第64話 また、二人っきりだね
「ファウーーーーー!」
「ファウ、ファウーー! いけない。とてもおいつけそうにない。少し強行してでも町へ戻って報告しよう!」
「ああ。オオグニの奴らにも伝える! あいつは……もう俺にとって家族みてーなもんなんだよ!」
「分かってるよ。君たちは、とっても仲の良い……私と、弟のような感じだった」
「弟? クルンは弟がいるのか?」
「いた……かな。三年前、事故で……私のせいだった。今はそれより早く戻ろう!」
「分かった。余計な荷物はここに置いて行こう。ファウの食糧も、この中に入ったままだ……」
「彼の荷物にはほとんど入ってないのか?」
「フェスタとキュルルの食事以外、ファウの使ってる道具だけだ」
「何ていうことだ。せっかく上手くいっていたのに……」
ラディとクルンは急ぎ反対側に渡り、ゴーガルギンの荒野へと出る。
幸いにもかなり下った後だったので、町までは一日あれば行けるかもしれない。
二人は余計な荷物をその場に置き捨て、急ぎ足で町を目指した。
――その頃ファウは「ああ、どうしよう。キュルル、キュルル」
「キュー……」
「ごめんね。無理して頑張ってくれたのに僕ら、岸に渡れなかった。でも大丈夫。僕がついてるから。絶対キュルルを無事に連れ帰るからね」
流れは急なままだ。止められそうにない。方向も変えられない。
進むだけ進むしかない。キュルルの体力はもう限界。
俺がどうにかして守らないといけない。
氷はまだ持ちそうだし、タイミングを見計らい離脱出来るかどうか。
キュルルは重いけど、抱えられないわけじゃない。
今は待つんだ……チャンスは絶対来るはず。
――そう考えて、どれほど時間が経っただろう。
周囲は日が沈み暗くなってきている。
どんどんと流される一方だ。このままじゃ、まずい。
ラディが置いていったオウル替わりに使おうとしていた木の棒に火を灯して周囲を観察する。
水の流れは随分と緩やかになっている。
だが、川の中州辺りから動けずにいるこの状況が非常にまずい。
水面を凍らせて移動するにも、この辺りは水底が深すぎる。
激流部分はもっと浅かったから凍らせやすかった。
こっちは流れが緩やかな分、底が見えないほど深い。
落ちれば溺れるに違いない。
体力も限界に来てる。氷もそろそろ限界に違いない。
どうしたら……そう考えていると、ようやく再度分岐するような地点へと到達した。
「このチャンスを逃したら、助からなくなるかも。キュルル、じっとしててね。コートアートマ!」
伸尖剣をとても長い三又状に変化させる。
こいつとは長い付き合いだった。
でも……ここでお別れだ。
今まで、守ってくれて有難う。
父さんからもらった、自分がオズワット・ブランザスの子供であることを証明出来る数少ないものの一つ。
一度目はエーテを助けてくれた。
そして今度は……「お願いだ、僕とキュルルを守っておくれよ! ガルンフロガト!」
川の底へ向けて長く伸ばした伸尖剣を突き刺す。どうにかぎりぎり深い底に刺さってくれ
た!
正面が三本の氷柱でおおわれて、筏が停止する。
キュルルを担いでどうにか川の中央部分に出来た岸に上がることに成功。
ダメだ、もう一歩も動けない。
そんな俺を心配そうにして、顔を舐めてくれるキュルル。
ご免よ。頼りない親で。もっと成長して、頼ってもらえるようになるから……。
今、ご飯を、あげるから待っててね……。
フェスタ、広げられないや。
「キュルル……ご飯、だよ」
「キュー……」
わずかに荷物から草を出すと、キュルルを抱えてその場で倒れ込んでしまう。
頭の中にラディとクルンの顔が思い浮かぶ。
二人は無事だろうか。
この後どうなってしまうのか。
一体どこまで流されてしまったのか。
そう考えているうちに、意識が徐々に途切れていく。
――――「あ、れ……寝ちゃったのか。ここは……」
「キュー! キュー!」
「キュルル? 良かった、天国じゃないみたい。岸辺に上がれて無事だったんだ。良かった……けど寒いっ!」
日が登り朝を迎えていた。
岸辺の直ぐ近くが草だったので、多少の暖を取れていたのだろうか。
早朝の冷えで目が覚めて良かった……と思ったけど、キュルルが直ぐ近くにいて暖かかったのかもしれない。
キュルルも少しは元気を取り戻したようだ。
餌もちゃんと食べてくれていた。
「わぁ……」
昨日は暗くて気付かなかったけど、その岸辺から見る景色は絶景だった。
二手に分かれ、規則正しいように美しく流れる水。
その水が朝日を浴びてきらきらと反射している。
残念ながら伸尖剣は見つからなかったが、この岸辺に上がっていて正解だった。
反対側は更に速度を増すきっかけとなる段差があり、どんどんと陸地から離れる方へと続いている。
あそこでためらっていたら死んでいたかもしれない。
この世界は前世と違って、死と隣合わせだ。
いいや、本来人間は常に、死と隣り合わせなんだ。
それを覚悟して生きなければならない。
特にこの子だけは、何があっても俺が守りたい。
それが命を救ってくれた恩返しなのだから。
「キュルル。もう少し休んだら出発しよう。対岸へは……うーん、どうしよう。お腹空いたな……」
「キュ!」
「え? これ食べてって? あははは……有難うキュルル。僕は大丈夫。キュルルが食べてね」
「キュー?」
「本当に平気だよ。それにこれ食べたら多分、僕お腹壊すから……対岸はゴーガルギンの荒野にはみえない。お城もここからだとよく見えないなぁ」
キュルルにしっかり食事を取らせると、土を丸く固めて川へ沈めてみる。
……やっぱり相当深いから、泳いで渡るのは危険だ。
「この木……倒せないかなぁ?」
「キュー、キュー!」
木を倒そうとしているのが分かってか、一生懸命頭で押して倒そうとするキュルル。
可愛いけど、それはいくらなんでも無理だ。
「押しても倒れるような木じゃないよキュルル。ナイフじゃ切れないし……そうだ! コートアートマって多分ナイフにも使えるよね。やってみようかな」
「キュ!」
「コートアートマ!」
アスランさんにもらったナイフをコートアートマで形状変化させる。
すると……「おお、のこぎりみたいに出来た! 全然ダメなのこぎりだけど」
歪みまくった大きなのこぎり形状にしたナイフを、そこまで太くはない木に当てて切り始める。
ギュルギュルとお腹はなるけど、考えてる暇は無い。
ニ十分程は掛かっただろうか。木を切り倒すと、いい感じに反対側へかかる大きさだっ
た。
流されないよう直ぐに両脇を氷で固定する。
キュルルを先に進ませて、後からついて行くと……「キュー!」
「あっ! キュルル危ないよ!」
わざとなのか、川に足を突っ込んでしまうキュルル。
もうじきエストマージ川の陸地なのに! と思ってたら、キュルルは川を泳いで遊び始
めた。
「キュルル、泳げたんだ……そういえば川で遊んだことは無かったね」
「キューー!」
「楽しそう。でもラディの皮鎧がびしゃびしゃだ……此処で休憩しようか」
フェスタを広げて反対側に渡った木を少し切って枝を取り、火をつける。
その場で少しうとうとしていると、空腹ではっと目が覚める。
「キュー……」
「大丈夫だよ。お水はあるし、直ぐに死んだりはしない。それにしてもどこだろうね、ここは」
「キュー?」
分岐は二回あったし、大分下流に流されたと思うから……もしかしてエストマージ国よりずっと南方? だとしたら馬車で来た道の途中のどこかなのかな。
乗り物酔いで外の景色全然見る余裕は無かった。。
正確な方角も少し分からなくなってきてる。
川がエストマージの西方面であることだけは確かだ。
まずは川から離れてみよう。




