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第十三話:先輩

「さぁ、ついたよ」


 ノルンに連れられて到着したLv1ダンジョンは、まさしくダンジョンといった風貌である。

 彼女の街である【ニブルヘイム】の端の方に、ひっそりと口を開けた洞窟型のダンジョンだ。それに街で普通に暮らしている分には、まず辿り着かない場所にある。


「…ずいぶん遠い所にあるんだな」

「まあボクの領地は街だからね。人通りの多い所に作って、万が一間違えて入っちゃったら、配下じゃない子たちはすぐに死んじゃうでしょ」

「そうなのか?」

「うん。帝王の配下はかなり強くなって生まれるからね。その辺の子とは正直比べものにならないよ」

「へー」

 

 生返事を返しつつ、俺はそれだけが目的ではないと考えていた。

 こう言っては失礼にあたるが、ノルンは見た目以上に慎重だ。


 【魔帝】サタンのように、ダンジョンを主要な産業にできるのは稀な例だとノルンは言った。しかし新米帝王の俺から見ても、ダンジョンはそれだけで魅力的な存在だ。なぜなら一度購入してしまえば、あとは何をしなくても客を呼び込めるものだからだ。費用対効果が良すぎる。それを他の帝王、ましてやノルンが見落としているとは思えない。きっとそれ以上のデメリットがあるのだ。

 そんな背景を考えれば、大方の予想はつく。


「…もしかして、諜報員たちからダンジョンを秘匿しているのか?」


 一瞬だけ、ノルンが俺を警戒した。おそらく無意識だろうが、当然の反応だ。


「へえ。どうしてそう思うの?」


 そして感心した様子でノルンが言う。


「ノルンは昨日、俺達が他の帝王の諜報員に監視されている可能性があるって言ってただろ。それなら普通に考えて、ノルンも大事な情報は秘匿するんじゃないかって思ってな。ダンジョンのレベルが分かれば、相手がどのくらいの戦力を持っているかも容易に想像できるだろ?」


 ノルンは嘘が得意じゃないが、決して間抜けではない。

 俺の予想に、ノルンは苦笑してうなずく。


「うん。その通りだよプルソン。それと、ボクはキミが恐ろしい。無自覚だろうけど、キミのその発想と考察力はとことん帝王に向いている。ある意味どんな強力な能力を持っている帝王よりも怖いよ」

「そうか? だが、実際にそれを実行しているあたり、やっぱりノルンは大先輩だよ」


 机上の空論では意味がない。

 ノルンは俺が描く理想を、実際に遂行してみせている。

 何かを聞けば必ず返答が返ってくるし、帝王として積み重ねてきた努力を端々に感じるのだ。


 今思えばノルンが答えられなかったことは少ない気がする。

 いくら先輩帝王といえど、どこかしらに綻びがあってもおかしくないはず。だがノルンにはそれがない。それに加えて、ローゼという強大な戦力も保持している。

 帝王間の序列に関してはあまり詳しくないが、もしかするとノルンは帝王の中でも上位に位置する存在なのかも知れない。

 妖精の美少女にそんな力があるとは、帝王としての彼女を見てみなければ想像もできないだろうが。


「…プルソン?」


 考え込んでしまった俺に、ノルンが首を傾げる。


「すまない。ちょっと考えごとをしてた。…さっそくダンジョンに入りたいんだが、いいか?」


 誤魔化しもかねて、俺はさっそくダンジョンへ入る許可を求めた。

 これから初めての狩りだ。Sランクのアルスの力も知るいい機会だし、俺もはやくEPが欲しい。

 それに、さっきからずっと興奮が止まらない。帝王の本能が闘争を促してくるのだ。


 俺の疼きを感じ取ったか、ノルンは大きくうなずく。


「うん、もちろん! そのために来たんだからね! 先輩帝王として【帝王の戦い】をキミに指南してあげよう」


 昨日ノルンに襲われた時の事を思い返せば、俺は単独戦闘が得意な帝王ではない。

 

 本気を出せば戦えないこともないが、EPを大量に消費するし、耐久力も継続戦闘能力も低い。その弱点を補えるような戦い方をノルンから学ぶことができれば、それは俺にとって大きな前進になる。


「ありがとう。頼りにしてるよ、先輩」

「うん。まかせて」


 ノルンはそう言ってダンジョンへと足を踏み入れる。ローゼもそれに続いた。

 俺もその後を追って、ダンジョンに入ろうとする。しかし俺の服の袖を、アルスがちょこんと掴んでいた。


「…ご主人、頼るなら自分を頼って欲しいっす」


 ぷくっと頬を膨らませるアルスに、俺は苦笑する。

 どうやら、まださっきのことを気にしているらしい。

 この子は普段は強がっているが、実はかなり寂しがり屋なのかもしれない。


「もちろんアルスも頼りにしてる。アルスは俺の懐刀だからな」

「はいっす!」


 元気を取り戻したアルスの頭を撫でて、二人でダンジョンへと入って行く。


 それにしても、帝王としての戦いか。

 危険があることは百も承知だが、実際かなり楽しみだ。

 ノルンは忘れているようだが、俺は【芸能】に特化した帝王。昨日寝る前にその力は確認済みだ。  

 今回の戦いでは、その本領を発揮するとしよう。きっと驚くはずだ。

ちょっと短かったので、次回は少し長めになってます! 明日更新予定です!

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