは変化する。
鼓舞の音色……自身の芸能を見聞きした味方の全能力値上昇(上昇幅は熟練度、レベルに応じて変化する)・攻撃力、防御力、機動、固有能力に補正(中)。芸能に応じて様々な効果を付与する。
≪固有能力≫
顕現の芸者……芸に携わる者を方向性を持って召喚可能。召喚の強度によって必要EPは変化する。また選択した配下の能力値に補正(残り七体)。要求EPが従来に比べて二倍になる。(当人以外閲覧不可)
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「プルソン、それが俺の名前か」
「そっか、よろしくねプルソン」
「ああ。だがなんか違和感が凄いな…」
首を傾げて、むずがゆい感覚を覚えながら呟くと、ノルンがあははと笑った。
「まあ記憶も何もないから、自分の名前がしっくりこないのは仕方ないよ」
確かにノルンの言う通りだ。
変な名前だが、決まっているなら仕方ないだろう。
俺はこれから帝王プルソンとして生きていく。
「さて、話を戻すよプルソン。ステータスをよく見てね」
ノルンの声で、俺は再びステータスを眺める。
そこには無数の情報があるが、比較対象がいないので俺にどの程度の力があるのか分からない。
ノルンは俺が全体に目を通したことを確認すると、
「それと、できれば情報をボクに開示してくれると嬉しいかな。まあ嫌なら構わないけど」
本来であれば、初対面で殴りかかってきた相手に情報を開示するのは気が引けるところだろう。
しかし、俺は既に彼女に気を許してしまっていた。
どうも彼女とは初めて会った気がしないのだ。
俺は特に警戒もせずに二つ返事で了承する。
「いや、構わないよ。ノルンの意見は貴重なものだしな」
「そっか。ありがとねプルソン」
ノルンが俺の【帝王録】に触れる。
すると『開示設定を変更しますか?(開示設定は後からでも変更可能です)』という文が浮かび上がった。
ノルンが見ようとしたことを【帝王録】が感知したのだろう。
何とも気の利くシステムだが、一体誰が作ったのか気になる。
俺が『はい』を選択すると、ノルンがステータスページの下の方を指さしながら言った。
「…帝王にとって大事なのは特性の一番上にある……プルソンなら【芸の主】っていうのと、こっちの【固有能力】だね」
ノルンの指が、【芸の主】と書かれた場所に移る。
「この【芸の主】っていう特性によって、プルソンにはそれに応じた知識が与えられているはずだよ。他の帝王も【なんとかの主】っていう特性があって、それに応じた知識や力を持って生まれてくるんだ。帝王はこれを使って領地を治めるわけだね」
「なるほど。俺が知識を持っていたのはこれの影響だったのか」
ノルンとの戦いで目覚めたのは、この力だったわけだ。
「そうなるね。それと付け加えておくと、この能力が帝王たちのパワーバランスを左右すると考えていいよ。恵まれた能力の者には繁栄が、そうでない者には破滅が待っている」
さらりと恐ろしいことを言うが、事実だろう。
平等などあり得ない。生まれ持った力や才能もまた、成功の為に必要な要素なのだ。
説明を終えたノルンの指が、一番下に向く。
「そして【固有能力】。基本的に帝王は、この固有能力を使って【配下】を召喚していくんだ」
字ずらと帝王としての仕事の説明を通して、ある程度は予想がつく。
俺の王道、いや帝王道を支えてくれる者たちだろう。
なんだか胸が躍る。
召喚という言葉にワクワクしてしまうのは、いったいなぜだろう。