第60話 灰様樹の森にて
灰様樹の森に入った俺たち。
森というのは様々な虫がいたり、不思議な生物がいたりする。
旅に出てまだ三日目だが、今このひと時をとても楽しく感じていた。
「まずは写した簡易地図で竜の嘆きへと向かおうか」
「俺が先行するぜ。枝払いは必要だろ?」
「それじゃ僕とキュルルで周囲を警戒するね。ラディがもう一人いたらいいんだけどなぁ」
「彼は耳も良いし、手先も器用で本当に優秀だね」
「なにせラディはいきなり二ツメだったからなぁ。僕も頑張らないと」
「それは運が悪かっただけだろ!」
話ながらも手早く枝を落として進んでいくラディ。
ラデイは昨日手に入れたメドロツノガイの皮を用いて、キュルル用の靴まで作ってみせた。
小さくて可愛い靴だが、これで多少は地面からの攻撃も防げるだろう。
ただ、靴を履くと爪が使えないので少々嫌がっており、爪先部分だけ仕方なく削り取ってある。
キュルルの爪は、まだ武器と呼ぶには程遠い。
成長したころには、もっと立派な爪に生え変わっているんだろうな。
「かなり北西に進んだ先のようだね。方角が分かり辛くなるといけない。目印を造っていくよ」
「枝を落として切り口作ってるけど、それじゃ駄目かぁ?」
「もし雨が降るとクルンの造った土でも分かり辛くなるかもだね。どうしよう」
進むのを一旦停止して、三人と一匹で考え始める。
ええっと、前世だとどんな方法があったっけ。
確か……マーキング用のテープだったかな。
でも、この世界にテープは無いし……そうだ!
「木が灰色なら都合がいいかも。でも、木に書けるか分からないけど……」
小さめの灰色の枝を持ち、直ぐ近くのアシェンシアの木まで近づく。
「トルノアートマ」
その枝にラギ・アルデの力を通して印を書いてみると……黒色ではなく濁った茶色で文字が書けた。
何で黒じゃなく茶色なのだろう? 本来この枝が持つ色なのかな?
でも、これなら印は残せておけそうだ。
書いた後に文字が消えないか試してみたが、消えそうにない。
水をかけてみたが、それでも消えない。
時間とともに消失するかもしれないが、ひとまずの目印としては十分だろう。
「無属性の文字を書く初歩の術だね。確かにその方が都合がいいか。周囲一面灰色なら目立つだろうし」
「やっぱファウは直ぐそういうの思いつくな。俺じゃ全然思いつかねーのに。ファウはすげーよ本当」
「私も同じだよラディ。これなら竜の嘆きまで一番早い道で進めそうだね」
「ただ、それなりに疲れると思うから二人にも少し協力して欲しいかも」
「もちろんだよ。ぜひ協力させてくれ」
「なんなら枝落としながら付けて進む方がいいだろーしな。へへっ。早く行こうぜ」
――そのまましばらくは順当に進んでいた。
途中珍妙なキノコや枝に止まる変な生物も沢山目にしたのだが、まずは目的地へ到着するためどんどん進む。
そして――「この辺りがそうだが……少しも切り開いたような跡が見当たらないね」
「メドロツノガイはいるけどな。美味そー……」
「キューー!」
「ダメだよキュルル。これだけ深い森だし、きっとどう猛な獣だっているはずだよ。賢い獣ほど慎重に行動するはずだから、まずは周囲に気を配らないと」
「ああ。結構な数の獣が周りにいるぜ。カサカサ音が沢山する」
竜の嘆き……どんな場所かと思ったけど、灰色の木々で埋め尽くされた場所だ。
どの辺りまでが竜の嘆きなのかは分からないけど、こんな場所に本当に化石があるのだろうか。
「しかし……単純にここへ来て探すだけであるならば、とっくに依頼を達成させているんじゃないか?」
「掘り出すのが大変とか? でもなぁ……掘り起こしたような跡もねーし」
「依頼を受けられるのは年二回で、五年は成功していない依頼だもんね。それなら掘り起こした跡くらいはありそうだけど」
……そうすると場所が違うのか、あるいは誰かが定期的に戻している?
それか、自然に戻るような力が働いているとか、後は……ここに住んでいる生物が戻しているとか。
いずれにしても他の冒険者は見当たらない。
こちらは杞憂だっただろうか。
「オーレイスさんの話はどんな内容でしたっけ」
「確か、化石が発見出来る可能性があるのが灰様樹の森にある竜の嘆きということだったはずだよ」
「発見出来る可能性か……」
「んー、とりあえずその辺をを掘り返してみよーぜ」
「うん……ええと少しだけ考えてみてもいいかな?」
「ああ。そういうのはファウの役目だしな。んじゃ俺とクルンで周りを掘ってみる」
「ファウ。息詰まったらそれはそれで構わない。休める場所も探しておくから」
「うん。二人とも有難う。気を付けてね」
ここまでのことを思い返せば、ヒントはきっとあるはず。
まずシンクゲイドル。そして深紅色の鱗。
現在はわずかに化石が取れるだけ。
ほぼ絶滅した竜。
理由は恐らくゴーガルギンという地中の虫。
あの虫が生息するのはゴーガルギン荒野付近で良質な土だ。
この辺りの土質はどうだろう?
あまりいいとはいえない気がするが、緑豊かな土地だ。
ここにはアシェンシアという灰色の木が沢山生えており、周囲には緑があるし、食用となりそうなものも多く存在する。
……なぜゴーガルギンはここまで来ないのだろうか?
この下の地層に問題がある? これだけラギ・アルデの力に満ちているなら無理やりにでもこちらまで来そうだけど。
来れない理由があるのかもしれない。
そもそもシンクゲイドルってどんな竜だったんだろう?
竜って基本的に空を飛ぶ飛竜が真っ先に浮かぶけど、地竜や水竜なんかもいるよね。
シンクゲイドルが仮に飛竜だったとしたら、絶滅なんてしないだろう。
水竜ならば、川は近いわけだから移住は簡単だ。
そうなると地竜か、あるいは……それに準ずる何かだったのだろう。
アシェンシアの木には特に果物などが実るわけじゃない。
葉っぱも灰色で食用には見えない。
生きていくためには糧が必要だ。
その糧は地上にしかない。
しかし大型の竜であれば生存競争で負けるとは思えないし……小型の竜種?
「キュルル。ちょっといい?」
「キュ?」
キュルルをじっと見つめて考えてみる。
この周囲に存在したシンクゲイドル。
仮に……ここにもゴーガルギンが生息していたとして。
このアシェンシアという木はどれも不思議な感じがする。
この大陸でのみ生えている木。
いや、前世でいう木の概念があるから気付かなかったけど、この木、どうやって成長したんだろう?
もしかして……この木一本一本がシンクゲイドルの亡骸なんじゃないのか。
それで竜の嘆きに沢山生えて……あっ。
「二人とも、ちょっと来てくれる?」
「ふぅ、ふぅ。いくら掘っても何も出ねー」
「これは、やはり無理な依頼だったのかな……今行くよ」
二人に事情を説明すると、クルンが少し首を傾げる。
「確かにどの程度昔から灰様樹の森だったかは分からないが……いやしかし、それならどうすれば化石が手に入るのだろうか」
「わずかに取れる深紅の鱗がどこで発見されたかにもよりますが、出来るだけ古そうな木の周囲を探ってみませんか。そういうった木があったらその木の上や下辺りも探してみましょう」
「闇雲に探すよりいいだろうね。よし、手分けして古そうな木を探そう」
「うへぇ。こんなに沢山生えてるのにか」
「だからこそ竜の嘆きなのかもしれない。オーレイスさんはそれを知っていたのかも」
「つまりここを管理しているのは王国やマージってことだね。意地悪だな……」
「依頼でもあり、試験なのかもしれません。さぁ探しましょう!」
まだ引っかかっていることはある。
もしゴーガルギンが昔はこの森にいたとして、どうして森からいなくなり荒野に移ったのか。
それをずっと悩みながら、一番古そうな木を探し始めるのだった。
ようやく辿り着いた灰様樹の森。
どんなことが起こっていくのか作者も楽しみです!(突然変なこと思いつくからコワイ)




