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第二十六話:魔術とは何か

魔術についての説明があります!

 席につくと、ノルンはまずシスに目を向けた。


「これから話す内容、たぶんシスはもう知ってると思うけど、復習っていう意味で一緒に聞いてね」


 シスは魔導士だ。それに【魔導王】という魔法に精通した特性を持っている。

 ノルンが俺向けに魔術を解説するとなると、シスにとっては既知の内容である可能性が高い。そして、それはきっと退屈だろう。


 シスには何か他の勉強をさせてあげようかとも思ったが、シスは一切の不満を感じさせない笑みで頷いた。


「もちろんです。初心に帰ることで何か見えてくるものがあるかもしれませんから」


 そして手元にあった一枚の紙と、それまで自分が使っていたペンを俺に手渡してくれる。


「良かったら使ってください。初めてだと難しいかもしれませんから」


 そういってシスがはにかむ。

 猛烈な感動が俺を支配した。

 

 俺はシスを力強く抱擁して、声を震わせる。


「シス、ありがとう」

「パパ…?」


 なんて良い子なんだ。

 もう娘が良い子過ぎで泣きそうだが、それをぐっとこらえる。


 ノルンはその様子を「やれやれ」といった様子で見守っていたが、俺がシスの抱擁を解くまでしっかり待ってくれた。


 シスを解放した俺は、紙とペンを手に改めてノルン大先生に向き直る。


「悪いノルン。待たせてしまった」

「いいよ。ボクもあんなんされたら泣いちゃうからね」


 ふふっと笑ったノルンは、それから表情を真剣なものへと切り替えた。


「それじゃ、お勉強を始めようか」

「ああ、頼む」

「まず大前提のお話から始めよう。当たり前だけど魔術の発動には魔力、つまりMPを消費する」


 まあそうだろう。

 俺が持っている薄っぺらい知識でも、その程度の事は分かる。


 俺が頷きを返すと、ノルンは「あっ」と口を開いて続けた。


「そういえば最大MPがどうやって決まるか教えてなかったけど、プルソンは知ってるかな?」


 言葉の言い回しが複雑だが、要するにMP量がどうやって決まるか、ということだろう。それならば知っている。


 俺はこれにも頷いて、持っている知識を並べた。

 

「≪魔力≫能力値を十倍した値だよな」

「そうそう! 良く知ってたね?」

「一回MPを使った実験をしたことがあってな。その時に気が付いたんだ」


 アルスと初めて眠った夜、彼女を安堵させるために【鼓舞の音色】を使用した際のことだ。あの特殊能力で消費されたのはEPではなくMPだったので気が付いた。


 ちなみにMP残量はどこにも記載されていないみたいだ。

 【帝王録】にも、ステータス画面にも記載されていないが、MP残量に意識を向けると、ぼんやりと頭の中に浮かんでくる。


「そっか。それが分かってるなら、この先に進んでも問題無いね。……えーっと、次は……」


 俺の言葉に、ノルンは頷きつつ手に持っていた本を開いた。

 どうやらあれは教本らしく、目的のページに辿り着いたノルンは「よし」と笑って魔術の授業を進める。


「さて、それじゃあ本格的な話に入って行くよ。魔術には【属性】と【種類】があるんだ」


 ノルンがパチンと指を鳴らす。

 すると空中に【属性】と【種類】二つの文字が浮かび上がった。


 俺はペンを走らせ、それをメモする。

 すると【種類】の文字が薄まって【属性】が強調された。そしてそれが七つに分岐する。


「まず属性についてだけど、【炎】【水】【土】【風】【光】【闇】【精神】。これが現段階での魔術属性だよ」

「全てこれで分類できるのか?」


 俺の力である【芸の主】をもってしても、任意的に選べない程に膨大な魔方式がこの世界には存在している。それを全てこの七属性で分類できるとは思えない。


「ううん。これに当てはまらない魔術もあるよ。魔法って呼ばれる強大な魔術なんかはまさにそれで、【属性外魔法】って呼ばれたりしてるものもあるね」


 その情報を踏まえて、俺は魔術の【属性】について整理する。


「てことは魔術の属性は、【炎【水】【土】【風】【光】【闇】【精神】の七属性に【属性外魔法】を加えた”八属性”ってことで良いんだな?」

「基本的にはその認識で大丈夫だよ」

「了解だ」


 メモメモ……。

 ノルンが話を進める。


「次に【種類】だね。魔術を発動するためには魔術式っていうものを構築する必要があって、その種類は大きく三つに分類されるんだ」


 今度は【属性】が薄まって、【種類】が強調される。

 そしてそれが三つに分岐した。


「まず初めに【詠唱術式】。これは”魔術名称”だったり特定の言葉を、”魔術発動の意志を込めて”発する事で、魔術を発動するものだね。主には小規模、中規模だったり、強化魔術、弱体魔術なんかで使われるかな」


 極めて限定的な条件だったので、一応繰り返しておく。


「『魔術発動の意志を込めて』ってことは、こういう日常会話で名前を使う程度じゃ発動されないってことか?」

「そういうこと。声だけで発動できる【詠唱術式】は便利だけど、少しでも意志が弱まると発動できなくなるから注意が必要だね」


 なるほど。

 確かに戦闘中であれば音声認識で魔術が発動できる利点は大きい。しかし一瞬でも戦意が乱れれば、まともに魔術を発動できないという弱点が【詠唱術式】にはあるようだ。それにノルンは言わなかったが、声が出せない状況に陥った場合も発動できないだろう。


 そんな考察も踏まえたメモ書きを終える。


「次に【設置型術式】。これは決まった座標に魔術式を刻むことで、大規模な魔術を発動させることができるものだね。一般的なものでいえば魔方陣がこれにあたるかな?」


 俺が魔術と聞いて一番最初に思い浮かべたのがこれだ。

 アルスを召喚する際に【芸の主】を使って引き出した小説や漫画の内容に、そんなものがあった。


 空中に魔方陣を描いて魔術を発動する、紙に書かれた魔方陣を活用する、魔方陣を踏んで転移する。物語では様々な用途で魔方陣が活用されていた。どうやらこの世界でもそれに似た使い方がされているらしい。


「そして最後に【刻印型術式】だね。これはモノに魔術式を書き込むことで緻密な魔術が発動できるよ。主には【魔力付与エンチャント】っていう魔術で使われてるよ」


 そこまで言い終えて、ノルンがふふんと鼻を鳴らした。

 これで三つの説明が終わった。【種類】についての説明は以上ということだろう。


 しかし、ふと疑問が浮かぶ。

 俺の思考は、今日ノルンと会ったばかりの頃の記憶に飛んだ。


『今日プルソンを呼び出したのは、この世界に関する知識を蓄えて欲しいからなんだ。それで何から学ぶべきかと思ったけど、まずは”魔術”について最低限の知識を持っておいて欲しくてね』


 ノルンはあの時、そう言って指先に炎を灯した。

 そこに【詠唱】は無かったし、指先に炎が生まれたのだから【設置型術式】でも【刻印型術式】でもあるまい。


 となると、やはり……。


「なあノルンって無詠唱で魔術を発動できるんじゃないか?」


 俺の突拍子もない言葉に、ノルンは意表を突かれた様な顔をした。

 それから苦笑して、やれやれと首を左右に振る。


「……驚いたな。ここで納得するようなら喝を入れようと思ってたんだけど、まさか自分で気が付くなんてね」


 その口ぶりから、俺は自らの予想が的中したと知った。

 ノルンはあの時を同じように、何も言わずに指先に炎を灯して笑う。


「プルソンの言うように、ボクは無詠唱で魔術を使えるよ。【無詠唱術式】は分類的には【詠唱術式】に属するけど、その性質はまったくの別物さ。魔術発動には三つの【種類】があるって言ったけど、四つあると思っておいた方が良い。無詠唱できるようになれば魔術師としては超一流だね。……っと、ここまでが魔術の【属性】と【種類】だよ。理解できた?」


【詠唱】【設置】【刻印】【無詠唱】。

 四つの発動術式をメモしながら、俺はノルンの質問に答える。


「…ああ、何となくな」


 概要は掴めた気がする。


 俺がペンを置いてそう言うと、ノルンが教本をパラパラと捲る。

 そしてそれに目を通しながら続けた。


「それじゃあ、早速魔術を使ってみよっか」

「図書館だぞ? こんな場所で大丈夫なのか?」

「今日使うのは簡単な魔術ばっかりだから、大丈夫だって」


 そしてお目当てのページを見つけたらしく、そのページを開いたまま、教本を机に置いた。開かれたページには魔方陣と【詠唱術式】用と思わしき文字が並んでいた。


 ノルンは文字の方を小さな手で指さして、気合いに満ちた声で続ける。


「まずは、このそよ風を起こす魔術から初めてみよう! ささ、手に魔力を込めて!」

「おうともさ!」


 魔術。男なら誰でもワクワクする単語だ。

 いつかは魔法と呼ばれる超絶技巧を軽やかにこなしたいものだ。


 俺はそんな憧れと好奇心のままに、ノルンの言われた通りに手に魔力を込めようと意識を高めた。

今後魔術がたくさん出てきますので予習という意味で追加しました……。6/23

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