第78話 地竜戦序幕
「ファウ。お母さんのせいで、こんな寒い土地で過ごさなければならないの、凄く申し訳ないと思ってるのよ」
「どうしてお母さんのせいなの? 僕は辛くないよ。寒くて大変だけど、この家は好きだよ」
「だってほら。この手。醜いでしょう? 爪も鋭くて……」
「え? 爪? 何言ってるの、母さん」
「ほら。あなたを一口で食べられそうなこの口も」
「口? 一体何を……」
「さぁ、そのお肉を美味しく、頂きましょうね」
「う、ウワアアーーーーーー!」
……あれ? 夢? 一体何が……どうなったの? 確か氷に貫かれて……傷が、ない?
体の痛みもない。ここは……どこだろう。
ゆっくり目を開くと、水も氷も……あの紫色の箱もない。
全部夢だった? でも、服はまだかすかに濡れている。
さっきの母さんは夢だろうけど、ここで起こったことは、夢じゃない?
何故生きてるんだろう……確かに氷で貫かれたはず。
でも……ラギ・アルデの力って万物に宿るんだっけ。
あれがラギ・アルデの力だったら、体に吸収した?
痛みはあったような気もするし……治癒された?
一体誰に……ってあれ。この部屋ってこんなに小さかったっけ。
ただのくぼみ程度しかない。石像も見当たらない!?
道の行き止まりにしか見えず、道といえるのは一つしか見当たらない。
どの位時間が……ラギ刻限式時計を確認すると、三時間は経過している!
急いで戻らないと!
――しかし戻ってはみたものの、ラディたちは見当たらない。
心配して先に進んだに違いない!
一人で奥へ奥へと進むと、倒したと思われる怪物の跡があった。
更に先へ進むと激しい金属音が聞こえ始める。
戦ってる。間違いない、ドラグの武器の音だ。
――更に進むと開かれた扉があり、その先はまるで体育館ほどの大きな部屋だった。
そこには……見上げるほどの巨体を持つ土褐色の恐ろしい生物がいた。
「視界を封じられるのはもうこりごりなのだよ! 単純な攻撃ではびくともせん」
「ちっ。もう刃が欠けてやがる。硬すぎるだろうが!」
「おらこっちだぞ! こっちに来いバカ竜!」
「グルルルルルルル……ガァーーーー!」
暴れる竜……あれがグランツィヒト。
ワニに近い形態だが、大きさがその比じゃない。
口顎は鋭く、黄色い眼が怪しく光る。
鱗は土色で四足歩行。
尻尾をバンバンと地面に叩きつけ、威嚇し続けているようだ。
そして極めつけは……その鱗に土を尖らせた鋭い塊がある。
既に戦闘状態に入っており、周囲には氷の塊が幾重にも施されている。
これはネビウス先生の手によるものだと直ぐ判断出来る。
そして、キュルルも戦っている。分厚い氷の息を吐き、ドラグとラディへの攻撃を、視界を逸らすようにしてふさいでいた。
ラディは二本の短いボロボロのナイフで巧みに攻撃しているが、全く歯が立っていない。
ドラグの剣もボロボロだ。致命傷を与えられるはずもない。
「みんな、ご免ね! おかしなことに巻き込まれたみたいで!」
「ファウ? やっぱ俺の言った通りじゃねーか! ファウはまだこっちに来てないって!」
「クソガキが! どこほっつき歩いていやがった! さっさと加勢しやがれ!」
「キュールルーー!」
「無事で何よりなのだよ。いや、こちらが無事では無い。思った以上に手強いのだよ」
「ガルンフロガト!」
ドラグへ鱗の土塊を飛ばそうとしていたので、直ぐに正面へ氷の柱を立て攻撃を防ぐ。
間髪入れずドラグが走り寄り、前足に剣を突き立てた。
だがその剣が足に突き刺さったままボキリと折れてしまう。
「ギュルアアアアアアアアア!」
叫び声を上げながら尻尾で薙ぎ払い、吹き飛ばされるドラグ。
「ガハッ……ってぇーな! 死ね!」
吹き飛ばされながらも腰に忍ばせた短剣を頭部に投げつける。
しかしそれらは刺さらずに地面へと落下した。
「こんなの、どうすればいいの?」
「ファウ。火を放つのだよ! 地竜は水と土を好むが火は苦手なのだよ!」
「分かりました! ガルンヘルドア!」
ドラグの剣が突き刺さったせいか、動きが鈍っているグランツィヒトの顔面に炎の玉が炸裂した。
顔を上に跳ね上げもがいている。確かにこれは効果が高い!
「おい、てめえのナイフを寄越せ!」
「そっちに投げるよ。えいっ!」
俺が持っているナイフをドラグに放り投げる。
まだ戦うつもりだ……かなりダメージを負っているのに。
炎の塊をぶつけたお陰でグランツィヒトは後退し、俺たちも再度集結する。
……仕切り直しだ。ここを突破出来なければ俺たちに明日はないのだから。




