第59話 地中の寝床
耳をそばだててみると、かすかな音が地中の奥深くから聴こえた気がする。
これがゴーガルギンという生物なのかは分からないけれど、ここで俺たちを襲って来るようなことはあまり考えられないと思う。
襲うならもっと美味しそうなメドロツノガイだろうし……いや、待てよ。
嫌な予感がする。
「急いでここから離れよう。あの丘付近なら安全かもしれない」
「どうしたんだ? 変な音は聞こえるけどそんな急がなくてもよ」
「いや、日が暮れる前に休める場所を探した方がいいのは事実……おや、確かに音が聞こえる。それも近づいて来ているような……」
「ラディ、キュルルを背負ってあの丘へ急いで! 荷物は僕が持っていくから!」
「よく分からねえが分かった。行くぞキュルル!」
「キュ?」
「クルン、急いでキュルルがいた場所を土のラギ・アルデで固くして下さい」
「一体どうしたんだ? いや、考えてる場合じゃないか。分かった!」
「ガルンフロト!」
ラディが通った地面を少しずつ凍らせていく。
境界線は草がある場所かそうでないかだろうか。
氷で地面を固め終えたらクルンにもラディの後を追ってもらい、離れてもらった。
予想が正しければ……出る場所はキュルルが座っていた場所だ。
ゴリゴリというような音がとても大きくなり、ボコリと地面がえぐれて、予想を上回る大きなものが飛び出してきた。
ミミズのような巨体の虫。
土質がいいのはこいつが土を掘り返して綺麗にしていたのだろう。
鼻も目も見当たらない。クルンが固くした土部分を食べているようにみえる。
それが終わると今度は氷を食べ始めた。
氷の道は徐々に細くなり、丘から横に逸れるように造った。
「……ガルンヘルア!」
少し離れた位置に火の玉を打ち出し、場所を直ぐ離れてみる。
するとゴーガルギンとおぼしき生物は、火を放出した方面を一度向いた後、火を放った場所へと向かってその土を食べ始めた。
地面にあるラギ・アルデの力を感じ取り捕食するのか。
あるいは地面の音を聴き取り、そこへ捕食を始めるのか。
いずれにしてもシンクゲイドルがこの周囲で生活出来なくなったのは、このゴーガルギンが原因かもし
れない。
今のところ一匹だけだが、これで全部とは限らない。
地中深くで生活しているなら気付かない可能性もある。
大きい虫ではあるけれど、ドラグと対峙したときのような恐怖は感じない。
もう少し調べてみないと。
「あ、あーー、あーーーー」
声を出してもこちらへ反応を見せない。
そうするとやっぱり……今度は靴を脱いで、素足で地面に踵を設置してみた。
すると……土に潜り急いでこちらへ向かおうとする。
慌てて靴を手に取ると、その場を離れて地面を凍らせ、その上で靴を履き直した。
道理で草木一本生えないわけだ。
ただの靴じゃラギ・アルデの力はほとんど働かない。
それでもこいつが空腹であれば捕食される可能性もありそうだが……。
生物や食べられる草、木などの力に満ちたものを地面で感じ取り捕食する虫。
その虫が恐らく地中に沢山いるんだ。
地面が良質であれば、飛んできた種子などで草は生えるし、生えたそばから捕食しているのだろう。
見つからずに逃げて来られたのがあのメドロツノガイ二匹だけってことなのかな。
「ラディー! クルンー! ここでの休憩は止めて、森の入り口付近で休める場所を探そう!」
そう叫び、直ぐにその場を離れた。
丘の上までは踏み入らないようで、ゴーガルギンの荒野でなければあの虫は生きていけないかもしれない。
クルンとラディの場所までたどり着くと、二人に説明をした。
「もしかしたらあの虫がゴーガルギンって生物何でしょうか」
「実際に目にしたことがあるわけじゃないから何とも言えない。恐らくそうなのだろう。しかし驚いたよ。自分の体で実験するなんて。いざとなったら助けにはいったけどね」
「ある程度は目星を付けていましたから。それにしても危険な場所ですね。あれならまだ獣を相手にした方が楽かもしれません」
「あれ一匹くれーなら平気じゃねえか?」
「多分地面の下に一杯いると思う。それらが独立して攻撃してきたら、直ぐ食べられちゃうよ」
「うっ……あんなのが一杯いるのは嫌だな……よし、先へ進もう」
「もう日が暮れそうだよ。急いで野営地を探そう」
丘を急ぎ足で登ると、ようやく緑が見え始めて来た。
しかし周囲の木々は灰色で薄気味悪くすらある。
これも少し調べたいのだけれど、今はそれより休める場所を探さないと。
灰様樹の森……奥は暗いと不気味に見えるし、先が全然分からない。
周囲を手分けして探し始めたが……「たはー、駄目だ。この辺りじゃ全然いい場所ないぜ」
「困ったね……」
「提案なのですが、ここならあの虫は来ないと思うんです。あの虫をみて少し閃いたんですけど、土のラギ・アルデの力って地面を柔らかくしたりも出来ます?」
「うん? ああ可能だよ。直接土の壁を造るより、その方が断然疲れないし楽だよ」
「それなら……」
安全な場所がないなら造ればいい。幸いにもここは、灰色の葉っぱや木が豊富だ。
地中に休める場所を造ってしまえばいいのだ。
必要なのは空気や煙を通せる穴に、三人分眠れるスペース。
ふたとなる枝組、カモフラージュしてその入り口を隠せる草。
説明し終えると、直ぐ作業に取り掛かった。
クルンの負担が少々大きいが、俺たちは協力して日が沈みきる前にどうにか休める地中空間を造ることが出来た。
「たはー、疲れた。もう駄目だ」
「昨日のうちに今日分の食糧も用意しておいて良かったね」
「ふう。まさか地中に住処を造ってしまうなんて。その発想には驚いたよ」
「いえ……ええと本の受け売りです。それに僕だけじゃ出来ませんでしたから」
「ラディは風術が得意だったんだね。ほこりや残りの土を掻きだせたのは素晴らしい」
「ああ。まだまだ上手く出来ねーけど。ティオン姉ちゃんみたいに上手く使えたらなぁ」
火の煙が丘の方に上手く流れるよう調節も出来た。
単純に外へ煙が放出されるだけなら、獣避けにもなる。
「入り口周囲はキュルルが氷で固めてくれたから、獣もそうは入って来ないと思う。溶けるまでだけど」
「今日は先に俺が見張りするよ。ファウはちゃんと休めよな」
「有難うラディ。そうしようかな……もう眠くて」
「私も少々草臥れた。有難く休ませてもらうよ」
その後泥のように眠ってしまい、目覚めたときには三人一緒に眠ってしまっていた。
全員疲れ果てていたから無理もない。
地中に休む場所を作ったお陰か、十分なほど熟睡出来ていたと思う。
森の中だと地中には生物も多いだろうから、この休憩方法は難しいかな。
キュルルも起きていたので、直ぐに食事をあげて、一足早く外へ出てみた。
「うわぁ……」
昨日とはまるで違う景色が視界へ映る。
灰色と茶色い地面が織り成す幻想的な世界。
これからこの場所へ入るんだと心躍ってしまう気持ち。
果たしてシンクゲイドルの化石は見つけられるのだろうか。




