第四話:大馬鹿野郎
【騎帝】を筆頭にした五人の帝王が、ノルンに宣戦布告した。
その衝撃的な事件に、隣で事の成り行きを眺めていたオリアスが楽し気に笑う。
「はは。これは、ずいぶんと面白い事になったね」
状況を飲み込めずにいる俺は、焦りを押し殺して彼に尋ねた。
「オリアスさん、一つ聞きたい。戦争では同盟が認められるのか?」
一対五、普通に考えればあり得ない戦いだ。
だがオリアスは、モノクルの奥の瞳を不気味に光らせて頷く。
「そうだね。事前に同盟を組んでいれば認められるよ。ランキング的に格下であればあるほど、一緒に戦える人数が跳ねあがる。【騎帝】は中堅クラスの帝王で、その他も同じくらい。となると全ての帝王のランキングを足しても彼女の順位には及ばないから、今回の同盟は十分認められるね」
「ノルンがそれだけの存在だと?」
「ああ。彼女のランクは高いよ。多分聞いたらびっくりするくらいね」
オリアスの不敵な笑みに、俺は苦笑する。
ノルンが強いだろうとは思っていたが、まさかそんな無茶がまかり通る様な存在だとは思わなかった。だが同盟による宣戦布告が通るのであれば、戦力的には互角以上と見ていいはずだ。
俺はまだノルンが持つ全ての戦力を知らない。
だが、今の俺達が束になって勝てるかどうか怪しいローゼですら、彼女の側近の一人でしかないのだ。それを踏まえて考えると、ノルンが五人相手であっても負ける状況は想像がつかない。
ここは大人しく見ておくに限る。
俺は静かに安堵して肩の力を抜いた。
それを見てか、それとも偶然か。
オリアスがぽつりと呟いた声が、俺の耳に届いた。
「まあそれは、あくまでランキング上での話だけどね」
「…え?」
俺が目を丸くすると、オリアスは納得した様子でノルンを見やった。
「そうか。キミは今年生まれたばかりの帝王だから、知らないのは当然だよね。実は彼女は、数年前に”ある戦い”に敗れたことで、戦力を大幅に削がれている状態なんだ。だから全体の兵数でみれば同盟の方が圧倒的に多いよ」
その言葉で、俺の頭が急速に冴えていく。
確かランキングが更新されるのは【円卓】が終了した段階だ。
つまりいくら兵数が少なかろうが、ノルンは現状全盛期と同じランキングにいるのだ。具体的な順位は不明だが、五人同盟がまかり通るほどに高い順位に。
だが戦力が低下した状態で、果たして五人の攻撃を受けきれるだろうか?
…はっきり言って厳しいだろう。
俺は戦争のルールなど知らないが、帝王が相手に五人いる状態で兵数でも劣っているとなれば、破滅はより現実味を帯びてくる。
現状を考えると、ノルンが五帝同盟に滅ぼされる可能性があるかもしれない。
俺の頬を冷や汗が伝っていく。
俺が脳内で思考を繰り返している間にも、ノルンたちを取り巻く状況は変化していった。
「いいよ。その勝負、受けて立とう」
ノルンが淡い笑みを浮かべて勝負を受ける。
帝王は、ランキング上格下の相手からの宣戦布告を断れない。たとえそれが兵数で負けていたとしても、戦いを受けざるをえない。
その光景を間近で見せつけられて、脳裏に出発前に彼女が俺に言った言葉がフラッシュバックした。
『どんなに理不尽を感じて、正義感で人を助けたいって思っても、他の帝王の宣戦布告を止めようとしないこと』
きっとノルンはこうなると分かっていたのだ。
他の帝王達から戦争を仕掛けられると、事前に把握していた。だから俺に釘を刺したのだろう。
「派閥の者がいるのであれば、先に相手をさせて頂こうと思いますが……いかがですか?」
【騎帝】が辺りを見渡すが、誰も手を上げない。
当然だ。ノルンに味方するメリットがない。
だが、その中にあって一人、動く者がいた。
その大馬鹿野郎の背中に、オリアスが慌てて声をかける。
「あ! おいまだ話は終わってないって…………あ~あ。もう知らないよキミ」
歩き出した俺に、オリアスの声は届かない。
人混みをかき分けながら歩いていく途中で、【騎帝】とノルンの会話が聞こえてくる。
「派閥は復活させなかったのですね。”あの戦争”の代償として権利を奪われた貴方に刃を向けることは、多くの騎士道に反するかもしれません。しかし私の騎士道は違う。それはお許し願おうか」
「帝王はそれでいいと思うよ。それに、派閥を解体されたのはボクが間抜けだったからだし、キミたちがそれを憂う必要はない」
「分かりました。そうであれば全力で挑ませて頂きます。さっそく戦争を…」
そして【騎帝】を筆頭とした同盟と、ノルンとの戦争が始まる瞬間。
俺は六人が集う人混みの中心へと躍り出た。
「待て」
その場の全ての者の視線が俺に向く。
「【運帝】ノルンと五帝同盟との戦い、悪いが割り込ませてもらいたい」
俺の不敵な笑みに、その場の全ての者がぎょっと目を剥いた。




