第71話 ギスギスする三人
現在地を特定することは難しいが、ラディ、そしてドラグに地図を見せる。
といってもクルンと違い、俺は地図職人じゃない。
町のおおよその位置と名前が記されているだけだ。
「エストマージから東へ来たのなら、真っすぐ進めばイクシオンっていう町があるはずだよ。そこへ向かうのはどう?」
「死にてえならそれがいいかもな」
「何だよ、死にたいわけねーだろ! 一番近くの町に逃げれば他の奴と合流出来るかもしれねーじゃんか」
「ガキの考えそうなことだ。いいかクソガキ。もし大国を落とす場合、本来どうするか分かるか」
「……偵察を送る」
「ちっ。てめえは本当にガキかよ。おめえらそもそもいくつだ」
「そんなことも知らずにガキって呼んでたの? 僕は九歳、ラディは十歳だよ」
「やっぱりガキじゃねえか」
「うるせーな! それで何だよ一体。偵察?」
きっと両親が心配で仕方が無いのだろう。
とても短気になってるラディが少し心配だ。
「偵察っていうのは先に兵士を送って、見つからないように監視を……」
そういいかけて、恐ろしいことを想像してしまった。
まさか……灰様樹で襲われたのは偵察兵? 先に大陸を渡って潜んでいた?
アスランさんはそれを調べるため警戒していたとか。
確証はない。でも、あそこは食糧となり得る獣もいるし、水もある。
隠れるにはうってつけの森だ。
エストマージまで距離もあるし、ゴーガルギンの荒野は危険だ。
竜で攻めて来るものが隠れるとは思わないような場所だし……。
「おい、聞いてるのかてめえ」
「うん。要するに偵察を先に送り込んでいるから、付近の町は調べ上げられている。準備が整ったからエストマージを攻めただけで、既にどの町にも敵が潜んでいる可能性があるんでしょ……あいたっ」
グーでゲンコツされた。何て酷い人だ……。
「そこまでは話してねえがその通りだ。だから火を使うなってのもそれを考えてだ。どこに潜んでやがるか分からねえし、一番近い町はおおよそ支配されてると思った方がいい」
「それじゃもっと東に進んだ港は?」
「そこもダメだろうな」
「となると……ウェザールの南にある港町、オンザールしかないね」
「そこも安全だとは言い切れねえが、エストマージからは遠いだろう。その方角なら少しばかりあてもある。進むんならそっからだな。そこでようやく、お役ご免だぜ」
「どうして?」
「ああ? アスランのくそ野郎はおめえらを逃がせと言ったんだろうが」
「それって逃げきれてないよね」
「そーだぜ。ファウの言う通りだ」
「……ちっ。なんで俺がこのクソガキ共を逃がさなきゃならねえんだ」
俺はこうなってしまってから考えていた。
心配な人たちは沢山いる。ネビウス先生やティオンさん、クルンやマトフさん。
マシェリさんは大陸を渡っているから不在だけど、皆逃げられただろうか?
この世界、連絡を取る手段が今のところ無い。
それなら――「ドラグはもし大陸を渡ったらどうするつもりなの?」
「ああ? 決まってるだろうが。白装の奴らをぶっ殺しに行くんだよ」
「それは西の大陸、アゼルマージを目指すってことだよね」
「だからどうした」
「僕と、一緒に行かない?」
「ファウ、何言ってんだ? 俺たちエストマージに帰らねーと。避難するだけだろ?」
「ラディ、言い出せなくてごめんね。僕、故郷に……オードレートに戻りたいんだ」
「クソガキ、てめえはやっぱ西出身か」
「そうだよ。ドラグが白装って呼ぶのはそのせいなんでしょ?」
「ちげえよクソガキ。てめえは、初めて会ったときから竜の匂いがしやがった。それだけだ」
「匂い? 僕から? ちゃんと水浴びはしてるけど」
「俺は鼻が利くからな。スミグニの中でも特に」
「なぁ……ファウ。本当に、本当に戻っちまうのか? なぁ……俺は、俺はどうしたらいーんだ」
「けっ。十にもなってんなこともてめえで決められねえのか。オオグニのガキは甘っちょろいな」
「何だと! もう一度言ってみろ!」
「止めてよラディ。言い争ってる場合じゃないよ。僕たち、ここでじっとしてるわけにはいかない。そろそろ出発しよう。ラギは……どう? 走れそう?」
「無理だろ。ここまで強行させた。そいつはもう動けねえ」
そんな……ここまで走ってくれたのなら助けてやりたい。
運んでくれたラギに近づいてみる。
どうやら足を怪我しているようだ。
お腹も空いているのだろうけど、調教されているせいか逃げようとしない。
何か食べ物……少し周囲を探ってみると、ハギルリュウ草に似た草が生えていた。
これならどうだろう?
「ガルンリキド!」
「グルルル……グル……」
「大丈夫。お水だよ。お願い、この草食べておくれ……好きな食事じゃないかもしれないけど。きっと君でも食べれるはずだよ」
「おいてめえ! まさか……相反持ちだと?」
「お前との戦いで見せるはずだった切り札だよ。ファウ悪ぃ。俺にも少し水もらえるか。頭がおかしくなりそうだった。気持ちを切り替えてーんだ」
「うん。ドラグも飲んでよ。別に毒なんてないから」
「おいクソガ……ファウだったな。西大陸に向かう件、考えてやってもいい。だが勘違いするんじゃねえぞ。おめえが俺についてくるってだけだ」
「それでもいいよ。次に足の治療をやってみる。出来た試しはないけど」
草は少し食べてくれたし、水も飲んでくれた。
今度は足の怪我に集中する。
「ユントラーラルト」
淡い光がラギの足に向けて放たれる……だけど、直ぐに消えてしまう。
「すぅ……はぁ……エントラーラルト……エントラーラルト」
何度やっても直ぐに光りは消えてしまう。
額から汗がにじみ出て来る。
今この子を助けられるだけの力も無いなんて……せっかくここまで逃がしてくれたのに。
自分は、何て無力なんだろう。
「……どけ」
「えっ?」
「ユントラーラルト」
「ドラグ……」
ドラグはラギの足に手をかざすと、永続的に光りが輝き続ける。
怪我をしていた部分は徐々に良くなっていくのが分かる。
正確な治癒術だ。あんなに荒々しく戦う人なのに、繊細な治療術まで行えるなんて。
「ちっ。水と食糧があるならまだこいつは走れる。そう判断したんだよ」
「クルルル……」
「寄りつくんじゃねえ、くそが!」
「まだ、走れそうかい?」
「クルルル!」
「よし、南東を目指そう。進んでいけばきっと道も把握出来るはずだよ」
俺たち三人は再びラギに乗り進みだした。
目指すは南東の港町、オンザールだ。




