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第十二話:ダンジョン

 翌日、ぐっすりと眠りこんでいた俺とアルスは、部屋に突入してきた先輩帝王ノルンによって叩き起こされた。


「まったく。今日からはEPの稼ぎ方を説明していくって言ったのに! 遅刻するなんて、ボクはもうぷんぷんだよ!」


 準備をして家を出ると、玄関先で待っていたノルンに怒られた。ちなみにその隣では、俺達の世話係のローゼが含みのある笑みを浮かべている。

 面目なく、俺は平謝りを続ける。


「…悪かったノルン。別にノルンとの約束を忘れていたわけじゃないんだ」


 せっかく指導してくれるノルンには、本当に申し訳ないことをしたと思う。

 俺達は朝八時にノルンの城に集合する予定だったが、寝坊してしまったため今は十時だ。


「ふんだ! もうプルソンなんて知らないよ。ボクとの約束をすっぽかすなんて、勝手に強くなればいいさ」


 けっこうマジで怒っているっぽい。これはやってしまった。

 しかし、ここにきてローゼが口を開く。


「そんなこと言って。…ノルン様は凄く心配してたんですよ。もしかして他の帝王にプルソン様が攫われたんじゃないかって」

「ローゼ! それは言わない約束だったじゃんか! どうして言っちゃうのさ!」


 顔を真っ赤にしてノルンがローゼに抗議している。

 何はともあれ、ノルンには心配をかけてしまった。今度何かお詫びの品でも持っていこう。

 俺の記憶には土産物に関する専門的な知識も含まれている。記憶にある品をEPを使って具現化させることができるので、EPがそこそこ溜まったらそれを持っていこう。ノルンが喜びそうなものとなると、一体どんなものが良いだろうか。

 

 漠然とそんなことを考えていると、ノルンが咳ばらいをして話を戻した。


「ごほん! えっと、まぁちょっと怒っちゃったけど、ボクは心が広いから今回は許してあげるよ!」

「すまない。ありがとう」


 苦笑しながら、俺は行動を改める必要があると感じた。

 

 この体でしばらく過ごしてみて分かったことがある。

 それは食欲と睡眠欲が凄まじい、ということだ。 

 昨日はローゼが作ってくれたご飯を何回もおかわりしてしまったし、十時間ほど爆睡した。疲れていたのもあるだろうが、それ以上に本能が寝させてくれと叫ぶのだ。具体的に言えば、朝布団を出ようとした時に来る二度寝の誘惑が、より強烈になって続くような感じだろうか。


 一日十時間の睡眠は確保したい。そのために行動は逆算して考えよう。

 そう決めた俺に、ノルンが歩き出しながら言う。


「さてプルソン。昨日、【魔帝】サタンが多くのダンジョンを運営してるって話をしたよね。覚えてる?」


 どこに向かっているのかさっぱりだが、どうやら今日の勉強がはじまったらしい。

 ノルンの後を追って道を歩きながら、昨日の話を思い出す。


「ああ。なんでもそれで莫大なEPを得ているとか」

「そう。魔物が無限に湧き続けるダンジョンでは、すっごく強い感情が動くんだ。そこで発生するEPを【魔帝】サタンは活用してるんだね~。それにダンジョンは一回購入しちゃえば無限に魔物が湧いてくるから、領地とそれなりのEPがあれば、あとは大量のEPをほぼタダで獲得できるってわけさ!」


 凄まじい、というのが最初の感想だった。

 俺は【魔帝】サタンの手腕に舌を巻きながら答える。


「…賢い運営だな。先行投資にかなりのEPを消費するけど、長期的に見れば大きくプラスになる」

「そうそう! さすがプルソンは良く分かってるね。ダンジョンを誰よりも効率的に使っているのは、間違いなく【魔帝】サタンだって言い切れる。でもね、他の帝王もダンジョンを違う形で活用してるんだよ」

「違う形?」

「うん。もともとはこれが主流だったんだけどね。ダンジョンから湧き出る魔物を討伐することで、自分の配下にEPを獲得させる。これが帝王の定石なの」


 なるほど、集客に活用している【魔帝】が珍しいタイプだったのか。


「…その口ぶりだと、ダンジョンが【アルブヘイム】にもあるみたいだな」


 帝王の定石ということは、ノルンもそうしている可能性が高い。

 俺の言葉に、ノルンは笑顔でうなずく。


「うん。何個かあるよ。今日はその内の一つに行こうと思う」


 その言葉で、ようやく俺は今日の目的が分かった。


「なるほどな。EPの稼ぎ方を説明するっていうのは、そういうことだったのか」


 ダンジョンでのEP稼ぎ、それが今日の本題だったのだ。

 ノルンは頷きつつ、俺をジト目で見やった。


「そういうこと。ダンジョンは十時くらいからけっこう込み始めるから、朝の内に行っておきたかったんだけど…」

「…悪かった。今度埋め合わせするよ」

「あはは。それはそれで楽しそうだねー」


 隣で楽しそうに笑ったノルンを見ていると、こちらも幸せな気持ちになれる。

 だが俺の服の袖を、反対側で引っ張る存在がいた。


「ご主人、あんまり他の帝王と親しくしないで欲しいっす」


 ぷいっと顔を背けて、アルスがそう言う。

 その拗ねた様な態度に、ノルンが嬉しそうに俺の腕に抱き着いた。


「もしかしてプルソンを取られるとか思ってるのかな?」

「…切りますよ、ノルン様」


 アルスがノルンを射殺さんばに睨みつける。

 だが、さすがは先輩帝王のノルン。そん視線を軽く受け流して、余裕の笑みで続けた。


「やってみたらいいよ。そしたらローゼが対応するけどね」

「…ぐぬぬ……」


 今のアルスがローゼに勝てる見込みはほとんどない。

 昨日の敗戦が記憶に新しいのか、アルスは泣きそうな顔でノルンを睨みつけた。

 

 さすがに、そろそろアルスがかわいそうだ。

 俺は苦笑して声をかける。


「ノルン。アルスをからかうのはその辺にしてくれ」


 俺の言葉に、アルスは驚いた様に目を見開く。

 ノルンは、相変わらずにやにやした笑みを浮かべながらも、俺の腕から離れた。


「はーい、りょうかい」


 そして軽い口調で笑う。

 本当に分かってくれたのか、俺は少し不安になった。

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