第五話:仲間の願い
俺が六人の会話に割り込むと、当事者であるノルンが驚いた様に目を丸くした。
「ち、ちょっとプルソン! 何勝手に入ってきてるんだ! ボクはここに来る前に忠告したはずだよ!」
俺の発言にノルンは本気で驚き、そして怒っている。
彼女が怒った所を、俺は見たことがない。彼女がここに来て初めて怒りを滲ませたのは、俺が約束を破ったからだろう。
帝王の世界は弱肉強食が大原則だ。
もし他の帝王がピンチになっていても、それはそいつが間抜けなだけ。
だから、正義感なんかで助けようとするな。
ノルンは出発前にそう言っていた。
彼女の言葉は確かに正しい。
多対一を挑まれる状況に陥ったノルンに落ち度があるのは明らかだろう。もはやそれは疑いようもない事実だ。
それに、五帝同盟に勝負を吹っ掛けたはいいが、勝算はかなり薄い。
なぜなら彼らは全盛期のノルンと同格か、あるいは以上の力を持った帝王たちなのかもしれないのだ。俺は新人の中でもそれなりの力を持っているが、それでも五帝同盟には遠く及ばない。
ここで帝王としてとるべき行動は、ノルンを見捨てることだ。
当然だろう。
自分の感情を優先して動き、守るべき領土と仲間を失い、そして自分までも死に瀕している間抜けを助ける帝王などいない。
だけど、それでも俺は……。
「悪いノルン。これを見過ごすなんてできないよ」
俺はノルンに大きな恩がある。
それに、俺自身のプライドが、ここで傍観することを良しとしない。
そして何より、俺には仲間達と交わした約束がある。
俺は出発前にルリと、仲間達と交わした約束を思い出す。
『ねえ、お父様』
俺の隣でソファに座っていたルリが、静かに呟く。
『なんだ?』
『今回は初めての【円卓】で、あんまり無茶をするのは良くないと思うの』
ルリの忠告に、俺は苦笑して彼女の頭を撫でた。
『それは俺も分かってるよ。みんなを危険に晒すことにもなるから、下手に戦争を仕掛けられたりしないように立ち回るつもりだ』
『うん。それがいいの』
俺の言葉に、ルリは安堵したように頷いて、それから真剣な顔で俺を見上げて来た。
『でもね、お父様。私達から一つだけお願いがあるの』
『へぇ、珍しいな。一体なんだ?』
俺がそう問うと、ルリが微笑みと共に答えた。
『…もしノルン様に危機が迫ったら、その時はお父様が助けてあげて欲しいの。私達はノルン様にたっくさんお世話になったから、あの人がピンチになったら、迷わず助けてあげて! 私達はそのためなら、どんな相手とだって戦えるの。アルたんとシスたんと話し合って、三人でそう決めたの!』
満面の笑みでそういったルリを、そしてアルスとシスを俺は信じている。
だからこそ俺は、ノルンを助けるために動いた。
「【騎帝】エリゴス、そして他の帝王達。ノルンとの戦い、俺も参戦させてもらえないか」
俺の宣言に、その場にいる全ての者が目の色を変える。
ある者は「面白い新人がいる」と楽し気に笑い、ある者は「実力を弁えぬ愚か者が」と呆れ、俺の真の実力を看破している者達は興味深そうに成り行きを見守っている。
俺の言葉に、【騎帝】は驚いた様に目を丸くして、それからゆっくりと首を横に振った。
「…あなたは彼女の同盟者でもなければ、派閥にも属していません。今我々に戦いを挑めば、彼女の前に五対一の戦いをするだけになりますよ」
「覚悟の上だ」
相手が五人、それがどうした。
ここでノルンを見捨てる選択肢はない。
もともと俺は、五人全員を相手にする覚悟で勝負に割り込んだ。
俺がここで奮闘すれば彼らの戦力を大幅に削ることができる。そうなればノルンを陥れる戦力は残らない。俺はその可能性に賭ける。
俺の瞳を覗き返した優男【騎帝】が、嘆かわし気に眉を潜める。
「…あなたには、愛する配下がいるはずです。それを無茶によって危険に晒してもいいと?」
やはり彼も俺の情報を知っているようだ。
しかも俺を下に見ないということは、俺を三流と呼んだ者達以上の情報を手に入れている。
俺が仲間を愛していると知られると厄介だったので、監視がある状況では極力コミュニケーションは取らないようにしていたが、彼はそれすらも看破している。俺の新兵器についても知られているかもしれない。
だが、だからといって引き下がるわけにはいかない。
「俺の仲間なら、俺の選択を認めてくれるさ。それに、いざとなったら戦争から離脱させればいい。俺が死んでも帝王の配下が消えるわけじゃないんだろ?」
以前、帝王として生まれたばかりのころ、ノルンが教えてくれた。
俺が倒されても、生み出した仲間達は消えない。
帝王が殺されたあとも運営されている領地もあると聞いて、俺は安心した。
「…確かにそうですが、本当に良いのですか? 我々があなたを倒す前に、あなたの仲間達を倒してしまう可能性もありますよ」
「ははっ。そんな脅しは俺には通じないな」
俺の言葉に、五帝同盟の面々が眉を潜める。
「なに、その対処は簡単だ。もし俺の仲間達がピンチになったら、その時は俺が自ら命を絶てばいい。そうすれば即座に戦争は終わる」
その常軌を逸した答えに、全ての者が慄く。
数々の戦歴を傘ね、成長してきたであろう帝王達も、俺の言葉に戦慄していた。
相手がどう捉えるかは不明だが、俺は本気だ。
例えアルスたちの頼みであっても、無策の突撃に娘たちの命を賭けるほど、俺は間抜けではない。
相手の戦力を限界まで削り、いざとなれば俺が自決することで戦争を終わらせる。みんなには内緒だが、その事を織り込んだうえで、俺はこの勝負を挑んだ。
【騎帝】が苦い顔をして、無謀な若者を見る様な目で答える。
「そのようなはったりが我々に通じるとでも?」
「それなら試してみれば良いさ。その場合アンタらは俺の本気に呑まれて、ノルンを陥れられなくなるだろうけどな」
薄く笑って【騎帝】を見やると、彼はゆっくりと瞼を閉じた。
「その覚悟の決まった瞳、これ以上説得しても無駄のようですね。……もはや、やむを得ません。その見事な覚悟に免じて、【運帝】の前に、まずはあなたを最初の標的に定めるとしましょう。貴殿の名前は…」
「【芸帝】プルソン」
「わかりました。では様式美と参りましょう」
その言葉で、五人の帝王が俺に挑まんと歩き出した。
おそらくこのまま宣戦布告が行われ、俺は彼らと戦争になるだろう。
さて、五人相手にどこまで戦えるか…。
俺はそんな事を考えながら、五人を観察する。
すると、ふわりと俺と五人の間に風が吹いた。
「【騎帝】、少し待ちなさい」
そんな声がする。
風圧に閉じた目を開くと、そこには一人の少女がいた。
「…そんな面白そうな子を、まさか五人で倒そうなんて言わないわよね?」
大きな赤い瞳には自信が満ち、苛烈な性格を予感させる。
白い肌、眩しい金色の髪、右側に垂れる一房のポニーテール。
上品な黒色のドレスに身を包み、背中には悪魔のような羽があった。
少し長い耳と、笑みによって顔を覗かせる鋭い犬歯から、彼女が吸血鬼であることが分かる。
笑みを湛えた少女がゆっくりと口を開く。
「この戦い、私も参加させてくれないかしら?」
金髪の美少女がそう言うと、辺りは俺の時以上の驚きに包まれた。
お久しぶりの投稿になってしまいました。忙しい時期ですが、満足いく仕上がりになるよう頑張りますので、どうぞ最後までよろしくお願いします。




