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第十九話:最強の矛

 約一か月ぶりの【固有召喚】がはじまった。

 頭の中に数多の可能性が生まれては消えていく。配下の方向性を示すことができる能力で、必要な情報を取捨選択をしている結果だ。


 二度目の【固有召喚】ということもあって、アルスの時よりも思考に費やせる余裕がある。

 そのせいか、俺は【固有召喚】に関する情報を感覚的に理解できていた。

 

 【固有召喚】で大切なのは、イメージだ。

 しかしそれが漠然としたものでは意味が無い。

 漠然としたイメージでも召喚自体は成功するが、持ちうる知識の中から極めて無作為に参考にする対象を選ぶことになってしまう。それでは力を持った存在は生み出せない。

 

 頭に浮かぶイメージが強ければ強いほど、生まれてくる存在はより強固になっていく。

 それが【固有召喚】の持つ真の力だ。


 本来は何度も繰り返していくうちに稀に会得する技術だが、俺にはそれが【芸能】として刻まれている。

 だからこそ、Sランクという規格外の存在を狙って生み出せるのだ。

 

 今回生み出したい存在のイメージを、考えていた土台に上乗せするようにして固めていく。 


 何者をも打ち砕く最強の矛、それが俺の望みだ。

 そのためには強い存在でなければならない。


 強さを求める上で重要なのは、強さの種類だ。

 人々が思う強さの一つには、理解できない力への恐れがある。

 自分たちに理解できない超自然的な力を、人々は神や悪魔の所業と考えてきた。

 その知識は何代にも渡って受け継がれ、【芸能】として世界に刻まれている。


 今回はそこから、知識を拝借する。

 

 それは【神話】の住人。

 人が決して到達しえない、空想上の存在。全てを超越した至高の頂きに立つ存在だ。

 人々の恐れ、そして畏れが込められている分制御は難しいが、その身には絶大な力が宿る。

 

 これこそが、俺の求める力だ。

 全てを破壊し、無に帰す最強の存在。


 俺の知識によって、新しい命が形作られていく。


「…どんな子が生まれるのか、楽しみっすね」

「そうだね。アルスの妹か弟になる子だもんね」

「はいっす!」


 極限の集中にあるため、本来聞こえるはずのないアルスたちの声が聞こえてくる。

 その言葉に、俺の瞳孔が開いた。


 今回の仲間に望むのは、純粋な戦力だ。

 その最大化を図るためにも知性が犠牲になる可能性はあるし、そうなってしまう覚悟はあった。


 しかし、今になって思う。

 生み出した子が暴走した時に、それを殺すことになるのは、ノルンやローゼ、そしてアルスだ。


 アルスに弟や妹を殺させる。

 そんなことがあって良いのだろうか。


 否。断じて否だ。

 アルスが傷つくと分かっているのに、それを容認できるわけがない。

 それに俺の力不足で、生まれてくる子を不幸になどさせてたまるものか。アルスが俺の娘のような存在であるように、今から生まれてくる者も、間違いなく俺の子なのだから。


 俺は甘ったれた自分の考えを叩きなおす。

 

 もう一度だ。

 もう一度、一から存在を組み立て直せ。


 他を圧倒する力を持ちながらも、人、妖精、数多の種族と共存できる。

 俺には、そんな存在を生み出す力があり、責任があるのだ。

 知識を貪れ。可能性を知覚しろ。生み出す存在に比例して暴れる膨大な力を、制御してみせろ。


「…くっ……」


 頭が割れそうなほどに痛い。

 アルスの時とは違って、途中で目指す姿を変更したのだ。目指すべき場所を、この刹那の時間で完璧に思い描かなければならない。


 頭の中で幾千もの書物が一瞬にして捲られ、俺の知識となる。

 しかし、そのどれもが破滅への可能性を秘めた狂暴な存在へと変化してしまう。

 汗が滝のように零れ落ちる。


「…やっぱり、無理なのか」 


 あまりに膨大過ぎる知識の海の中から、たった一粒の砂を見つけ出す様なものだ。

 そんな荒業を、俺如きができると考えたのが間違いだったのだろうか。


「ご主人、諦めちゃダメっすよ!」


 アルスが真剣な顔で、俺の手を握る。 

 そうだ。この子のためにも諦めるわけにはいかない。 

 選べるかどうかではない。その可能性を掴み取ることこそ、俺の成すべきことなのだ。


 ぎゅっと握られたアルスの温かさに、俺は目を見開く。

 今の一瞬、脳裏に、アルスと笑い合う二人の姿が見えた気がした。


 これは可能性だ。

 アルスが俺に示してくれた、新しい仲間の姿だ。


 思考が加速していく。

 見つけた可能性に一直線に進み、書物、歴史、願いから必要な知識を吸収してく。 


 俺はずっと、完成された最強の存在を思い描いていた。

 だから、気が付けなかった。

 一人では無く、二人で最強となる存在について。


 そして俺は、ついに辿り着いた。


 それは神話に登場する、二人の英雄の話だ。

 人間の血と、神の血を引く者たち。凄まじい力と勇猛さをもちながらも、人の心を理解することができた存在。


 神でありながら人であり、共に空へと昇った二人の勇者の姿が、鮮明に浮かびあがってくる。

 

 これだ、これしかない。

 俺とアルスの願いを反映した存在が形作られていく。

 幾億という可能性の中から掴み取った道を、一つずつ手繰り寄せる。


 そして、やがて最後の選択が始まった。


『固有能力【顕現の芸者わざもの】による能力として、召喚する配下に能力補正が可能です(残り六体)。実行しますか?』


 アルスにも与えた力。

 俺は今回、この力を与えるべきかを迷っていた。

 だがこれから生まれてくる子になら、アルスと一緒に生み出した仲間になら、この力を託すことができる。


 『はい』を選択し、ついに全ての準備が整った。

 光り輝く黄金の柱が一本生まれ、それは二本へと分岐していく。

 

 凄まじい光が辺りを照らし、生命の鼓動が聞こえる。

 やがて太陽のような光が収まり、新しい仲間がそこにいた。


 金色の翼をたずさえた、二人の天使がゆっくりと目を開ける。

 一人は透き通った銀色の髪に灰色の瞳、一人は焦茶の髪と紅の瞳の少女だ。


 彼女たちから凄まじい力を感じる。


「…さて、どうなるか」


 俺はゴクリと喉を鳴らした。


 無数の可能性の中から、ベストな可能性を掴み取った。

 しかし急な進路変更だった上に、二人には強大過ぎる力が宿っている。

 俺の選択にミスがあれば、二人はその力に押しつぶされ、理性的な行動をとれなくなるだろう。


 力によって支配されるか、力を従えて理性を保つか、二つに一つだ。


 この場の緊張が高まっていく。

 数秒の静寂の末に、灰色の瞳と紅の瞳が動いた。


 二人の視線が、ぴったりと俺に合わせられる。

 そして……。


「お父様、おはよう!」

「おはようございます、パパ」

 

 二人の美少女が俺の胸に飛び込んできた。

 軋む腕を気合いで動かして、なんとか二人を受け止める。

 そして、もはや碌な思考もできないほど疲労した脳で、ある程度の状況を認識した。


「おはよう、二人とも」


 二人の理性は保たれている。

 瞳には知性の輝きがあるし、会話も成立した。これならば暴走することはないだろう。

 どうにか危惧していた事態は回避できようだ。


 しかし、それとは別の問題が生じた。

 それは、俺が凄まじい疲労感に襲われていること。

 EPの大量放出はかなりの疲労感を伴うのは承知していたが、今回は特別ものだ。アルスの時と同じか、それ以上の体力をもっていかれた。


 俺は閉じかけた目をアルスに向ける。 


「アルス。悪いがこれ以上起きてられそうにない。二人への状況説明、あとは周囲の警戒を頼む。もし問題があれば、ノルンとローゼの指示をよく聞くこと」


 もうどれだけ起きていられるかも分からない。それに、もし起きていられたとしても俺は役に立たないだろう。

 アルスに後のことを託すと、彼女は真剣な顔で頷いてくれる。


「はいっす! お任せください!」

「…悪い……任せた……」

 

 もう十秒も起きていられそうにない。

 その言葉を最後に、俺は疲労を訴える脳に抗えず、意識を手放した。

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