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異世界転生 竜と共にあらんことを  作者: 紫電のチュウニー
第三章 ウラドマージ大陸、序幕

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第84話 水浴びと食事

 マージを出た俺たちは、真っすぐに宿屋へと向かった。

 宿屋の名前は【郎極(サータ・トゥーヤ)の宿】という看板が目印の、さほど大きくは無い宿屋だ。

 この大陸でも言葉は標準語で通じるのだが、この地方独特の言い回しなのだろうか。

 宿屋の中は外より少し涼しく感じるが、それでもこの地方は暑い。

 女将さんに水浴びを願い出ると、料金が掛かるとのことで、少し広めで濡れてもよい一角を借りることにした。


「お水はいいのかい?」

「はい。自前……持って来ているので」

「自前? それならお金はいいよ。塀のある場所を使っとくれ。誰も来やしない場所だからね」

「有難うございます。行こう、ラディ」

「キュルルも連れてくんだろ? ネビウス先生のところにいるよな?」

「うん。部屋に行ってからにしよう」


 そして部屋に戻ると……そこはギンギンに冷えた氷塊の部屋へと変わっていた。

 そうだよね。氷術を使えば涼しいに決まってる。

 キュルルも既に目がとろんとしており、夢見心地のようだ。


「おや、戻ったかね。依頼はどうだったかね?」

「はい。ミルルさんがいたので依頼を検討してもらいました」

「ふむ。ドラグを見なかったかね?」

「……俺たちに酒代を押し付けてどっか行っちまったよ」

「そうか。あれはその後だったのだな。彼にいくらかのお金を貸し与えた」

「ええ? ドラグにですか?」

「うむ。この先の旅で武器無しには護衛も務まらんだろうからな」

「護衛……あのドラグがねえ。金返す当てあるのか?」

「スミグニのものは借りた恩を仇で返すような種族ではないと聞いているがね。彼は特に見下されたり他人の恩恵を受けたりするのを極めて嫌うと思われる」

「じゃあ僕が肩代わりした酒代も返してくれます?」

「ファウ……俺たち金貸すなんて言ってないぜ……」

「あっ……そんなあ」

「恐らくその時持ち合わせが足りなかったのだろう。いくらだったかね?」

「いえ、僕たちも飲み物を飲んじゃったので、いくらだったのかはよく分かりません。それにお金は溜めておいたものが、ネビウス先生が持って来てくれた荷物に入っていたのでまだあります」

「ここウラドマージ大陸の物価はエストマージより高い。そのためお金を稼ぐ必要はあるのだよ。良い仕事があればいいのだが」

「そうですね。まずは僕たち水浴びして来ます」

「キュー! キュキュ!」

「そうそう、おめーを迎えに来たんだぜキュルル。さぁ行こう」


 俺たちはキュルルを連れて女将さんに言われた塀のある場所で水浴びを開始する。

 容器に水術で水を張り、掛け流すと一気に爽快感が生まれる。

 はぁ……お風呂に浸かりたいけど、こう暑いと水浴びも悪くないなぁ。


「いいなぁ、俺も水術が使いたかったぜ」

「僕は強い風術を使いたかったよ。高いところから飛び降りたり、早く移動したり出来るようになるんでしょ?」

「ああ。まだ上手く使いこなせねーけど。無いものねだりって言うんだっけ、こういうの」

「うん。隣の芝生は青い……なんて言ったりもするんだよ」

「へぇ……。なぁファウ。お前さ。ずっと西の大陸を目指すんだろ?」

「うん。僕は故郷、オードレートに帰りたいんだ」

「だったらさ……俺もお前についていくよ」

「えっ? でも……ご両親が見つかったら止められるんじゃない?」

「俺はもう冒険者なんだぜ? マール姉ちゃんだって若い頃に世界を見て回ったんだろ? だったらさ。俺も今のうちに世界を見て回りてーんだ」

「そっか。ご両親の許しが出るならそれもいいかもね。でも、僕の出身はとても暮らしていくには大変な環境だよ」

「エストマージは過ごしやすい場所だったもんな。ここは勘弁だ……暑すぎる」

「ふふっ。でも暖かい場所って人気なんだけどね。ちょっと暑すぎるのかな」

「暑いなんてもんじゃねーよ。変な規則もあるしな。ここには慣れそうにないぜ」

「キュー……キューー?」

「キュルルもそう思うかい?」


 桶に水を張ってその中に浸かり、気持ちよさそうにしているキュルル。

 水浴びを終えてさっぱりし、部屋に戻った俺たちを、これまた部屋で涼んでいたミレンが出迎えてくれる。


「わわわ、お帰りなさいれす! わぁ……可愛い」

「キュー?」

「キュルル、ほらちゃんと挨拶してあげて」


 ここしばらくはキュルルに人への挨拶を教えている。

 キュルルの可愛さを最大限に活かした挨拶! それは……「し、尻尾を振ってる」

「上手いぞキュルル」

「可愛いー! ほ、欲しいれす」

「上げません……この子は誰にも上げません!」

「うう……はっ!? お客様、お食事の料理が出来たてれす!」

「それは、お食事の用意が出来たってことかな?」

「ぷっ……ミレンって面白れーな」

 

 頬に手を当てて顔を真っ赤にするミレン。

 この子は将来、若干ミルルさんぽくなりそうな気もする。


「その花っていうお部屋でご用意してるれす!」

「有難う。先生、行きましょう」

「私は少々調べものがあるのでね。君たちだけで行ってきたまえよ」

「いいのですか?」

「うむ……子供はしっかり食べるように」

「先生、食わねーとひょろひょろになっちまうぜ?」

「ならば軽くつまめそうなものを持って来て欲しいのだよ」

「ああ、分かった。いこーぜファウ」

「うん。それじゃ先生、行ってきます」


 ネビウス先生は熱心に調べものをしているようだ。

 いつか体を壊してしまうんじゃないかと心配だが、先生は昔から研究などの邪魔をされるのが好きじゃない。

 集中してやっているときは特にそうだ。

 こういうときは邪魔せず言うことに従うようにしている。


【食事処、その花】


 宿屋の一角にある食事処で、テーブルと椅子が並んでいる。

 案内されて着席すると、ミレンが次々と食事を運んでくれた。

 どれも変わった料理で美味しそうな匂いがする。

 特に多いのが穀物だが、これは何を練り込んだものなんだろう? 


「うひょーー、美味そう! すげー腹減ってたんだよ」

「僕もお腹空いてたんだ。食べてもいい?」

「はいなのれす。飲み物は別の料金なんれすが、お水なら安いれす」

「……ちなみにいくらくらいか聞いてもいい?」

「ええっと、お水が銅貨一枚で、マルコフの実の飲み物が銅貨四枚れす」

「マルコフの実の飲み物って?」

「ええっと、あちらのお客様が飲んでるものれす」


 他のお客さんが飲んでいるものを指し示すミレン。

 あれ、さっき酒場で飲んでたやつ? ってことは二人で銅貨八枚分しか飲んでない!? 

 酒場だともう少し高いのかな。

 

「この国……お酒が本当に高いみたいだね」

「案外酒で吊ればドラグも一緒に来るんじゃねーか?」

「あっ。そうか、それはいい案かも」

「? お酒がいいれすか?」

「ううん、違うよ。えーと銅貨八枚……これでマルコフの飲み物を」

「あい。マルコフミールお二つれすね。直ぐ持ってきます!」

「ファウ、ここは俺が払うよ。さっきも出してくれたろ」

「有難う。それじゃお言葉に甘えて」


 ラディと食事を満喫する。

 異世界の料理はどれも美味しいものだが、ここの食事は格別だった。

 特に穀物を練ったようなものが絶品で、パンのようなナンのような味がたまらなかったので、これをネビウス先生用に持たせてもらった。

 食事もあまらせないように全部食べ終えると、部屋に戻りネビウス先生に食事を渡す。


「どうだったかね」

「とても美味しかったです。ここの宿代は?」

「そちらは気にしなくてよい。明日から出掛けることになるのだろう? 今夜は早く休むといいのだよ」

「分かりました。有難うございます、ネビウス先生」

「うむ。それでは、お休み」


 明日はマージに向かい、ここでの初依頼を受ける。それと……まだ大切なことがあるんだ。

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