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第三話:厄介者たちと【宣戦布告】

 【星帝】オリアスが、俺を派閥に誘って来た。


「正気ですか? 俺は三流帝王ですよ?」


 俺がそう言うと、オリアスはそれを笑い飛ばした。


「ははは! 俺はあの情報を鵜呑みにするほどバカじゃないよ。一番新しい帝王でありながら、情報網に気がついて利用する。そんなキミの力を存分に奮ってもらおうと思ってね」


 やはりこの男は、ただものではない。

 俺が画策した全てのことを見抜いている。

 おそらく帝王たちの中でも上位に君臨する存在だろう。

 彼の派閥に所属することができれば、俺の安泰は確約されたも同然だ。


 だが、俺を彼の瞳を軽く受け流して、ゆっくりと首を横に振った。


「ありがたいお話ですが、もう少し猶予をいただけませんか? 何しろ俺は新米帝王ですから」


 これはある種の方便だ。

 俺が目指すのは自分の派閥の設立だ。最悪誰かの派閥に所属しても良いが、それは俺にとってメリットが大きいと判断した時だけだ。良い様に使われるのだけは御免被る。


 目の前の男は、どうも胡散臭い。

 俺を面白いおもちゃとしか見ていないような、そんな感覚がする。

 それを払拭できない今、彼の派閥に所属したくはない。


「慎重派だね。まぁキミならそう言うと思ったよ。じっくり考えてくれ」


 俺の警戒を全て見透かしたか、それとも本気でそう思ったのか、どちらにせよオリアスは俺の言葉を受け入れてくれた。


 彼ほどの力の持ち主からすれば、派閥に誘って即座に了承しないのは不快かもしれない。

 そう思ったので、俺は小さく頭を下げておく。


「はい。申し訳ないです」

「構わないさ」


 オリアスは、俺の謝罪に軽く手を振って笑った。

 そして、ふんふんと鼻歌を歌いながらグラスに入ったワインをあおる。


「……?」


 その姿を見て、ふと懐かしいと思った。

 おかしい。彼とは初対面のはずだ。


 ほぼ無意識の内に、口が動く。


「一つお聞きしたいんですが」

「ん~?」

「一度、どこかでお会いしましたか?」


 不意に、そんな疑問が口をついて出た。


 彼に懐かしさを感じたというのも不可解だが、しかしそれ以上に、この男に接近を許した理由が分からなかった。


 帝王として生まれてから、俺は常に周囲に気を配っている。

 親しいと感じる者以外が近づいてくると、本能が回避行動をとるのだ。


 だが今回はその反応が出なかった。それが不思議だった。

 しかし、【星帝】オリアスは静かに笑って首を横に振る。


「いや、俺達は間違いなく初対面だよ。今まで一度も会ったことはないさ」


 それはそうか。

 となると、この人は俺の警戒を掻い潜るだけの隠密能力を持っている可能性が高い。

 俺は彼への警戒心をもう一段上げながら、小さく頭を下げた。


「そうですか。変なことを聞いてすみません」

「構わないさ。キミは本当に丁寧なヤツだね」


 俺の言葉に、オリアスが満足げに口の端を吊り上げる。

 そして話題を変えた。


「それよりも、俺の派閥について説明しておきたい。もし所属してくれるなら俺が持つ色々な施設を使わせてあげようと思っているから、それについて少し話させてくれ」


 その提案に、俺は目を丸くした。


「…そんな情報を俺に与えてしまって良いのですか? まだ派閥に所属すると決めた訳でもないのに」

「キミは見込みがあるからね。特別さ」


 本来派閥に属さない可能性がある者に、自分が持っている施設に関する情報など教えたりしない。その情報を持ち逃げされれば、少なからず彼のダメージになるからだ。

 

 そのリスクを承知で俺を勧誘してくれるというのは嬉しい。

 よほど俺の力か才能、はたまた別の何かを買ってくれているのだろう。


「それではお願いします」


 これは彼の力を知る良い機会だ。

 そう思って俺が返答した、その時だった。


「ああぁ!? テメエ俺のやることにケチ付けようってんのかゴラァ?」


 馬鹿でかい胴間声どうまごえが、俺の耳に届く。

 思わずそちらに目を向けると、身長二メートルはありそうな巨大な大男が、小柄な細い男を恫喝しているところだった。


 俺と同じタイミングでそちらに目を向けたオリアスが、あららと呟く。


「…あー。あれはヴァサゴだね。また派手にやってるな」

「彼をご存知なのですか?」

「ああ。十五年前に帝王になった【剛帝】だよ」


 ノルンに聞いた話では、帝王は中堅で百数十年、最古の帝王になると数百年もの時を生きているらしい。もはや生物と考えて良いのか疑問だが、その状況から見れば【剛帝】は生まれたばかりと言っていいほどに若い帝王だ。もしかしたら、俺と同期かもしれない。


「…十五年前というと、俺と同じく新米の帝王ですか?」

「いや、ヴァサゴはその一つ前の世代だよ。帝王は十年周期で生まれてくるから、まぁ次世代の帝王ってところだな。ヴァサゴは数年前から急速に力を伸ばし始めた。アイツは持ち前の戦闘力と強力な配下を使って、どんどんと力を拡大しているんだよ」


 確かに強そうだ。

 厳つい顔、隆々とした筋肉が彼の存在をより濃いものにしている。

 しかし、態度が小物過ぎて凄味は感じない。


「…やり口は想像できますね」


 格下の帝王を恫喝している姿を見れば、どうやって勢力を拡大しているのかは想像がつく。

 俺の言葉を聞いていたオリアスは、薄く笑ってグラスの中にある赤ワインを揺らす。


「まぁキミが予想通りだと思うよ。自分の圧倒的な戦力を盾に、相手を恐喝して自分の派閥に吸収する。そういうやり方があるのは認めるが、ヴァサゴのそれは筋金入りだね」

「恨まれそうなやり方ですね」

「ああ。だが勢力が勢力だけに、誰もヴァサゴに手出しできないんだよ。厄介な男さ」

「【剛帝】は新人の中でも最強ということですか?」


 誰も手出しができないほどに勢力を拡大している。

 それならば新人の中で最強と言って差し支えないだろう。

 だがオリアスは含みのある笑みを浮かべて首を横に振った。


「いや。ヴァサゴよりも強い新人はいるぞ。勢力的に見ればヴァサゴはそこそこだが、帝王単体で見ると話は変わる」

「そうでしたか。一体どのような人かお聞きしても?」

「ああ。名前は【女帝】ルシアーノ。八年前、つまり一つ前の世代で最後に生まれた帝王でありながら、既に次世代の中でも最強クラスの力を持ってる。まぁ期待のルーキーってやつだな」


 【女帝】ルシアーノ。

 その名前を俺は脳裏に刻み付け、辺りを見渡した。


「その方はどちらに?」

「さあね。彼女はかなり気まぐれだから、今も外を歩いたりしてるんじゃないかな」

「そうですか…」


 少し残念だ。

 新人の中で最強と言われる存在を見ておきたかったのだが、分からないものは仕方ない。

 だが【女帝】というのは少し能力が分かりにくい。戦うとなれば情報収集を怠ってはならないだろう。


「それより。今向こうが面白そうなことになってるから、一緒に見に行かないか?」


 俺が少し考え込んでいると、オリアスが再び俺の肩に手をまわしてきた。

 そして俺に有無を言わさず歩き出す。

 俺は若干転びそうになりながらも、眉を潜めて体勢を整え直した。


「面白そうなこと、ですか?」

「ああ。まぁついて来な」

「分かりました」


 楽し気なオリアスの背中を追いかけていくと、人だかりが見えて来た。 

 多くの帝王がざわめきと共に数名の帝王を取り囲んでいるところだった。

 その中心にいるのは、男女合わせて五名の帝王。そして……。


「…ノルン?」


 彼らと対峙していたのは、先輩帝王ノルンだった。

 その六人を取り巻く帝王たちが、明らかに異常な熱気に包まれる。

 やがて、五人の先頭に立つ大男が叫んだ。


「…私【騎帝】エリゴスは現時刻をもって、貴公に敵対するものである!」

「…【奪帝】マリウスも同じく」

「【美帝】セーレも同様にね」

「【印帝】カラビアも敵対しますね、はい」

「【鳥帝】アンドラスも同じくであります!」


 なにやら物騒なことを言っているようだが…。

 ぼーっとそのやり取りを見ていると、看過できない言葉が飛び出した。


「我々五名はここに同盟を組み、【運帝】ノルンに宣戦布告を宣言する!」


 会場中が歓声に包まれる。

 俺は数秒かけて、状況を飲み込んだ。


 なるほど。

 ノルンがあの五人から宣戦布告をされたと、そういうことか。


「……は? なんで?」 


 自然と、その言葉が口から零れ落ちた。

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