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プロローグ:時来たれり

 ついに【円卓】当日になった。

 俺はあらゆる準備を済ませて、家のリビングでくつろいでいる。

 ソファに座り、アルスが淹れてくれた紅茶を楽しんでいると、俺にくっついたルリが心配そうに顔を上げた。


「お父様。ほんとうに一人で大丈夫?」


 灰色の瞳が不安げに揺れている。

 彼女を安心させられるように、俺は穏やかに笑った。


「できることなら、三人も連れて行ってやりたかったんだけどな。帝王同士の決まりで配下は連れて行けないってことになってるらしいんだ」


 昨日家を訪ねて来たノルンに色々話を聞いて、【円卓】にそのようなルールがあることを学んだ。


「ルールなら仕方ないっすよ」

「ですね。少し心配ではありますけど」


 正面のソファでくつろいでいるアルスとシスは、俺の言葉に渋々納得する。

 しかしルリは、むっと眉を潜めて抗議を続けた。


「アルたんもシスたんも、吞気すぎるの! 他の帝王はぜったい何か仕掛けてくるの!」

「まぁその可能性はあるけどな…」


 そのまっすぐな意見に、俺は思わず苦笑してしまう。

 ルリが指摘した、他の帝王が何か仕掛けてくる可能性については俺も警戒している。

 だがルールと言われている以上、従わない訳にもいかないのだ。


 彼女をどう宥めようか迷っていると、家の扉が開いた。


「それは絶対できないよ。だから安心して大丈夫」


 聞きなれた声に振り向くと、そこには青色のドレスに身を包んだノルンがいた。

 いつもは下ろしている栗色の長髪を纏めており、少し大人びた印象を受ける。

 

 常に傍に控えているはずのローゼの姿は無い。

 彼女もルールに従って、配下は連れて行かないようだ。

 少しだけ安心感がある。


「ノルン、おはよう」

「うん。プルソンもおはよう」


 軽く挨拶を交わすと、ルリが不満げな声を上げた。


「ノルン様。この世界に絶対なんてないの」


 絶対になんて絶対にない、とかいうネタ話では無く、ルリは本気でそう言っている。

 だが実際の所、それは正しいだろう。たとえ絶対があったとしても、俺達に未来を予想することはできない。警戒するに越したことは無いのだ。


 ルリの言葉に、ノルンは碧眼を細めて笑った。


「その疑い深さはプルソンから受け継いだものかな?」

「それは誉め言葉と受け取ってもいいのか」


 俺はニヤリと笑って割り込む。

 するとノルンはにこやかに笑って、俺達の元まで歩いてきた。


「うん、実際褒めてるからそれで良いよ。それと一つ補足するとすれば、正確には攻撃『できない』じゃなくて『しない』っていう方が正しいね」


 そうして俺達の正面に腰を下ろして、二回手を叩いた。

 絵本の形をした【帝王録】が現れ、彼女はそれを操作しながら続ける。


「【円卓】で他の帝王を攻撃することは禁じられている。相手を殺そうと攻撃行動に出た時点でルールによって処分される。だから誰も攻撃できない。これが【円卓】で殺されない理由さ。どうしても戦いたいっていうなら、相手に宣戦布告する必要がある」


 これが戦争の始まり方の一つか。

 ただそうなると、宣戦布告した側が一方的に有利な気がする。


「宣戦布告されたらどうなるんすか?」


 はいはい、と腕をまっすぐに上げたアルスが問う。


「自分が相手の帝王よりも格下、または同格だと判断されている場合は、宣戦布告を断ることができるよ。でもその逆はできない。つまり帝王は格下の帝王からの宣戦布告を断ることはできないんだ」


 なるほど。どうやら上手いことパワーバランスに応じて調整される仕様らしい。

 しかし格下からの宣戦布告を断れないというのは、かなり面倒な話だ。

 戦いに明け暮れていたらいずれ疲弊するし、格下が援軍として強力な帝王の力を借りないとも限らない。抜け道などいくらでもありそうだ。


「質問よろしいですか?」


 今度はシスが控えめに手を上げる。

 ノルンが「いいよー」と笑うと、シスは小さく小首を傾げながら続けた。


「その帝王の格というのは、一体どうやって測るのですか?」


 たしかにそうだ。

 俺を探ろうとしている連中がいるのは把握しており、種を撒いてはいるが、どうもその連中とは違う気がする。


「具体的な測定方法はボクも知らないけど、結果は【円卓】に行けば分かるようになるよ。新米の帝王が初めて【円卓】に参加すると【帝王録】に新し項目が追加されるんだ。そこを見れば帝王たちのランキングが分かる。まぁ分かると言っても、上位数十人以外は大まかな括りで表示されちゃうから、細かい所までは分からないんだよね」


 次から次へと新しい単語が出てきて、もはや頭がいっぱいだ。

 つまり帝王にはランキングが存在し、上位数十名までであれば自分の順位を確認できる。だがそこを超えると確認できるのは、自分がどの程度のランキングにいるか、という情報だけになるのだろう。

 

 全ての帝王にランキングがあるとするならば、俺は一体どの辺なのだろうか。

 少し聞いてみることにする。


「新米のランキングはどうなる?」

「一律でランキング最後に追加されるようになるよ。ちなみに既存の帝王たちの場合、【円卓】が終わるとランキングが更新されていく」


 つまり、彼女の話を纏めるとこうなる。

 数年に一度開かれる【円卓】の度に、帝王のランキングが更新されていく。そしてそのランキングに基づいて宣戦布告時の対応も変わってくる。

 

 これだけ覚えておけば、宣戦布告については間違いないだろう。

 間違えて格上に宣戦布告をしないように気を付けなければ。

 

 再び考え込んでいると、ノルンが話を終わらせる。


「さて、お話はこのくらいにしておこう。そろそろ迎えが来るから」

「そういえば【円卓】にはどうやって参加すればいいんだ」


 俺は【円卓】への参加方法を知らされていない。

 さらに言えば、その詳しい内容も知らない。分かっていることといえば、全ての帝王が一堂に会するということくらいだ。


 俺の問いに、ノルンは薄く笑う。


「ただ待っていればそれで良いよ。【円卓】は異空間で開催されるんだ。そこから迎えに来た使者についていくと参加できる。……っと、時間だね」


 ノルンがそう言うと、計ったようにリビングに光の柱が生まれた。

 半透明のそれは徐々に広がり、やがて中から初老の男が現れる。


「…【運帝】ノルン様、【芸帝】プルソン様、お迎えにあがりました」

「うん。ごくろうさま」


 ノルンはゆっくりと立ち上がって、男が控える光の柱へと歩いていく。

 彼女は途中で振り返り、俺に笑いかけた。


「さて。それじゃあ行こっか、プルソン」

「ああ。…みんな行ってくるよ」


 席を立つと、三人が一緒に立ち上がる。


「分かったの! いってらっしゃい!」

「パパ。どうかお気をつけて」

「ご主人が必要だと思ったら、いつでも戦う準備はできてます! だから頑張ってくださいっす!」

「ああ。留守を任せるぞ」


 思い思いの言葉をくれた三人に手を振って、俺はノルンに合流する。

 そうして二人で歩き、光の柱に向かっていく。

 半透明の光の柱に入る直前、ノルンが静かに呟いた。


「最後に一つ忠告……っていうかお願いかな」

「なんだ?」

「どんなに理不尽を感じて、正義感で人を助けたいって思っても、他の帝王の宣戦布告を止めようとしないこと。宣戦布告に割り込んじゃうと、必然的にその相手と戦わなきゃいけなくなるからね」

「そんな命知らずなことをする奴がいるのか?」


 そう言うと、ノルンは静かに笑った。


「…うん。たまにいるんだよ。そうやって滅んでいく帝王が」


 もしかしたら派閥同士の争いだとよくあることなのかも知れない。

 巻き込まれないように注意しないと。

 頭のノートにメモしていると、ノルンが静かに息を吸って続ける。


「プルソン。帝王の世界は弱肉強食だ。もし他の帝王がピンチになっていても、それはその子が間抜けなだけだからね。正義感なんかで助けようとしたら、それこそプルソンが死んじゃう。ましてやキミは新米なんだから目立つようなことしちゃダメだぞ?」


 最後に苦笑したノルンに、俺はゆっくりと頷く。


「分かった。今回の【円卓】は大人しくしておくよ」


 帝王は化け物ばかりだ。

 他の帝王への同情で、無謀な突撃をしないようにしておこう。


「よろしい。それじゃ、行こうか」

「ああ。行こう【円卓】へ」


 興奮、希望、不安。

 様々な感情を胸に、俺は光の柱に飛び込む。


 すると、俺たちの体が徐々に透けていった。

 やがて、意識も薄れていく。

 そして、転移が始まった。

かなりお久しぶりになってしまいました。申し訳ない! 今日から第二章を少しずつ投稿してまいります。よろしくおねがいします…!

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