第二十四話:最凶の軍隊
シスが眠ったことを確認した俺は、ゆっくりとベッドから這い出る。
そして寝室を後にして、リビングを通って家から出た。
外は真黒、ではなく紺色に包まれていた。
街の所々に灯りがともり、静かな風が吹いている。
青白い月が天高く昇り、月と星の光だけで街が見えるほど明るい。
家を出てきたのは、考えごとをするためだ。
シスとの会話で少し出た話題だが、俺はそろそろ軍隊作成に取り掛かろうと思っていた。
敵を殺すならそこに優しさはいらない。ただ凶悪さに満ちた軍隊を作る必要がある。
だが、あの子たちと一緒にいると、どうしても冷酷になれない。
だからこうして一人で考える時間が欲しかった。
今から、敵を殺すことに特化した軍隊の構想を練る。
「…あの子たちのためにも最強の軍隊、いや最凶の軍隊を作ろう」
心地よい風に身を任せながら、俺は夜の街を歩いていく。
そして夜空を見上げながら、未だ敵への同情を燻らせる自分の感情に蓋をした。
「…さて、始めるか」
そう呟いて、俺は指を鳴らす。
何十回と繰り返してきた【帝王録】の呼び出し動作だ。
俺の手の上に、分厚い辞書の様な書物が出現する。
「…とりあえず戦果を確認しておくか」
そしてここ最近のレベリングで得た成果を確認する。
「…【選択召喚】可能な配下が増えてるな。やっぱり倒した存在しか召喚できないのか」
【選択召喚】の表を見やると、空白だった場所に情報が記載されていた。これはダンジョンで倒した魔物の情報だろう。俺達はこれまでのレベリングで、スケルトン、ゴブリン、リザードマンを倒したので彼らの情報が記載されているはずだ。
俺はランクの低い順に、記載された情報を確認していく。
まず出てきたのは、Gランクのスケルトンだった。
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種族名:スケルトン
ランク:G
必要EP:500
≪能力値平均≫
統率5 知略5 耐久5 攻撃10 魔力5 機動10 幸運5 特殊5
特性:骸骨族
≪特性説明≫
骸骨族……生者の行動を確率で模倣可能(極小)。
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素直な感想を言えば、弱すぎる。
Gランクなので当然と言えば当然だが、これならレベルが上がった状態でもアルスに蹂躙された理由が良く分かる。能力値は壊滅的だし、≪特性≫も一見すれば散々なものだ。
だが利点もある。それは圧倒的に安いということだ。
【固有召喚】一回分をスケルトンの【選択召喚】に換算すると、一度で400体以上のスケルトンを生み出せる。それを戦争に駆り出したところでBランク一体に蹂躙されるだろうが、それ以外にも使い道があるかもしれない。
特に、説明を見て興味が湧いた。
確率が低いとはいえ、生者の行動を模倣できるというのは面白い。俺であれば、もしかするとスケルトンを有効活用できるかもしれない。
表をスクロールして次の魔物に移る。
次はFランクの魔物ゴブリンだ。
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種族名:ゴブリン
ランク:F
必要EP:600~700
≪能力値平均≫
統率5 知略5 耐久10 攻撃10 魔力5 機動20 幸運5 特殊5
特性:小鬼族
≪特性説明≫
小鬼族……襲撃時に攻撃補正(小)、同族同士で思考伝達が可能。
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ゴブリンの能力値はスケルトンよりも少しマシという程度だ。普通に弱い。
だが≪特性≫の【小鬼族】が面白そうだ。襲撃時に攻撃補正(小)ということは、俺の【鼓舞の音色】を使えば攻撃補正(中)くらいまでは持っていけるだろう。それがどれくらいの成果を望めるのかは分からないが、大量のゴブリンを強化して奇襲攻撃を仕掛けるのも面白いかもしれない。
それに、同族同士で思考が伝達できる点が偉い。
低位の魔物なので複雑な情報伝達は難しいだろうが、それでも使いようによってはかなり有効な連絡手段となる。
そして、恐らく属性は悪だろう。
そうすると、シスの【固有能力】と相性が良さそうだ。
さて、次にいこう。
次はEランクのリザードマンだ。俺の戦闘訓練相手でもあったので、かなり気になる。
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種族名:リザードマン
ランク:E
必要EP:700~800
≪能力値平均≫
統率15 知略15 耐久25 攻撃30 魔力10 機動35 幸運10 特殊10
特性:蜥蜴族
≪特性説明≫
蜥蜴族……洞窟内、水上での機動に補正(小)。
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さすがにEランクになると、能力値が全て二桁になっている。特に攻撃は30と高く、機動35は圧巻だ。これに加えて【蜥蜴族】によって洞窟内、水上での機動が強化されるとなれば、速度は更に上がるだろう。
戦闘訓練で戦ったリザードマンがあまりに速くて違和感があったが、これで謎が解けた。
Lv2ダンジョンは洞窟であり、リザードマンの≪特性≫がフルに発揮される環境にあった。だからこその速さだったのだろう。
今の所はこの三体が【選択召喚】で呼び出せる戦力だ。
低ランクの魔物なので、アルスたちとは比べるのもおこがましい程度の力しか持っていない。
「さすがにこの三体だと厳しいかもな」
それぞれ面白い≪特性≫を持っている。
だがやはり、少しでも上のランクの存在とぶつかれば簡単に蹂躙されてしまうだろう。
一応、色々考えてはみたのだ。
例えば死の笛を持たせること。
特にゴブリンが持つ奇襲効果を併発させることができれば、それは立派な暗殺部隊と呼べる。
しかし現実はそう甘くない。
死の笛は近いランクやレベルの相手には意味が無いし、ゴブリンがFランクなので全く効果を持たない。それはスケルトンやリザードマンも同様だろう。
俺が使用した死の笛がゴブリンに有効だったのは、そこに圧倒的なランク差があったからだ。しかし現状、それが適応できるのは精々Fランクが限界であり、俺が死の笛を使っても戦争では大した成果にはならない。
もしかしたら、軍隊を作ろうという計画は早すぎたのかもしれない。
そもそもステータスが低すぎるので、能力が反映される武器を与えても意味が無いのだ。
「……やっぱり厳しいか」
俺はそう小さく落胆しする。
そして大人しく別の手段を模索しようとして、ふと足を止めた。
脳裏に浮かんできたアイデアを呟く。
「それなら能力に頼らなければ良いのか」
俺にはSランクという破格の力を持ったの仲間がいる。
だから今までの戦いは、ステータス差で敵を圧倒する光景が当たり前だった。
そのせいで、ステータスが高い存在だけが強いと思い込んでいた。
しかし、それはあくまで正当法の強さだ。
それに、高ランクの一対一と、軍勢同士のぶつかり合いに必要な強さは違う。
邪道であろうが、卑怯であろうが、戦場で敵を多く殺すことができれば、それは強さと言える。
今回は軍全体の戦力を増大させればいい。それならば、何も正直にステータスの差を埋める必要はないのだ。
俺は顎に手を当てて、小さく呟く。
「…ランクや能力を無視できる武器があれば、紙装甲のままだが対応は可能か?」
思考を巡らせる。
そして結論を出した。
可能だ。
それが可能な武器が、俺の知識の中には眠っている。
「そうだ。別に何も、真っ当な手段でランクやレベル差をひっくり返す必要はない。レベルやランク差はそのままで、それを埋めるだけの兵器があれば良い話だ」
例えば、科学兵器はずば抜けて強力かつ有用だ。
あれらは使用者の能力に関係なく、高い攻撃力を発揮できる。それに加えてスケルトン、ゴブリン、リザードマン全てに有用であり、間違いなく強力な軍隊を作る事ができるだろう。
「異界の科学兵器部隊か。実現できれば、この世界で最強の力の一つだな」
この世界は魔術が発展しているためか、科学に頼らずとも生活が成り立っている。
そんな世界に、科学兵器を大量に搭載した軍隊を送り出すことができれば、まさに無双状態だろう。
だが、現実はそう簡単ではない。
現状、俺の【芸具模倣】で生み出せるのは、かなり単純な構成の道具だけ。それも自然由来の素材を使った物しか模倣できない。
一応レベルアップする度に何度か刀を生み出してみたのだが、やはり形として残さなかった。素材に人の手が加わっていること、また自然由来のものから離れすぎているため、桁違いに力を消費するらしい。
そしてそれは、科学兵器にも同じことが言える。
知識にはあっても再現が難しい。
比較的単純な構成の部類である刀や剣でも消えてしまうのだ。科学兵器を作り、それを部隊に持たせるというのは、夢のまた夢といったところだろう。
いずれ近代科学にも足を踏み入れたいとは考えてる。
俺の理想の街をつくるのであれば、それは必須だ。
しかしそれまだ先の話だろう。仲間、EP、俺自身の力、現状では近代科学に必要な要素が何一つ足りていない。
だが、敵とのランクやレベル差を埋める、という考えから転換できたのは僥倖だ。
俺の脳内に、幾つかの可能性が浮かび上がってくる。
「…それに生物相手の戦いなら、近代科学じゃなくても事足りるな」
そうだ。この世界には様々な種族がいるので忘れがちだが、殆どの者は生物だ。
それならば、もっと単純かつ、ほぼ全てに有効な兵器がある。
「今軍隊を作るとなれば、これしかない」
俺は一人でそう頷き、方向性を固める。
そして薄く笑みを浮かべた。
「≪最凶の軍隊≫の育成に、仲間のレベリング。そして”切り札”の探求か。やることが山済みだな」
【円卓】まで残り二か月。
もはや猶予は残されていない。
これからやるべきことを確認した俺は、こうして本格的に【円卓】に向けて動き始めた。




