第七話:帝王の矜持
勝気な少女である【女帝】が、俺に向って歩いてくる。
身長は俺より少し小さいくらいだろうか。俺の目線の高さに頭がある。
彼女は俺の前までやってくると、自信たっぷりな笑みを浮かべて話しかけて来た。
「さて、初めましてね。私は【女帝】ルシアーノ」
物語に出てくるお嬢様みたいな雰囲気のある女性だった。
相手は先輩帝王であり、ランキング的にも上位の存在なので、俺は小さく頭を下げる。
「こちらこそ初めまして。【芸帝】プルソンです」
「よろしくプルソン。敬語は不要よ。それで早速だけど、あなたに提案があるの」
「提案?」
「ええ、そうよ」
ほんとうにいきなりだ。
だが、その内容は大体予想できる。
「今すぐ私の軍門に下りなさい。先輩を助けようとするその姿勢は立派だけど、あの五人に正面から挑むのは無茶よ。それよりも私の派閥に所属してみる気はない?」
予想通り、彼女は俺を勧誘してきた。
恐らく、わざわざ戦いに割り込んだ目的もこれだろう。俺が五帝同盟に叩き潰される前に、俺を派閥に吸収するために、恨みを買ってまで前に出てきた。
「ルシアーノさん、アンタは俺が他から何て呼ばれてるか知ってるだろ?」
俺を三流帝王と嘲笑った連中が、今もひそひそと笑い話をしている。
【女帝】ルシアーノはそれらを一瞥すると、含みのある笑みを浮かべて頷いた。
「まぁ一応はね。でも私は周りの評価や買った情報だけで人の価値を決めつけたりしないわ。あなたという帝王を見て、その人柄に惹かれたの。私は、いつか自分の派閥を作るなら、仁義を通せる人が良いと思ってたからね」
少し吹き出しそうになる。
彼女ほどの美少女から、仁義という言葉が飛び出したのは驚きだった。
だが、俺はノルンへの仁義を通そうとしているわけだから、言い得て妙である。
「それは光栄だな」
実力のある帝王に認められることは、新米としてかなり誇らしい。
俺がそう笑うと、【女帝】は胸の下で手を組んで続ける。
「私も生まれて数年の若輩だけど、それなりに名の通った帝王。だから新米のあなたを守ってあげられるだけの力があるわ。あなたは安全に成長して、将来私と一緒にランキングを駆けあがっていくの。悪い話じゃないでしょう?」
彼女の言葉に、俺は頭をフル回転させる。
メリットとデメリットの再計算が、凄まじい速度で行われた。
やがてぽつりと言葉が漏れる。
「……そうだな。今ここで叩き潰されるよりマシだろうな」
確かに悪い話ではない。
それどころか、かなり魅力的な提案だ。
俺達の数年間の安寧が約束され、将来共に高みを目指すに相応しい有能な主を得る。帝王が無数に存在するこの激動の時代に、これほどありがたい申し出はそうそうないだろう。
だからこそ、俺は笑みを浮かべる。
そしてゆっくりと首を振った。
縦ではなく、横へ。
「だけど悪い。その提案は断らせてもらおう」
俺が今、恩を返すべきはノルンだ。
彼女には多くのことを学び、助けられてきた。
【女帝】の派閥に属しても良いが、それでノルンを助けられるという保証はない。
それに、俺には俺の帝王道がある。
一人の帝王として、戦いもせずに派閥に属するなど言語道断だ
「そう。まぁ、あなたならそう言うと思ったわ」
俺の言葉に、【女帝】は静かに笑う。
「意外だな。慈悲を跳ねのけられて、もっと怒ると思ったんだが」
「先輩を助けたいっていう一心で、あの五人に挑むあなたが簡単に靡くとは思っていないわ」
【女帝】はひとしきり笑うと、真剣な顔に戻って辺りを見渡した。
「さて、それじゃあ戦争を始めようと思うのだけれど、誰か見届け人はいないかしら?」
もともと五人は戦争の見届け人を用意していたようだが、俺達にはいない。
ルシアーノが辺りを見渡して声を上げると、豪快な笑い声が辺りに響いた。
「ふははは! 久方ぶりに来てみれば、ずいぶんと面白いことになっておるではないか!」
ビリビリと大気を震わせる声が、その場を支配する。
次元の違う圧倒的な力を振り撒きながら、彼は現れた。
「【竜帝】様だ!」
「二十大帝がお越しになられたぞ!!」
深緑の尻尾を携えたその老人に、その場の全ての視線が集中した。
今回が短かった分、次回は少し長めです!




