第二十八話:山積みのタスク
翌日、俺は家の庭にある倉庫にいた。
近距離戦闘は向いていないと言われ、魔術に至っては全く使えない。
そんな体たらくの俺だが、それでも帝王として力を蓄えていかなければならない。
俺に残された道はただ一つ、軍隊を整えることだ。
そのためにも、軍隊を構成する兵士を召喚しなくてはならない。
シスとの会話で少し話したが、最凶の軍隊形成に向けて、俺は既に動き出していた。
とりあえず、軍隊を作ると決めたあの日から、毎日スケルトンとゴブリンを増やしてきた。スケルトン十五体、ゴブリン十五体。それが今の総戦力だ。
軍隊と言うには心もとないが、これからもっと増える予定なので問題は無い。
彼らには、召喚して間もないながらに明確な仕事がある。
まず、ゴブリンにはダンジョン内でレベリングをさせている。
現状ではアルスたちが獲得した経験値をほんの少しだけ譲り受けることで効率的にレベリングさせているが、その内ゴブリン部隊だけでLv2ダンジョンでレベリングできるくらいには強くなって欲しい。レベルの上がりやすさを考えれば、それも不可能ではないはずだ。
スケルトンは今の所は待機状態だが、少し仕事を任せてたいと考えていた。
彼らの種族特性には、生者の動きを確率で模倣できる、というものがある。俺はそれを活用して、スケルトンに兵器づくりの一端を担って欲しいと考えていた。
その為の先駆けとして俺は、とある研究に着手していたのだが……。
「…本当にこの花であってるのか? このまま混ぜてマズイことになったりしないよな?」
倉庫の中で淡いろうそくの炎に照らされながら、俺は机に置かれた花と睨めっこしていた。
俺達が現在暮らしているノルンの街「アルブヘイム」には、様々な植物などが販売されている。妖精であるノルンが収める領地だからか、はたまた別の理由があるのか分からないが、とにかく凄まじい種類の植物が売られているのだ。
俺はアルス達がダンジョンで入手してくれた素材を換金すると同時に、それらの植物を購入して研究している。もちろん、花を愛でるのが趣味である訳では無く、それらを兵器に転用するための仕事だ。
この倉庫は気密性が高く、あまり外部に空気が漏れない使用になっている。俺はそれを活用して、俺の軍を【最凶】へと変貌させる兵器の開発を始めていた。
一歩間違えば自分自身、そして仲間を傷つけかねない危険な代物だ。
俺はその取扱いに最大限の注意を払い、あの子たちにも、この倉庫には近づかないように厳命している。
今日も十数種類の植物を購入してきた。
今はノルンから借りた植物辞典、その他必要な知識を宿した本を見ながら、植物同士の調合や配合を試している……のだが、辞典に掛かれた花と購入してきた花が同じものか分からず、調合していいものか悩んでいた。
「まぁやってみれば分かるか……」
俺はそう溜息を吐き、半ば諦めの様な覚悟を持つ。
そして辞典と照らし合わせながら、茶色い壺の中で花から抽出した液体を、他の植物から取り出した液体と混ぜ合わせた。
二つの液体が混ざり合って、数秒が経過する。
すると、青色の液体が紫色の液体へと変化した。
「………よかった。正解だったか」
それが正しい反応であることを確認してから、俺は新たに数種類の液体を投入する。そして手順書に目を通した。
「…とりあえず、これで調合の一段階目は終わりか。後は予想通りの結果が出るかどうかチェックしてから、前に作ったヤツと組み合わせて……」
一通りに作業を終えた事を確認して、俺は一つ息を吐く。
これで予想通りの液体ができあがれば、次のステップに進むことができる。
といっても、この液体を、また別の調合によって生まれた液体と混ぜ合わせて……。というのを気の遠くなる程繰り返す必要があるので、これが成功した所でまだまだ先は長い。
目の前に積み重なったタスクに、俺は小さく嘆息する。
「…やることが山積みだな」
【円卓】に向けて、そして他の帝王に対抗するために力をつける。
その一環として行っている研究もそうだが、それ以外にもやらなければならないことは多い。
これから【円卓】までに必要なのは四つだ。
まず一つ目に、仲間達のレベリング。
これは言わずもがなだろう。
仲間達を強くしなければ、戦いも何もあったものではない。
次に、俺自身の戦闘訓練。
魔術の適正も無く、近距離戦も得意では無い俺だが、一通り戦えるようになっておく必要がある。それと、万が一同格以上の存在と相まみえる結果になっても、逃げきれるだけの力はつけておきたい。最近ではアルスとの摸擬戦によって妙な回避能力、逃走能力が身に付き始めているので、この調子で続けていけばどこかで役に立つだろう。
そして、選択召喚による戦力強化。
これは主にスケルトン、ゴブリンを中心に行う。そしてEPの確保度合いに応じて、順次より上位の存在であるリザードマンを召喚していく予定だ。【円卓】までに全体で二百体を超える戦力は整えておきたい。
最後に、【兵器】と【切り札】の開発だ。
【兵器】については見ての通り、既に動き始めている。【切り札】については全くの手つかずの状態だ。一応それに相応しい芸能については目星がついているので、今後はそれについての研究を並行して行う予定である。
【円卓】までの期間、この四つが達成できれば及第点といったところだろう。
やることは山積みだが、一歩ずつでも前進していかなくてはならない。
「…みんなのためにも、俺はできることをやらないとな」
戦えない俺にできることは、備えることだけだ。
戦いの負担を背負わせてしまう仲間達を、最大限支援できるように準備を整える。それが俺のやるべきことだ。その為にも兵器の開発は確実に成功させなければならない。
そんなことを考えていると、目の前の液体が紫から青紫に変化する。
俺はそれを別の容器に移し替え、額に滲んだ汗を拭った。
「…よし、この調子であと数十回、調合を繰り返していこう」
気の遠くなるような作業だが、【円卓】まではあと二ヵ月しかない。
兵器を早く開発できれば、その他の事に意識を回せる。そうすれば仲間達をより手厚く支援することができるだろう。
今もダンジョンで頑張っているであろうアルス、ルリ、シス。
仲間の笑顔を思い浮かべた俺は、彼女達の努力に報いるため研究に没頭した。




