第70話 西の空は赤く燃え続け
「起きろ、クソガキ共!」
「うっ……げほ、げほっ」
「ぐぇっ、ぺっぺっ」
「キュー! キューーーーー!」
水か何かを頭から掛けられたようで、とても冷たい。
ゆっくりと目を開けたが、真っ暗だ。
ここはどこだろう。確かドラグと決闘してて……。
「そうだ! アスランさんは!?」
「痛てて。なんだよ、どこだここ」
「おいクソガキ共。これからしばらく三人で行動する。分かったか!」
「はぁ? 何言ってんだよ。もう真っ暗じゃねーか。家に帰らないと……」
「帰る家なんざねえ。俺たちはこれから東へ進み大陸を渡るんだよ」
「えっ?」
「はぁ? 何言ってんだ……ってドラグだよな、こいつ」
「うん……間違いなくドラグの声だよ。少し目が慣れてきたけど、良く見えないや」
「ここ、どこだ? 俺たちエストマージに戻ら……」
「うるせえ! あの状況じゃ戦えても三日と持たねえ。ここへ向かう途中城の上部が焼け落ちるのを見た。ここはエストマージからかなり東へ進んだ場所だ。安心は出来ねえし火は使えねえ。奴らは手あたり次第攻撃を仕掛けてくるだろうからな」
「奴らって何だよ。よく、分からねーよ。何が起きたんだ? 説明してくれよ! なぁ! 母ちゃんは? 父ちゃんは? なぁ、なぁ!」
「うるせえ!」
思い切り突き飛ばされるラディ。
ドラグの反応を見て、状況を少し理解してしまった。
そういえばアスランさんが白装がどうのと言っていた。
あれはまさか……竜を操って城を襲ったのか?
だとしたら、そんな奴らにもしキュルルが見つかったら……。
「どうしよう。逃げないと……」
「ちっ。クソガキ、てめえの言う通り今は引くしかねえ。アスランはその竜を含め逃がせと言った。そいつを見れば白装の奴らは確実に俺たちを殺し、その竜を奪うだろう。そいつがいなけりゃ逃げるだけなら容易だ。だが段違いでそいつを連れて逃げるのは困難だ」
「嫌だよ! 僕は絶対キュルルを離さない」
「うるせえってんだろうが、んなことは分かってるんだよクソガキが! 第一そいつを置いて行ったら、掟破りになるだろうが、くそが!」
「俺は戻る。母ちゃんと父ちゃんを助けないと!」
「ふざけろよ。戻ったら俺がお前を殺すぞ」
「何でだよ! 父ちゃんと母ちゃんが……」
「黙れクソガキが! 俺にすらろくに攻撃出来ねえガキ風情が戻ったところで瞬殺に決まってるだろうが! そっちはアスランが逃がすと言った。精々信じることだな、あの弱虫野郎を」
「アスランさんは弱虫なんかじゃない! 自分たちの部族を守りたいだけじゃないか!」
「黙れ! てめえに何が分かんだよ。再起して立ち向かうことは出来た。例え奴らを全滅させられなかったとしても、一矢報いて半数以上ぶち殺すことは出来たんだよ!」
「その結果、何が残るの? 全員死んで、その結果一体何が残るの? 何も残らないでしょ。ドラグだってラディだってここにいるのは、逃げ延びれたからじゃないか! 僕とこうして話せるのだって、逃がしてくれた二人の族長のお陰じゃないか!」
「てめえ……しったような口を利くんじゃねえ!」
「うぐっ……」
胸ぐらをつかんだドラグの形相は、憎しみの塊を見るような表情だった。
少し離れたところにぶん投げられ、背中を打った。
「げほっ、げほっ……痛っ……」
「あの日……奴らは生きたまま燃やしやがった。竜の炎で焼かれた者は、永劫地に帰れず彷徨うってスミグニでは言い伝えられてる。ちょうどてめえらと同じ位の年だ。俺は死ぬほど恨んだ。復讐出来ねえ自分に。小せぇ自分の手に。何も出来ねえ自分にな」
……突然何を言ってるんだ、ドラグは。
自分が小さい頃の話……?
「西の大陸へ向かうにはぐるっと回らねえと行けねえ。だが俺は奴らを根絶やしにするためずっと鍛え続けた。ようやく、ようやくだ……復讐する相手が攻めてきたってのによ……また邪魔されるんだぜ? たまったもんじゃねえ。もういっそ、掟破ってでも戻ってぶち殺すか。てめえらはここで野垂れ死んでも構わねえ。どうせ俺も……」
「ふざけるなよ、ドラグ。結局逃げるの? アスランから、役目から、自分から逃げるの?」
「……何だと」
「頼まれたことをまともに一つもこなせず逃げるの? それがスミグニ族の誇り? 笑わせるね」
「この、くそが……」
「ガルンヘルドア!」
「ちっ!」
アスランさんを思えば、到底許すことなんて出来なかった。
アスランさんはきっと……死ぬつもりだ。
ドラグが戻る頃にはもう、きっとアスランさんはいない。
そんな死地にこいつを戻すなんてあり得ない。
戻すくらいなら、大怪我させてでも引き留める。
「ファウ……俺も、逃げるよ」
「ラディ……」
「ちっ……このバカ野郎が。火を使うんじゃねえ! 仕方ねえ、移動するぞ」
「えっ?」
「奴らは目がいい。ここまではまだ来てねえと思うが、夜に起こる些細な炎を見逃すとは思えねえ。念のため場所を変えるぞ」
「……分かった」
後ろを振り返った瞬間だった。
ドラグは両手を組んで頭から俺に振り下ろした!
だが、それを察知していたラディが体当たりをしてそれを防ぐ。
「バレバレなんだよドラグ。大人しく着いて来いよ」
「ちっ。わーったよクソガキが」
出発してどのくらい時間が経過したのだろうか。
少し高い丘に出て夜道を進む。
すると――「ああ……そんな」
「西の空、真っ赤だ……」
「こいつぁ予想以上に早く落ちるな。このラギももうじきダメになる。餌がねえからな」
「竜用の餌ならあるけど、食べるかな」
「ドリュードか。そいつはラギは食わねえ。だが人用の食糧にはなる。寄越せ」
「はい。ラディも」
「俺は……いーや。食べる気、しねえ」
「ラディ……東に進んでるんだったね。クルンさんに地図を昔写させてもらったんだ。確かここに……あった」
キュルルのメモの間に挟んであった、小さい地図を取り出す。
暗いのでよくは見えないが広げてみる。
現在地はどの辺なのだろうか……。




