第二話:帝王のお仕事
最強の帝王を目指すことを決めた俺は、早速ノルンに問う。
「EPの入手方法は、さっき説明してくれた三つだけなのか?」
ノルンの説明で、帝王にはEPが必要であること、そして三ヵ月後に【円卓】と呼ばれる重要イベントがあることが分かった。【円卓】には全ての帝王が参加するため、それまでに自分を強化しなければ他の帝王の餌食になると予想できる。
ノルンが教えてくれたEPの入手方法は三つ。
一つは生き物を倒すこと。二つ目は他の帝王を倒すこと。そして三つ目は、自分の【領地】が発展することだった。
この体はやけに物覚えが良いので、正確に覚えている。
「今のところはそうだね。他の方法は見つかってない。ただ、三つ目に説明した「自分の【領地】が発展すること」。これに関してはまだ分かってないことが多くてね。住んでいる子の感情の揺れ幅に応じてEPが入るとかなんとか言われてるけど、詳しいことは分かってない」
ノルンが補足情報をくれた。
そう言われてみれば「自分の【領地】が発展すること」というのは曖昧な表現だ。
それにノルンは軽くスルーしていたが、生き物を倒すことでしかEPが得られないという点に不自然さを感じる。EPの素になっている経験値というものを理解できれば、ひょっとしたら抜け道があるかもしれない。機会があれば試してみよう。
「そう言えば根本的な所を聞き忘れてたんだが、その【領地】っていうのは何なんだ?」
ノルンはゆっくりとお城の高い天井を見上げながら呟く。
「そのままだよ。帝王がつくる自分だけの領土のこと。…ボクたち帝王は特殊な能力を駆使して【領地】を運営するんだ。自分の【領地】を魅力的なものにして、多くの子たちに来てもらうのが帝王の目指す姿ってわけだね」
「受け入れられる種族に制限はあるのか?」
「ないよ。ただ、やっぱり種族ごとに分かれるのが一般的だね。まぁそれが特色になっているから、他の帝王の国と差別化できるんだけど」
さきほどからノルンは、「子」という呼び名を使っている。彼女が種族を人だけに限定しない理由は、きっとそこにあるのだろう。
ただ一つ、気になることがある。
「国にしないとダメなのか?」
国を治めるというのは並大抵のことではない。
国が大きくなればなるほど身の振り方を気をつける必要があるし、何より外の勢力の介入を許す可能性がある。それに根本的な話をすれば、俺が国を治めている姿を想像できない。俺には政治のノウハウは無いし、想像できないことをやろうとしても、そう上手くはいかないだろう。
そんな俺の不安を、ノルンは笑みと共に払拭してくれる。
「そんなことないよ。一定範囲の【領地】があれば、街でも森でも、それこそ山とかでもいい。国をつくるのが一般的なのは、EPがたくさん欲しいってなると、より多くの子たちに来てもらう必要があるからだね~。国なら定住者も出てくるし、その規模も桁違いだから」
納得のいく話だ。
「……一般的ってことは、もしかして国じゃない帝王もいるのか」
ノルンの言葉に含みを感じたので問うと、ノルンはそれを肯定する。
「うん。けっこういるよ。たとえば最強の帝王の一角、【魔帝】サタンは自分の【領地】に大量のダンジョンを作って、それを運営することで莫大なEPを獲得してる。ほかには、戦争をルール化することでEPを獲得している【法帝】マグナ、さらには宗教やらなんやらで稼いでる帝王もいるね。…帝王の数だけ道があるから、自分の得意な分野を伸ばしていけばいいと思うよ」
それを聞いて少し安心した。
諸々の不安を抱えたまま【領地】の運営などできない。
自分の【領地】を国にしなくても良いという話は、俺にとってはありがたいものだった。
「なるほど。帝王の仕事に関しては大体わかった。帝王は自分の【領地】を運営して、他の帝王たちに対抗する力を身に着けるわけだな。もし力が無いとバレると、戦争で殺される可能性があると」
帝王とは、なかなか難しい仕事のようだ。
しかし、せっかく生まれたからには他の帝王には殺されたくない。
「そうなるね。あとは帝王同士でも派閥があったり、同盟があったり、色々あるからそこは勉強かな。……詳しいことは、自分で実際に領地を作るときに試行錯誤してみるといいよ」
「わかった」
情報を整理しつつ頷くと、ノルンは広げていた【帝王録】を閉じた。
そして俺に笑いかける。
「よし! それじゃ今から、帝王のお仕事の中でも基本的なことを教えていくよ。さっそく【帝王録】を開いてみよっか!」
いよいよ俺の帝王としての初仕事が始まる。