第77話 増していく水位の中で
入り口を封鎖され、狭い部屋にただ一人取り残されてしまった。
部屋にあるのは見るからに怪しい箱一つと天井の石像のみ。
周囲の壁にある紋様を調べてはみるものの、何が描かれているのかさっぱり分からない。
見たことも無い文字にも見えるような、紋様にもみえるような……。
端から端までくまなく調べてみるが、分かることは何もなかった。
勢いをつけて体当たりをしてみるが……ダメだ、びくともしない。助けを呼ばないと!
「ネビウス先生! ラディ! ドラグ! キュルル! 聴こえたら返事して!」
大声で叫ぶが、部屋中に声が反響するだけで届いているようには思えない。
不安で手のひらに汗がにじむ。落ち着かないと……時間が経てば皆来てくれるかもしれない。
でも……それは自分のせいで時間を無駄に浪費させてしまうことになる。
そのせいで捕まったらどうなる? 最悪、皆殺されてしまうかもしれない。
何か脱出する方法が……そう考えていると、上空よりぽたりと水が垂れて来た。
「雨? あれは……竜の、口?」
その石像は良く見ると……竜と思われるような形をしていた。
その口部分からぽたりぽたりとゆっくり水が流れている。
その水は徐々に勢いが増して、気付くと水道の蛇口をひねったかのように水が噴き出してきた。
このままじゃ溺れてしまう!
怪しいけどあの紫色の箱に頼るしかない!
急いで駆け寄り調ベてみるが、中には何も入っていなかった。
万事休す。既に足下は水浸し。徐々に水位が上昇していく。
まさか……溺死で終わるの? 嫌だ。こんなところで死にたくない。
だが、もがいても水位は増していくばかりだ。
こんなところで死んだら、キュルルはどうなる? ラディやネビウス先生は?
家族にも会えないまま、また死ぬなんて……そんなの絶対に嫌だ。
だが――水位は上がり続け、上部に吊るされた石像付近まで上昇してしまった。
この像、とても古いもののようだ。
この像から出てるなら、調べればどうにか出来ないかな。
水位を減らすような術があれば……そう考えて石像に触れてみた。
淡い期待を持って。ゆっくりと体を触っていき、額辺りに手を触れてみた。
すると……「ナセヲゥ、メサァハモイロワミテヰナユノゥ、レヘユヰヌセリィセモクハヲゥツフキ。メサァハヌセモツラワミテヰナユノゥ、ヨヰイヘヲモクハヲゥツフキ。タタァヲトメサァハヰフタケノナセヲゥモケテミレヘユネナユセ」
『汝、竜を愛する者ならば、力の根源をを封じてみよ。竜魂を手にする者ならば、その証を封じてみよ。正しき竜の御魂は汝を守る力とならん』
「今のは何? まさか、オードレート語? かなり聴き取り辛かったけど、古いオードレート語? ……ぷはっ」
そう考えている間にも水位が……だめだ、このままじゃ本当に溺れ死んじゃう。どうにかしないと!
竜の力の根源? 竜魂? この石像についてる竜の何かをどこかに入れろってこと?
でも、もう沈んじゃってて何を……竜の魂って何だろう。心臓のこと? 分からない。
正しき竜の御魂って何? 証を封じて……あの箱に何か入れればきっと作動するんだ。
試してみるしか……でももう、石像を調べてる時間が……そうだ!
水の底まで潜り箱をもう一度開けてみる。
そして、自分の所持する物の中で一番、これだと思うものを入れて蓋をしてみた。
「ナセヲ、■■■・サーナネネテラ……」
「痛っ、ウワアーーーーーーー!」
箱に入れて蓋をした瞬間だった。
蓋をした自分の手を大きな氷が貫いていた。
いや、手だけじゃない。部屋中全てが巨大な氷のツララとなり、自分の全身を貫いていた。
一瞬の出来事だった。
結局、どうやっても……助からなかったんだ。
キュルル、エーテ、トーナ……母さん。




