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第二十話:ルリとシス

 目を開けると、天井が目に映った。

 どうやらベッドに寝かせられていたようだ。


「…ここは」


 うとうとしていると、左側から優しい声が聞こえてくる。


「起きたみたいだね、プルソン」


 首を動かしてそちらを見やると、ノルンが椅子に座って俺を見ていた。

 どうやら倒れた俺の面倒を見てくれたらしい。


「わざわざ付き添ってもらって悪いなノルン。まさか昏睡するとは思わなかった」


 ノルンに小さく頭を下げつつ、俺は苦笑する。

 アルスを召喚した時は、まだ自力で歩くことができたのだ。しかし今回は起きていることすらできなかった。


 俺の言葉に、ノルンも読んでいた本を片付けながら同意する。


「ボクも驚いたよ。でも考えてみれば当たり前のことなのかも」


 少し納得した表情のノルンに、俺は上体を起こしつつ首を傾げる。


「当たり前?」

「うん。だってキミの場合、そもそも【固有召喚】に使用するEPが桁違いだからね。それに方向性をもって生み出せるぶん精神的な疲労もあるだろうし、今回も能力値強化を付与したんでしょ。そういう諸々の追加要素をあの子たちに与えてると考えると、これも当然の結果なのかな~って」


 俺の【固有召喚】は特殊なものだ。

 まず何といっても22万EPを消費すること。

 さらに、配下は方向性を持って生み出せるし、その際に特別な強化を付与する選択も可能だ。

 

 それに対して他の帝王は、10万EPを使うというだけ。

 もしかしたら、俺の場合は諸々の追加効果を含めてのEP消費量なのかもしれない。

 それならば納得がいく。


「つまるところ、俺の【固有召喚】は他の帝王の何倍ものエネルギーを使うってことか」


 実際、そのせいで深い眠りに落ちているので、これはほぼ確定だろう。

 ノルンは微笑んで俺の予想を肯定した。

 

「正解。でもまあ、今回もそれに見合うだけの子達が生まれたみたいだけどね」

「そういえば、アルスたちは?」


 この部屋にいるのは俺とノルンだけだ。


「アルスは生まれてきた子達に状況を説明してるよ。一応ローゼにも一緒に居てもらってる。護衛って意味も込めてね」

「そうか、ありがとう」


 さすがは先輩帝王ノルンだ。アルスにローゼをつけてくれるのはありがたい。

 ただ、護衛という意味を込めて、という点が気になった。

 ノルンが新たに生まれた仲間をどう見ているのかが、少し気になる。


「一つ聞きたいんだが、あの子たちをどう思う?」


 素直に問うと、ノルンは豊かな双丘の下で腕を組んだ。


「二人ともちゃんと力は制御できてるみたいだよ。まぁその為に二人で生まれたって考える方が自然かな」

「どういうことだ?」

「一人の肩には重すぎる力も、二人なら抱えられるってこと」

「つまり、あの二人は別々の存在だが、その本質は同じってことか?」

「まあそうなるね」


 ずいぶんと面白い生まれ方をしたものだ。

 感心していると、ノルンが席を立つ。


「それじゃ、あの子たちも心配してるし、そろそろ行こうか」

「ああ。分かった」


 俺はベッドから出て、四人が待つリビングへと向かった。



 俺とノルンは寝室を出て、まっすぐにリビングへと向かう。

 リビングに近づくと、通路にもアルスの声が聞こえて来た。


「…いいっすか。自分がお姉ちゃんっすからね」


 アルスは興奮している様子だ。きっと新しい仲間ができて嬉しいのだろう。

 改めて、意思疎通の取れる子達を生み出して良かったと思う。


「了解なの。アルたんはお姉ちゃんなの」

「アルス姉さんと、そう呼ばせて頂きますね」


 アルスの声に追随するのは、意識を失う前に聞いた声だ。

 今回召喚した二人のものだろう。


「分かればよろしいっす!」


 角を曲がってリビングに足を踏み入れると、アルスがソファに腰を下ろした天使二人に向かって胸を張っていた。


「気合いが入ってるみたいで嬉しいよ、アルス」


 声を掛けると、アルスがあっと振り向く。


「あ、ご主人! 体調はもう良いんですか」

「ああ。それより、なんの話をしてたんだ?」

「ふふん! ルリとシスに自分がお姉ちゃんだって教えてた所っす!」


 ルリ、シスというのは、新しく生まれた子達の名前だろう。


「なるほどな」

 

 俺は頷きつつ、アルスの言葉に微笑む。

 確かに彼女の方が先に生まれているので、立場的には姉になる。さっそくお姉ちゃんとしての役割を果たそうとしているのだろう。可愛い子だ。


 俺はアルスの隣に腰を下ろしつつ、正面のソファに姿勢正しく座る二人に目を向けた。 

 

「ルリ、シス。挨拶が遅れてすまない。俺が君達を召喚した帝王プルソンだ」

「私はルリなの。プルソンさまの名前覚えたの。でも私はお父様がいいからお父様って呼ぶの」

「シスと申します。私もパパの方が呼びやすいので、そう呼ばせて頂きますね」


 にこにこと太陽の様な笑みを浮かべているルリと、穏やかに微笑んでいるシス。

 目と髪の色以外は全く同じなので、おそらく二人は双子だと考えられる。

 その態度に違いはあるが、二人のスタンスは共通していた。


「まあ別に構わないけど、俺が父なのか?」


 面と向かってそう言われると、少し戸惑う。

 俺が首を傾げると、二人は互いに目を合わせて、それから同じタイミングで頷いた。


「当たり前なの。そうだよね、シスたん」


 ルリが銀髪を揺らして、焦茶の髪を持つシスを見やる。


「ええ。私たちはパパの力によって生み出されました。ですからパパの子供で間違いないです」

「まあ、そういう解釈もできるか」


 アルスに対してもそうだが、俺はどうしても仲間を娘のように見てしまう時がある。

 おそらくその意識が反映された結果だろう。まあ可愛い娘たちに囲まれるのは嬉しいので良しとしておく。


「さっそくステータスを確認させてもらいたいが、このままでもあれだな。アルス、頼みがある」

「はいっす!」

「冷蔵庫に秘蔵のお菓子がしまってあるから、取ってきてくれるか?」


 そう言うと、アルスが目を輝かせた。

 彼女は大のお菓子好きだ。


「秘蔵のお菓子っすか! やった! 速攻でとってくるっす!」


 シュバっとその場から立ち去ったアルスの残像に、俺は手を伸ばす。


「あ、お茶も忘れないでくれよ……って、もういないし」


 こうなっては仕方ない。自分で行こう。

 そう思って席を立とうとすると、それをローゼが制した。


「プルソン様、それならば私が淹れて参りましょう。少々お待ちください」


 その提案に、俺は目を丸くする。


「いいのか?」


 ローゼが席を外すということは、ノルンを一人残していくということだ。

 これまでのローゼであれば、そんなことはしない。

 しかし彼女は、ノルンの陰に目を向けて静かに笑った。


「…今日は問題ありません。それに、この子たちはノルン様を害する存在ではありませんから」

「そうか。それじゃあ頼む」


 もしかしたら、俺が感知できない場所にノルンの配下が潜んでいるのかもしれない。

 俺はローゼの厚意に甘えて、そう頷いた。

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