第十五話:レベルアップ
俺が死の笛を封印したあとは、アルスが戦いを続けた。
「せいやっ!!」
彼女が何十体目かのスケルトンを切り裂くと、その全身から眩い光が放たれる。
何が起こったのか理解できないでいると、アルスが満面の笑みで駆け寄ってきた。
「ご主人! レベルアップしたっす!」
「頑張ったな」
なるほど。今のはレベルアップに伴う光だったのか。
【帝王録】を開いて、アルスのステータスを見る。
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名前:アルス
種族名:人間
ランク:S
LV:2
統率87 知略88 耐久56 攻撃87 魔力44 機動78 幸運32 特殊36
特性:人たらし 龍殺し 王道を征く者 ??? ???
固有能力:英霊召喚
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確かにレベルが上がっていた。
それだけなく、能力値も増加している。
レベル1では【統率87、知略88、耐久55、攻撃86、魔力40、機動78、幸運32、特殊36】だったが、レベルアップで【統率87、知略88、耐久56、攻撃87、魔力44、機動78、幸運32、特殊36】に変化している。耐久と攻撃が1ずつ、魔力が4上昇している計算だ。
数日前にノルンから聞いた話を振り返る。
たしか、ステータスの中で目に見えて大きく変わるのはレベルだけだと言っていた。能力値は素質のようなもので、レベルとの掛け算で強さに反映されるという話だった。
その話をしっかりと覚えていた俺は、アルスの能力値上昇に驚く。
理由は単純で、アルスが完成された能力値で生まれてきたのだと思っていたからだ。レベル1の段階で、帝王である俺を大きく凌駕する能力値を有していたので、自然とそう思い込んでいた。
しかし今回のレベルアップで、アルスの能力値は上昇した。
強さはレベルと能力値の掛け算なので、これからもレベルと共に能力値が上がるとなると、アルスの今後の成長が楽しみでしかたない。
笑みを浮かべながら、俺は続けてそのステータスを眺める。
そして、そこではたと気がついた。
アルスのステータスにはEPという要素がなかった。
どうやら帝王のレベルアップと配下のレベルアップは少し違うらしい。
ノルンが説明してくれたように、帝王が獲得する経験値は自動的にEPへと変換される。そのためレベルアップだけではなく、【配下召喚】や領地の発展など様々な要素に使うことができる。
しかしアルスの場合は、取得した経験値がそのままレベルアップに直結していた。これが帝王と配下の違いなのだろうか。
「…それにしても、これだけ倒してレベル2か。凄まじいな」
さすがSランクといったところだろう。アルスはレベル2にあがるために相当数の敵を倒した。
これはあくまで俺の予想だが、レベルアップを重ねるたびにレベルは上がりずらくなっていくのだろう。俺の知るレベルアップとはそういうものだ。彼女が最大レベルに到達するために一体どれだけの経験値が必要なのか、正直想像もできない。
そう苦笑すると、ローゼと共にノルンが、ぱちぱちと拍手しながら合流した。
「おめでとうアルス。この調子でどんどんレベルを上げていこう」
「はい。がんばるっす!」
ノルンに頭を撫でられて、アルスは幸せそうに目を細めている。
ダンジョンに入る前はあれだけ嫌がっていたのに。やはりノルンには人に好かれる何かがある。
アルスを優し気な顔で撫でているノルンに、俺は疑問をぶつけた。
「なあノルン。やっぱり帝王と配下じゃレベルアップの概念が違うのか?」
「うん。たぶんプルソンはもう気が付いてるだろうけど、配下は帝王と違って、経験値がそのままレベルアップにつながるんだ。そういう≪特性≫をもってない限り、取得した経験値がEPに変換されることはないよ」
おおむね予想通りだが、それ以上に気になる情報があった。
俺は若干驚きつつ、声を上げる。
「…経験値をEPに変換できる特性があるのか?」
「うん。」
俺は言葉を失う。初耳だった。
それは疑似的に帝王が配下にもう一人増えるようなものではないか。何という破格の≪能力≫だ。
「俺も欲しい」
思わず子供のような声を出した俺に、ノルンが声を上げて笑う。
「あはは! でも難しいと思うな~。その子はすっごい特別な存在だから。ボクも実際その≪特性≫を持っているのを、その子意外に見たことないんだよね」
「…そっか、残念だな」
「でも大丈夫。配下が取得した経験値の一部は帝王にEPとして入ってくるから、別に死活問題にはならないよ。今回の狩りでも、アルスが倒した敵からEPが入手できてると思うけど、入ってきてるよね?」
「ああ。しっかりな」
俺は未だに湧き上がってくる好奇心を一旦抑えて、ノルンの話にうなずく。
アルスがレベル2に上がるまでに倒した敵の経験値の一部を、俺はEPとして獲得している。
不評の嵐で使用禁止になった死の笛を作成した後から、アルスがかなりの数の魔物を倒してくれているので、支出的に見れば大きなプラスだ。そのことを考えると経験値をEPに変換する≪特性≫が必須とは言い難い。
しかし、それでも経験値を完璧にEPに変換できる≪特性≫にはとてつもない魅力がある。
現状俺は周囲100メートル以内にいる配下から、わずかなEPを受け取ることしかできない。だがもし遠く離れた場所で、全ての経験値をEPに変換できる仲間がいればその制約はなくなる。そして俺には【芸帝】だからこそ可能なEP獲得方法がある。まだ実験中ではあるが、おそらく上手くいくはずだ。
全経験値をEPへと変換できる配下、そして【芸帝】の力。
両者が組み合わされば、凄まじい速度でEPが溜められるだろう。そうすれば俺は世界でも有数のEP獲得者になれる。
その≪特性≫を持つ存在、そしてそれを持つ帝王はどんなヤツだろうか。
俄然興味が湧いてくる。
俺が頭をフル回転させてそれらに思いを馳せていると、ノルンがぺちっと手を叩いて、話を切り替えた。
「さて、それじゃ今日はこの辺にして帰ろっか」
「自分はまだまだ戦えるっす!」
アルスはそう言って残念そうな顔をしているが、俺はノルンに賛成だった。
「アルス、今日は初日だからね。半日も戦えば十分だよ。それにここはLv1のダンジョンだから余裕があるけど、ダンジョンレベルが上がればそうはいかないからね。ここで基本的な攻略法を身に着けるのも大事な仕事さ!」
「……そうっすね! 納得っす!」
少し考えた末に、アルスはノルンの言うことを聞いた。
アルスは賢い子だ。きっとそうした方が将来的に得だと思ったのだろう。ふわふわしているように見えて、意外にしっかりしているのだ。
しかし俺にも、狩りを続けたいというアルスの気持ちが分かる。
はやく彼女をレベルアップさせてやりたいし、何よりもっとEPが欲しい。
帰路につくなかで、俺はノルンに打診する。
「ノルン。ここよりLv2とかLv3のダンジョンの方がレベリングの効率が良くないか。俺ももっとEPが欲しいから、はやくそっちに行きたいんだが」
「まぁプルソン達ならそうなるよね。う~ん……」
俺の言葉に、ノルンは難しい顔で思案した。
そして指を二本立てて頷いた。
「レベル2のダンジョンならいいよ。…でもレベル3の許可は出せない。あそこは狡猾で強い魔物が出現するからね。アルスがレベル10、いや15になったらにしたほうがいいと思うな~」
「分かった、ありがとう」
そこが、俺達がマージンをとれるラインということだろう。
いつまでも効率の悪いレベリングをするのは好きではないが、それ以上に無茶な突撃をするほど馬鹿じゃない。アルスがレベル15になるまでLV2ダンジョンで狩りができる。今はこれで十分すぎる戦果だ。
「……てことでアルス。レベル15までは、Lv2のダンジョンでレベリングだ」
「了解っす!」
ちょうどいい高さにあるアルスの頭を撫で、俺は今後のレベリングの計画を練る。
明日からも、がっつり経験値を稼いでいこう。