第90話 地に舞い降りる赤き彗星の竜
多肉食物の採取とマルンモーの獣肉を調達する。
これが三つの依頼のうち俺たちがこなす二つの依頼だ。
港町を出て少し進んだ先にある場所へとゼフィスさんに案内され、俺たちはそこで依頼に取り掛かり始めていた。
そして……「ファウとラディ。お前らは多肉食物の採取をしてこい。俺はあいつと……」
「オラァー! くそ雑魚が。はっはっは! もう三匹だ。こりゃ俺の圧勝だろ」
「バカ言え! こっちはもう三匹仕留め終わってんだよのろまが。ハンデに決まってるだろこのノロマが!」
「んだとてめえ! 八つ裂きにしてやらぁ!」
「おーおー息まいてる間に……はっ! 四匹目だ。これは俺の勝ちだろうな」
この二人、狩場まで着いた途端直ぐに暴れ出してマルンモーと思われる獣をめった斬りにし始めた。
俺とラディはそれを見て茫然とするだけ。
そうしている俺にマルンモーを斬りながらも指示を出す余裕を見せるゼフィスさん。
どっちも滅茶苦茶だ。
なんなら空に飛ぶほどマルンモーが斬り上げられている。
とても人間技とは思えない。
「なぁ。俺、大人になったらああなれんのか?」
「……無理じゃない? あれ、どう見ても人間技じゃないよ」
「でもさ。どっちもラギ・アルデ以外の何かがあるんじゃねーのか? ファウだって……悪い」
「ううん。僕もあのとき何が起こったか分からないんだ。後でゼフィスさんに聞いてみようか?」
「ああ。ドラグじゃ絶対教えてくれねーだろうし」
「うん。ネビウス先生も戦闘向きってタイプじゃないだろうからね」
飛び跳ねるマルンモーの近くで、俺とラディはミレンから教えてもらった果物を探した。
この辺りには見たことも無いような果実が低木や木に多く生えていた。
ピッチオの果実はまるっとしていると言っていたので、それを目印に探すと……ラディが両手に抱えてにっこりしながら直ぐ見つけてきてしまった。
依頼主の要望であるマルコフの実というのは高い木になる実だったので、こちらもラディが上手く木に登り、あっさりと依頼達成の量が揃ってしまう。
キュルルもこの果物食べるかな? 少し多めにもぎ取って帰ろう。
――採取を始めて数刻、一体何匹のマルンモーを倒したのか分からないが、採取を終える頃には積みきれるのかという程のマルンモーが倒れていた。
「クックック。俺の勝ちだな。こいつより良い武器を約束通りもらうぜ」
「何言ってやがんだ。俺の方が早かっただろうが!」
「この人たち、まるで子供だね……」
「おお……俺たちのほーが大人だよな」
『何だと!?』
「いえ、何でもありません。二人ともお疲れ様でした。さすがですね。凄すぎて僕らじゃとてもとても」
「ああ。これだけ肉ありゃ相当喜ばれるんじゃねーのか?」
「おいおい。お前たちにやるのは二頭だけだ。これだけでも多い位だろう」
「え? そーなの?」
「残りは皮細工として使う分と、肉は酒場に下ろす。いいな? そん代わり」
「飯と酒だ。分かってるんだろうな。無料で食わせろ」
「ああ。他にも呼ぶ奴がいりゃ呼んでも構わねえ。商人はときに大盤振る舞いってな」
「それじゃネビウス先生と、ミレンとミルルさんも呼ぶ?」
「そーだな。こっちの果物はミレンのお陰で手に入ったし」
ちなみに荷車もゼフィスさんから貸してもらったものだ。
大きい荷車なので大量に持ち帰ることが出来る。
ゼフィスさんにこんなにも頼ってしまっていいのか……ちょっと気が引けてしまう。
エストマージにいる間に、マトフさんに教わったことがある。
商人一人とでも仲良くさえ出来れば、その町での居心地は大きく変わる、と。
仕入れにしても卸にしても商人との結びつきは必要。
そして世界中どこでもお金と商人は必要ということだ。
更に言えば、お金とは現金より、希少的価値のあるものが尚良い……とも付け加えられた。
お金を大して持ち合わせていない分、持っている情報は大事にしないといけない。
まさにマトフさんの言っていた通り、希少的価値のある情報が商人に認められたということなのだから。
そんなことを考えて荷車へ詰め込み、それをラディと引こうとしていたときだった。
ズシンズシンと大きな地響きが聞こえ出す。
「ん? 地震か?」
「……いいや。あれはアマルンモーだな。少し派手に暴れ過ぎたみたいだぜ」
荷車からは離れた位置だが、先ほど宙を舞っていたマルンモーの数倍巨大な獣が
こちらへゆっくりと近づいて来ていたのだ。
「あれだけでかいのを仕留めりゃ上等な酒が飲めそうだ」
「そのなまくらじゃ無理だろうな」
「んだと? てめえの渡した剣だろうが!」
「ははっ、居眠りしながら打ったようなくそ剣がてめえにゃお似合いだと思ったんだが、多少は力を入れて打った剣を使えるくれえの腕はありそうじゃねえか。あいつは積みきれねえから無視しろ。余計な殺生はするもんじゃねえ」
アマルンモー……近づくにつれてその巨体が露になる。
なんと、あの地竜の二倍は有ろうほどの巨大な四足獣。
鼻の無い象のようなその巨大な足は、荷車など一踏みで粉々になりそうだ。
それがこちらへ近づいて来ている。
だが、【俺の目はその巨体を見ていなかった】
「ガキ共。おめえらはさっさと荷車引いて道から外れろ! 俺が引きつけておくからよ」
「分かった。ファウ、行く……ファウ?」
「ああ、あれ、あれ見て」
「あれ? あれって巨大なアマルンモーって奴だ……ろ……」
ファウの目線は全然違う方を向いていた。
ファウが見ていたのは空。
震える指で空を示すファウ。
その空は燃えような赤色を模り、流れ落ちる星のようにその巨大なアバルンモーを狙っていた。
『赤竜だと!?』
ドラグとゼフィスさん双方が同時に声を発っすると、赤竜の灼熱の炎がアマルンモーに降り注ぐ。
背中を焼かれたアマルンモーは横倒しにドサリと倒れる。
ラディは急いで荷車を端に寄せ、ドラグとゼフィスも猛熱を避けるように岩場の裏へ避難した。
だが、ファウは……ぴくりとも動けなかった。
前世で最も憧れた赤色の成竜を間近でみた。
その恐ろしい角は鋭く輝き、大きな眼は獲物を睨みつけ、両爪はあらゆる生物を切り裂く程研ぎ澄まされている。
吐き出す炎はあらゆるものを焼き尽くし……その翼が発する暴風は周囲に土ぼこりを巻き上げた。
「ふぁ、ファウ……こっちに、こっちに隠れねーと……」
「動くんじゃねえ! 今動けば獲物だと認識される」
「刺激するな。まさかこんな場所に火竜グラノドスとは運が悪い。幸運の鳥が聞いて呆れるぜ。そいつはあまりに危険な竜だ。絶対に威嚇行為を取るなよ」
「……何で。この竜、僕には悲しんでいるようにみえる」
「何言ってるんだ、お前……」
「泣いている。そんな風に感じられるんです」
「何言ってんだファウ……どう見てもおっか……」
その赤竜はしばらくファウを眺め、匂いを嗅いでいたが、アマルンモーを鷲掴みにすると、あの巨大な生物をつかんだまま空を飛ぶ。
そして……その場から勢いよく飛び去っていった。
「た、助かった……のか」
「お前、まさか竜の声を聞いたのか?」
「ちっ。獲物を横取りしやがって。竜肉ってのも悪くなかったんだがな」
「バカ言ってるんじゃねえ! 火竜グラノドスと遭遇して生きてるだけでも幸運だ。少し待て。拾っていくものが増えた」
「えっ? 何をですか?」
「火竜の火種だ。あの赤竜の吐く炎には微量の種が含まれてるんだよ」
「けっ。ここでも商売かよ」
「悪いか。今お前が使ってる武具も金が無きゃ手に入らねえものだ。それにグラノドスは何度も火を吐く竜じゃねえ。得られる可能性はわずかで希少なんだ。アマルンモーよりずっとな」
「ファウ……さっき言ってたあの竜が悲しんでるってどーいう意味だ?」
「分からない。でも、凄く悲しくなってきて。大切な何かを失った……そんな気持ちになったんだ」
「おいクソガキ共。さっさと戻るぞ。それとこのなまくらは返す」
「てめっ、今返すんじゃねえ!」
「知るかよ。先に行くぜ」
そう言ってドラグはさっさと一人で帰ってしまった。
荷台にどうにか剣を差せたけど、これは怒っても仕方が無いというか、ゼフィスさんの怒り用は半端じゃなかった。
「だからドラグはちょっと……ね」
「ああ。俺たち一応言ったよな」
「くっそあの野郎……なまくらなまくらと人の剣を……」
「それってゼフィスさんが言ってたような?」
「ああでも言わねえとあいつがアマルンモーへ斬りかかるに決まってるからだ!」
「あはは……とにかく無事で良かったです」
「ファウにラディ。あのくそ野郎は気に入らねえが、お前らは気に入ったぜ。鈴の音の洞窟にはついて行ってやれんが……困ったことがあれば引き続き協力してやる」
「有難うございます、ゼフィスさん」
「ああ。俺たち町に着いたばっかで色々困ること多かったけど、どーにかなりそうだな」
「うん。ラディのご両親も早く見つかるといいね」
「……そーだな。でも俺、ファウの前ではそーいった話、しねーことに決めたんだ」
「どうして?」
「だってファウはよ。家に帰りたくても帰れねーし。両親もどうなってるか分からねーんだろ」
「それはそうだけど……でも」
「いいんだよ。さ、帰ろうぜ」
「戻ったら約束通り飯を振舞ってやる。今晩はご馳走だぜ!」
第三章初の竜はグラノドスという赤竜。
まだ遭遇しただけで謎が多いです。
そしてファウが感じ取った悲しみの感情とは一体何なのか。
これから先も三章では竜が多く登場していく予定です。
お楽しみに!




