第68話 ドラグ対ファウ、ラディ、キュルル
決闘を申し入れて翌日のこと。
朝早くからキュルルを連れて、待ち合わせの場所へと一足先に到着した。
その場所は広い高原で、戦うには持ってこいの見晴らしだ。
城は良く見えるが、天気は少し怪しい雲行きだった。
昨晩はラディと共に作戦を練りあげ、準備は整っている。
そう考えていると、眠そうな目をこすりながらラディがやって来た。
「おはよー……ねみー」
「ラディお早う。良く眠れなかった?」
「ああ、全然眠れねーよ。ファウは平気そうだな」
「キュルルがそばにいたからね。ラディも泊ってけばよかったのに」
「そーもいかねえよ。冒険者になってから、親がうるさくてなぁ」
「あはは……そうだよね。なんだかんだでまだラディ、十歳だし」
「ファウなんて九歳だろ? 本当、妙に大人びてるよな」
うっ……そこにはあまり触れて欲しくないなぁ。
実年齢でいうならもう二十七歳にもなるわけで……。
もう何年かしたらちゃんと、大人っぽい話し方も考えないと。
ラギ刻限式時計を見ると、表示は三匹。現在は九時位かな。
キュルルの食事も済ませてあるし、戦いの準備はばっちりだ。
アスランさんからの助言ももらっている。
――それからしばらくして、ティオンさんやラーギルさん、アスランさんも来た。
後はドラグだけだ。
「ファウ君、ラディ君。くれぐれも無茶はしないように。相手はスミグニの暴れ者なのだろう?」
「お早うございます、ラーギルさん。なるべく気を付けますけど、僕たち負けたくないんです」
「大丈夫だって。直ぐ参ったって言わせてやるぜ」
「奴は死んでも参ったとは言うまい。忘れるな。実力を認めさせることに集中するんだぞ」
「ちぇっ。あれから随分強くなったんだぜ。アスランもファウみたいなこと言うなよな」
「お前はそれでいい。ファウがしっかり調整してくれるだろう」
「……何だよ、どーせ俺は考えなしだよ」
「ああ、拗ねちゃった。でも相手はドラグだからね、大怪我しないようにだけ気を付けよう」
ラギ刻限式が四つ灯る頃に、ドラグは木剣を肩に担いで現れる。
紫色の鉢巻きに、紫の腰ベルト。軽鎧にしっかりした黒いブーツを履いている。
鋭い目つきに褐色の肌。一流の戦士という風格を十分に持っている相手だ。
その風貌に、俺とラディは息を飲む。
「おら、さっさと始めるぞ。てめえらと違って暇じゃねえんだよ」
「嘘つけ。お前暇だろ!」
「僕たちだって暇なわけじゃない。時間を使ってでも謝らせたいだけだ!」
「そうさせたけりゃ、実力をみせることだな。いや、俺に一発でも当てられたらてめえらの勝ちでもいいぜ」
「ふざけんなよ! その顔面に何発もお見舞いしてやるからな!」
「おうおう、精々手が届くといいな、お嬢ちゃん?」
「その辺で挑発するのは止めてもらおう。私は宮廷風術師、ララティーヌ・リオン。立会人を務めさせてもらう。止め役としてラーギル・クリストフ先生、並びにオオグニ族族長のアスラン殿にも見守ってもらう。この決闘は制約を持って行うものとする。危険だと判断された場合ただちに武装解除するように。いいな!」
「ああ」
「ふん。分かってるよ」
「両者の装備を確認する」
ラディは短めの木剣二本。俺は武器を所持していない。
持っていた装備は全部アスランさんに渡してある。
ドラグも持ってきた木剣以外の護身道具は全てラーギルさんに預けた。
ラディは動きやすいようにした装備だが、頭には皮細工製のヘッドギアと胸部分をかばう装備を装着している。
俺は今後の旅を考えて、灰色の目立たないローブを購入。
無くしてしまった伸尖剣の代わりに、ラギ・アルデの力を伝えやすいという素材で出来た杖を購入した。
とはいっても両方合わせて金貨一枚程度の安物だ。
お金はあまり使える状況じゃない。
「三人共、開始位置について。合図は私が行うから」
ティオンさんが俺、ラディ、キュルルとドラグの間に立つ。
ドラグの視線はずっとキュルルで固定されている。
睨みつけるようなそんな目だ。
今のキュルルはすっぽりと皮製品におおわれている。
竜にはとても見えないのだが……これはアスランさんの言っていた通りになりそうだ。
その場でブンブンと軽々木剣を振るいだすドラグ。
風切音が半端じゃない。
横に一閃されるだけで、こちらに風が飛んでくるかのようだ。
「……いいね。くれぐれもやりすぎないように。開始だ!」
まず先制したのはラディ。いつもながらの素早い動きでドラグへと近づく。
ドラグは完全に様子見。開始地点から一歩も動かずキュルルの動きだけを目で追っている。
キュルルは練習した通りに、ラディと反対周りに進んでドラグの背後から氷の息を吐きかける手はずだ。
ドラグはラディを見てすらいない。これだけでも十分な挑発になる。
キュルルを物凄く警戒しているように思える。
俺にすら意識を回してなどいない。
「ドラグ、やる気あんのか! おらぁーー!」
「ふん」
ドラグの左横から横殴りに短い木剣のうち一本を突き刺す形で振るうラディ。
それに合わせるようにして、少し離れた場所からキュルルが氷の息を吹きかける。
――その直後、何が起こったのか見ていたのに全然分からなかった。
ラディの片方の木剣は大きく吹き飛び、振るっていたラディも弾き飛ばされる。
キュルルが吐いた氷の息の場所にドラグはおらず、キュルルに木剣を真正面か
ら振り下ろそうとしていた!
「ガルンヘルドア!」
「ちっ」
正確にその位置へ狙い撃ちの炎を放つと、斜めジグザグにステップをするよう回避するドラグ。
急いでキュルルへ俺の下へ戻るよう指示を出し、その間に吹き飛ばされたラディが体制を立て直す。
「氷だけじゃなく火も使えたのか。クソガキが」
「ガルンウィガド!」
今度はラディが離れた位置から風のラギ・アルデ術を行使して一気にドラグへと近づく。
ただ、風術を使って近づいても方向転換するのが厳しい。
勢いがついているだけあって、タイミングを合わせて攻撃されれば自分が被るダメージも大きくなってしまう。
「ファウ!」
「ガルンウィガド!」
「ちっ。こいつ味方に風術を……おいおい風も使えるのかクソガキが!」
ラディへ俺が風のラギ・アルデ術を行使して、身構えて攻撃姿勢に入った瞬間ラディの進行方向を変える。
それに合わせてキュルルに再び氷の息を吐かせて視線を誘導した。
ドラグは姿勢を崩され、身動きは直ぐに出来ないはず。
着地したラディはすぐさま飛び上がり、攻撃に転じる。
「三方からの攻撃だよ! ガルンフロガト!」
氷のラギ・アルデ、氷の息、そして至近距離からラディの二剣の攻撃。
今度はかわせないだろう! ……そう思ったのに。
「円舞流水」
信じられない光景を見た。
キュルルの氷の息と俺の氷の力、そしてラディの木剣を水圧のようなもので切断してみせた。
しかも……無詠唱だった。
ラギ・アルデの力を用いるときは詠唱を必要としていたはずなのに。
明らかに木剣から放出された水圧でそれをやってみせたのだ。
しかも、斬った水圧はそのままキュルルへ一直線に向かっていく。
慌ててキュルルをかばうため、氷のラギ・アルデをキュルルの正面に打ち立てた。
「ちっ。クソガキ相手に技まで使うはめになるとは」
「俺の木剣が……何だ今の」
「ラディ」
「ぐあっ……」
木剣を折られ、完全に油断していたラディに容赦ない蹴りが入れられる。
……いや、容赦されてる。あいつが本気で蹴ったらラディは今頃……。
「ガルンヘルア!」
「当たるかよクソガキが」
「キュールルー!」
「ちっ。てめえが一番厄介だぜ! ふざけたものを用意しやがって!」
跳躍した……なんて跳躍力。普通に飛んだんじゃそんな飛べるはずない!
絶対ラギ・アルデの力を使ってるはずなんだ……なのに全然分からない。
まだまだこの力には先がある。そう感じずにはいられなかった。
木剣を振りかぶりキュルルに向けようとしたものを、杖で受け止めると……片方の拳が腹に突き刺さる。
「ぐぇ……ガルンフロ、ト」
「けっ。もらったぜ! ……てめぇ、自分の体ごと……」
一度でも触れられたらやろうと決めていた。
物凄く痛いし、あばらが折れたかもしれない。
でも、こいつはずっとキュルルしか狙っていなかった。
それを予測し邪魔するように戦えと。
そう指示したのはアスランさんだった。
「ぐ……ラディ!」
「ちっ。だから氷は厄介で嫌ぇなんだよ! クソガキが!」
蹴り飛ばされたラディは酷い形相で一気につめよると、切断された木剣など打ち捨て、頭からドラグの顔面へ突撃していた。
「こんにゃろおがーーーーー!」
……ラディの頭は見事、ドラグの顔面にクリーンヒットしていた!
「ぐっ……この、クソガキ共がぁーーー!」
「それまで! お前が提案したことだろう。お前の負けだ」




