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第65話 今回の依頼は……

このお話では視点が統一されていないため、三人称視点に統一することにしました。

最初に読んで頂いた方は、おい、よく分からないぞ? と思われたでしょう。

お詫びいたします。このころはまだまだ読み手側への意識が足りていないですね……。


 ここはエストマージ周辺の小川。

 町に着いて直ぐ冒険者依頼斡旋所、マージへと駆け込んだクルンとラディは、マージ内にある相談所へ向かうと、一連の報告を終えて、手分けして協力者を要請した。

 クルンはファウの家主であるネビウスの下へ向かい、ラディはいてもたってもいられずに、疲れた体を引きずりながらアスランと共にファウを探していた。


「ファウ―、ファウ―! くそ、一体どこに流されたんだ」

「落ち着け。彼ならきっと大丈夫だ。もう立派な戦士の面構えになっていたよ」

「ファウ、来たのか?」

「ああ。お前たちが依頼を三つこなし終わったら、ドラグと戦うことを許可しようと考えている」

「……でも、俺たちきっと今回の依頼失敗だよ」

「なぜだ」

「あの化石……急いで帰る途中割っちまったんだ。まだ提出してないけどさ」

「そうか。仮にそうだったとしても、また依頼をこなしていけばいいだろう」

「ああ……なぁアスラン。どうしてスミグニの奴らは協力してくれないんだろう。なんで俺たちを嫌ってるんだ」

「……お前がまだ物心つく前の話だ。ドラグと戦えるようになったそのときにでも話すとしよう」


 ファウを探しながら、自分の目をこすり探し続けるラディ。

 急いで戻ったラディは、ほとんど睡眠をとっていない。

 体力も限界で、戻る道中石につまずいて、化石を割ってしまった。

 クルンは散々気にしないように伝えたが、ラディは悔しくて仕方が無かった。


「ラディ。後は私が探しておく。戻って休め」

「嫌だ! 睡眠なら戻る途中少しだけとったよ。だから……」

「お前はよくてもその生物は限界だろう。それではファウに笑われてしまうぞ」

「う……でも!」

「ファウなら何を優先にすると思う?」

「……大切な、命」

「その通りだ。お前はどうだ? ラディ」

「でも、でも俺のせいでファウは」

「無理した結果、お前のせいでその生物を失ってもいいのか?」

「……分かった。後は任せるよアスラン」

「おーーーーい!」


 ラディがファウの捜索をアスランに任せようとしたときだった。

 高い木から誰かが飛び降りて来る。


「ガルンウィガド!」


 ふわりと浮いて着地したのはティオン。

 彼女も急ぎ駆けつけて探すのを手伝ってくれていたようだ。


「見つけたよ。随分歩き回った後だったみたいでバテバテのヘトヘト。それに……ああいや何でもない。あんなとこまで流されてたなんて。よく助かったよあの子。あのまま流されてたら、海まで向かってたかもね」

「ほんとか? ほんとにいたのか? 無事なんだよな? なぁ姉ちゃん!」

「わわっ。大丈夫だって。今ラーギル先生を向かわせてるから。君たちは戻ってていいよ。後は私たちに任せて。休んだほうがいい顔だけど、休みそうにないね」

「あれ? 俺ティオン姉ちゃんに言ったっけ? 今回の依頼について」

「えーっとね。それもマージに行けば分かるかな」

「えっ?」

「ほらほら行った行った。それとその生物についても報告ね。はい、行く!」

「やっぱティオン姉ちゃん怖ぇなー。マールの姉ちゃんより怖いや」

「あらぁ? 風術の特訓、もっと厳しくしようかなー」

「うっ……行ってきます!」


 ファウが無事だと聞き、勢いよく駆けていくラディを見てクスリと笑うティオン。

 しかし直ぐに真剣な顔付きへと戻る。


「オオグニ族、族長アスラン殿。協力感謝する」

「こちらが好きで行ったことだ。国家の依頼でなくても引き受けた」

「それでもです……状況は聞いてますね? 今回の件、貴殿はどうお考えを?」

「依頼内容はマージ発行による手はず通りのものなのだろう。襲って来たのは物取りの類にしてはやり方が手ぬるい。私がそうなら相手を真っ先に殺す術を考える」

「私でもそうするだろう……一つ、仕事を頼まれてくれないか」

「それは国からの依頼か。それともあんた個人の依頼か」

「私個人の依頼だ。だから断ってくれてもいい」

「……いや、引き受けよう。少々気になることもあるからな」



 ――アスランとティオンが話している頃、ファウは川を背にして真っすぐ進んでいた。

 道には緑が溢れ、虫も多くいる。

 川辺を歩いていたファウは虫に刺され、そこら中が赤くなっていた。

 髪もぼさぼさでお腹が鳴り響き、疲れ果てている。


「ふうふう……この草、食べれるかな……お腹、壊すかなぁ」

「キュー、キュー……」

「きっと、もうちょっとなら大丈夫だよキュルル。もうすぐ食べれる木の実でも生えてるから……」

「キュー!」


 ほんの少しの段差を越える力も残っていないのか、すでにラギ・アルデの力も使えなくなっていた。

 しかし倒れるわけにはいかないと。一歩、また一歩と前に進んでいく。


「まだ、歩ける。まだ歩けるから……キュルル?」


 キュルルは前に進むと、ファウが歩きやすいように周囲の石を口にくわえてどけだした。

 そんなキュルルもファウと同じくフラフラしている。

 ファウは心に強く感じる。自分が今歩けているのはキュルルのお陰だと。


「キュルル。ご飯、食べて」

「キュー!」

「ダメだよ。僕は大丈夫だから。だからお願い、食べて」


 歩き始めてから一度もキュルルは食事を取っていなかった。

 ファウが食べていないからだ。

 ファウの食糧は全てラディに預けた荷物の中。

 ファウが、もうダメだと思ったそのとき――「やれやれ。随分と危ない状態だったようだ。見つけられるのが一日遅れていたらどうなっていたことか」

「ラーギル、先生?」

「これが君の……なるほど。私とティオンだけで良かったよ」

「……キュルルのこと、分かるんですか」

「ああ。美しくも恐ろしい竜種。コーガ・ユーナの血を引く竜。かつて人を越える数が生息し、世界はコーガ・ユーナにより支配されていたという。今でもコーガ・ユーナは広く知られているが、この竜はラギそっくりだ。つまり原種に近い亜種……と予測するがね」

「原種に近い……亜種?」


 ラーギル先生の顔を見て安心したのか、ファウはその場に座りこんでしまった。


「先生、あの……」

「おっとすまない。直ぐに水を飲ませるよう言われていたんだった。さぁ飲みなさい。ゆっくりと」

「僕より、キュルルに……」

「やれやれ。この竜は君が無事でないと飲みはしないだろう。竜とは忠誠や恩義に厚い生き物だ。君のそばを守る様に離れようともしない。いい関係だと私は思う。だが、この国において知られるべきではないな。さぁ」

「キュー!」

「キュルル、ダメ! 大丈夫だから。僕の知り合いだよ。ご免ね。気が立ってるんだよね」


 キュルルが凄く警戒しているのは、ファウがとても弱っているからだ。

 今にも飛びつきそうになったキュルルを制し、ラーギルから水を受け取るファウ。

 それをじっと見て、安心したようにキュルルはその場に座り込んだ。

 ラーギルはニッと笑ってみせると、そのままキュルルにも水を飲ませるよう合図をする。


「あの、ラーギル先生! ラディとクルンは無事ですか!?」

「ああ。彼らのお陰で君を発見出来たんだ。心配して待っているよ。さぁ、急ぎ帰るとしよう」


 直ぐ近くに大型のラギを連れて来ていたラーギルは、ファウとキュルルをそれに乗せて直ぐに走り出す。

 それはラギ車よりとても速く走り、時間を要さずにエストマージ付近まで到着する。 

 門の入り口前ではラディとクルンの二人が待っていた。

 全員で再会を喜び、二人に深く感謝するファウ。

 二人とも既にバテバテのドロドロ。

 休まず探してくれていたのだろう。

 そしてそのま冒険者依頼斡旋所【マージ】へと向かう三人。


「あーーーーー! お三方戻って来ましたぁーー!」

「わわっ」

「ちょっと待て俺たち泥だらけだぜ! ティオンさんの言ってた行けば分かるってミルル姉ちゃんのことかよ!」

「ふふっ。さすがに淑女は触れたりはしないでしょう……うわっ!」

「いよかったよぉーーー! 死んじゃってたらどうしようかと思ってばしだぁー!」


 お構いなしに引っ付くミルル。

 どさくさに紛れ、クルンに引っ付いている。


「あのー……」

「姉ちゃん。俺たち本当に汚いぜ」

「ううっ。お風呂が恋しい。それに……」


【ギュルルルー】


 三人でけたたましい胃袋の音を奏でる。

 その音でミルルがクルンから名残惜しそうに離れると……「うわー! 私、泥だらけ!? 汚されちゃいましたぁ……もうお嫁にいけない、くすん。ちらっ」


 流し目でクルンを見つめるミルル。

 全員でさっと真横を向いた。


「あのー。それよりも報告を……」

「はっ!? そうでした。お仕事しないと怒られますぅ! ええっと、シンクゲイドルの化石はいかがでしたか? 見つかりましたか?」

「これなんだけど、割れちまっててさ……」

「ふむふむこれは……シンクゲイドルの化石ではなくベニコイルの岩……ですね」

「ええっ? これ違うのか?」

「はい。残念ながら……それよりも、実は既に報告を聞いてるんですが、その子……」

「ああ。多分シンクゲイドルの子供……だよな」

「ピリィー……」

「ああっ、やっぱり! この子がいたということはその場所にあった可能性は高いです」

「そうか……それなら残念ながら今回の依頼は失敗かな」

「ちょっと待ってください。そのシンクゲイドルの化石って、シンクゲイドルの鱗が元となる化石ですよね? それならこの子を連れ帰った方が、シンクゲイドルの化石複数分に相当するのでは?」

「実は……その通りなんです。化石は見つからない可能性も考えてました。何せ五年も依頼未達成なんです。そのため代価案がこの依頼にはありまして……それに準ずるものの発見でも合格にしないと次に進まないということでですね……ベニコイルでも達成で良いとする案が出てたんです。ところが割れてしまっていたとなると……だったんですがそれよりもっと凄い! シンクゲイドルの子供を見つけてきてしまった! これはもう満点合格に違いないですよ!」

「なぁ姉ちゃん。俺、こいつを育ててーんだけど、それって出来るのかな?」

「うーん。そちらはティオンさん次第ですね。でも多分、ダメって言いそう……」

「なんで?」

「絶滅危惧されているからです。きちんと手厚く保護して育てると言いそうですね。それに、実はなんですがシンクゲイドルってこの大陸の気候に合わない生物らしいんですよ」

「もしかして暑く乾燥する地域に生息していた竜だったりするんですか?」

「あら、よく分かりましたね。その通りです」

「何でそんなこと分かったんだ? ファウ」

「実はずっと考えてたんだ。どうしてゴーガルギンに追いやられたとして、森の中で生きていけなかったんだろうって。あの森は海や川に近く気温も低めだったでしょ? 寒いのが苦手な竜だと、生きていけないのかなって。この竜は空も飛べ無さそうだし、逃げ道もないから」

「ファウさん! 生態観察がお好きなんですね!? ラーギルさんにぴったりですね!」

「話を割ってすまないが……それじゃ今回の依頼は達成?」

「はい! 達成ですよ! おめでとうございます三人共! まずは褒賞の……金貨一枚です! どうぞー! 後日粗品もご用意いたします!」

「う……あんな苦労して死にかけてこの報酬だけなら本当に辛いね」

「ああ……でもさ。この金貨、何かすげー嬉しくねーか?」

「そうだね。私たち全員無事にここまでたどり着けた証だ。提案なんだが……」

「うん。その提案僕も賛成!」

「俺もだ!」

「まだ何も言ってないのに……君たちとは馬が合う。これからも仲良くしてくれるかい?」

「当たり前だぜ! クルンはもう、俺たちの友達だからな」

「うん。また一緒に冒険しようね、クルン!」


 こうして初めての依頼を無事終えた三人は、その後仲良く食事を取り、帰路に着くのだった。

最初の依頼、完。細かい部分を詰めても五千文字近くになってしまいました。。

昨日書いたときは八千文字程になったので大掛かりに修正したのですが、展開の速さも大事! 

ということでぎゅぎゅっと絞ってみました! 

66話目からはまた新たな展開を考えています(ストックゼロなので毎日相変わらず書いてる紫電です)

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