第76話 港町オンザール地下へ
ラーギル先生に異匠の船を取りに向かうよう頼まれて、オンザールの港町、地下へと向かうことになった。
一緒に向かうのは俺、ラディ、ドラグ、ネビウス先生とキュルルだ。
港に足を踏み入れると、人気も船もまるで無い。
ネビウス先生の後に従い進んでいくと地下水路へと通じているという場所に着いた。
見え辛い重厚な金属の扉で、施錠されている。
ネビウス先生がそちらへ鍵を差し込み、ドラグとネビウス先生がゆっくりと押し開けた。
「ここに奴らが来るのも時間の問題だろう。この状況じゃ、ここへは正規の竜兵は来ないだろうがな」
「既に東の国へ救援要請を向かわせているが……援軍は見込めぬであろう」
「なんでだ? 助け合ってるんじゃねーのか?」
「てめえの国の守備を固めるので手一杯だろうよ。東の巨大国は保守的と聞く。だが、奴らはエストマージのように平和ボケはしてねえだろう。状況によっては大陸間戦争だろうな」
「今ここで考えても仕方ないよ。僕たちに出来ることをやろう」
俺たちは扉の中に入ると、直ぐに扉を閉める。
中は暗くて何も見えない。
カンテラに火を灯し、下へ降りる階段をゆっくりと進んでいく。
「暗くて良く見えねー。目が全然慣れないや」
「先を急ごう。足下に気を付けるのだよ」
「おいガキ。こっちにも火を灯せ」
「分かったよ……ガルンヘルア」
「上にでっけー生き物が止まってる!」
「何あれ。蝙蝠? 凄い数だ!」
「ファウ。落ち着いて上空に火のラギ・アルデを打つのだよ」
「ガルンヘルア!」
階段を下りる途中から、直ぐにこちらを狙おうとする大量の蝙蝠のような生物がいた。
一斉に襲い掛かろうとしていたが、火の玉をぶつけると散り散りに逃げ去っていく。
こいつらは火に弱いのかな。
そのまま階段を下ると、入り組んだ地下水路のような場所へ出る。
下水というわけではなく、何処からか水が流れている場所だ。
しかも造られた場所であるのがよく分かるように、壁面には文字が刻まれていたり、絵が描かれていたりする。
「ラーギル先生、大丈夫かな」
「彼ならきっと平気なのだよ。ここは道が入り組んでいるし、怪物のような生物が多く存在する。気を引き締めて進むのだよ」
それから地下水路を通って進むことしばらく。
暗さは少し緩和されたが、ネビウス先生が話していた通り本当に恐ろしい生物が沢山いた。
肌は浅黒い青で鱗がびっしり。カメレオンのような目が真っ赤な生物。
奇声を発して襲って来る、怪物のような存在が襲ってきたり、どうみても鼠だが、巨体過ぎて一メートルを越えるほど大きいソレが襲ってきたりと酷い場所だった。
それらをドラグ、ラディを前衛に、俺とネビウス先生、キュルルが中衛で補助しながら戦っている。
その間ドラグの動きをよく観察したが、やはり並大抵の剣士じゃないと感じた。
港町で手に入れたと思われる大振りの剣だが片手で扱える程度の剣を所持して、襲って来るそれらを切り払う姿は、性格さえ悪くなければ本で読むような戦士そのもの。
ラディは素早い動きで短剣を振りかざすが、ことあるごとにドラグが相手を引きつけて戦闘を優位に運んでいる。
……もし真剣で決闘していたら、直ぐに真っ二つだったかもしれない。
しかしこの地下水路、襲って来る敵が多い!
「くそが。いってぇ何匹襲ってきやがるんだよ」
「……やっぱドラグは強ええ。俺だけじゃ直ぐにやられてたかもしんねー」
「二人とも気を付けて。まだ来る!」
「グシャアアーーー!」
「ガルンフロト。冷静に戦うのだよ。まだ地竜の住まう場所まで距離がある」
かなり消耗しつつ襲って来るそれらを退け、俺たちはようやく広い場所に出た。
既に前衛のラディはバテバテで、休憩せざるを得ない。
「はぁ……はぁ……もうダメだ」
「ちっ。クソガキが。てめえがもう少し立ち回れてりゃよ」
「なんだよ! 仕方ないだろ。俺だってドラグ位強けりゃ……」
「二人とも止めなよ。今は休んで回復して」
「ファウ。君はまだ余力がありそうだね。かなりラギ・アルデを行使していたのに」
「昔から使い続けてましたから。キュルルも助けてくれてますし」
「キュー?」
「おいクソガキ。それならてめえが偵察してこい」
「ファウ一人では危険なのだよ。休んでから全員で進めばよかろう?」
「時間がねえだろうが。いつ奴らがここに乗り込んでくるかも分からねぇってのに」
「ここは気付かれるような場所ではあるまい」
「どうかな。案外直ぐ見つかるかもしれねえぜ?」
確かにこの場所でそいつらが攻めて来たら逃げ道はない。
ましてや地竜との挟み撃ちなんて起こったら、悲劇もいいところだ。
「……分かった。見て来るから待ってて」
「ファウ。それなら俺も!」
「ダメだよラディ。ちゃんと休んでて。ご免ね、僕が前衛で戦えてたらもっと楽だったのに」
「それぞれ役割があるのだよ。くれぐれも気を付けて。竜は見ておくのだよ」
「お願いしますネビウス先生。何かあったら直ぐ戻りますから」
俺が先に進もうとすると、着いてこようとするキュルル。
大丈夫、直ぐ戻るから少し待っててと、キュルルを撫でて伝える。
――休憩していた広い場所から少し先に進むと、あることに気付く。
この場所から先の道は全部金属で出来ているようだ。
どうやって造ったのか凄く気になるけど、かなり昔に作られたものなのかな。
更に進んでいくと、二手に分かれた道があり……暗い道をカンテラ片手にゆっくり進むと、人一人しか入れない狭い道に繋がっていた。
ネビウス先生に言われた道は……あれ、こっちじゃなかった? いや、分かれ道なんて話は聞いてない。
でも、何だろう? 奥に何かあるような。
特に怪物みたいな生物は見当たらないし、少しだけ進んでみよう。
――その細い道を先に進むと、畳四枚程の小部屋に出た。
その奥に紫色の四角いものがあり、それにはびっしりと紋様が刻まれている。
何だろう、これ? 他に部屋には……いや、この部屋は明らかにおかしい。
壁一面、何かの紋様が刻まれている。
そして上は筒抜け? いや何かある……「うわっ!? ……あれ、石像かな」
思わず声を出して驚いてしまったが、上空には何かに縛られたような形の石像があった。
何だろう? この部屋は。一度引き返した方が……と後ろを振り返ると……道が無い!?
何で? 後ろの細い通路が、紋様の壁になってる。
まさか、これ罠の部屋!?




